第3話 スキルオーブ


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 名前:百女鬼どうめき みなと

 Lv.2

 職業:新米探索士

 称号:なし


 HP=30/200

 MP=100

 ATK=4

 DEF=4

 MAG=5 

 AGI=3

 LUC=7

 成長値=2

 スキル:鎧冑の如く《F》←New

 スキルP:5

 

 ログ

 スキル『鎧冑の如く《F》を獲得しました。

 『ゴブリンLv.1』を討伐しました。

 ランダムスキルオーブが出現しました。

 レベルが上がりました。

 

 ――――――――――――――――――――



「きゃあああああああっ!!?」


「ウォごほぉ!?」



 絶叫のウララ。


 突然のその叫びでHPポーションを気管に詰まらせ、俺は盛大に咽せながら緑色の液体を撒き散らした。



『エクソシストにこういうシーンあったよな』


『あの緑ゲロ、シチューの味がした』


『きもwww』


『飲んだんかいwww』


『オイ、俺にも飲ませろw』



 気持ち悪い会話がウララのスマホから垂れ流されている。


 かわいらしい少女の電子音だから尚さら気持ち悪い。



「途中から聞こえてたけど、視聴者いんの?」


「そんなことよりお兄ちゃん!」


「え、そんなないがしろにしてもいい感じ?」


「あれ見て!!」



 俺の背後にスマホを向けるウララ。


 驚愕に満ちたウララの表情を捕捉するかのように、コメントが読み上げられた。



『お兄ちゃん、後ろうしろ!』


『ひ、久々に見たぜ……あれは』


『初めてみた、あれが噂の……!』


『おおおおおおおお! おめでとう!!』


『死闘乙でした。(笑) ——って、スキルオーブやんけ!!』



 スキルオーブ……?


 俺も背後に目を向けて、妙に納得した。


 粒子となって消えていったゴブリンの跡地に、虹色の球体が浮いている。


 ふわふわと上下に浮く手のひらサイズのソレは、とてもこの世のものとは思えないほどに美しかった。



「ランダムスキルオーブ! はじめて魔物を倒した時にのみドロップする超貴重アイテムだよ!」


「ほえええ」



 食い気味なウララから察するに、どうやら眼前のそれは、すこぶる珍しい代物のようだった。



「……いや、でもまあ……なんかすげえな」


「うん、すっごいヤツだよ!」


「いや……まあいいや」



 色々と思うことを飲み込む。


 迷宮とか、ゴブリンとか、さっきから広がってるステータス画面とか、ドロップアイテムとか。


 いったい全体、この世界はどうなってしまったのだろうか——という問いを想到そうとうするには、二年遅すぎた。



「お兄ちゃん早くはやく! はやくあれに触れて!」


「お、おう」



 もうすでに、彼女たちにとってはこれが日常。


 学校に通って授業を受けたり、時間を対価に労働したり。


 そういった当たり前が、もはや時代遅れ。


 今、この世界——いや、世界から隔絶された深江市では、命のやりとりが普通で。



「……もうすこし、はやく外に出るんだったな」


「ん? ん? なんか言ったお兄ちゃん?」


「いや、これで俺も引き篭もることができなくなるなって思うと、名残惜しくて」


「はやく自立して養ってよお兄ちゃん」



 もし俺が、もっと早くあの部屋から出ることができていれば。


 手に残る生暖かい感触。


 人ではない。犬や、猫やネズミでもないが、なんらかの生物を殺した感覚。


 ある種の気持ち悪さや嫌悪感を握りしめながら、俺はゴブリンの遺した神々しい死に触れた。




『——固有スキル:罪色欲之王アスモデウス《EX》を獲得しました』


『——称号、「淫魔の末裔」を獲得。職業「淫魔」が解放されました』


『——「淫魔」職業専用スキル:性魔術Cを獲得しました』


『——「淫魔」職業専用スキル:淫我Cを獲得しました』


『——「淫魔」職業専用スキル:絶倫Cを獲得しました』


『——「淫魔」職業専用スキル:強精Cを獲得しました』



――――――――――――――――――――


 名前:百女鬼どうめき みなと

 Lv.2

 職業:淫魔

 称号:淫魔の末裔


 HP=200/200

 MP=100

 VP=100

 ATK=4

 DEF=4

 MAG=5 

 AGI=3

 LUC=7

 成長値=2

 固有スキル:罪色欲之王アスモデウス《EX》

 職業専用スキル:性魔術C淫我C絶倫C精強C

 スキル:鎧冑の如く《F》

 スキルP:5

 

 ログ

 スキル『鎧冑の如く《F》を獲得しました。

 『ゴブリンLv.1』を討伐しました。

 ランダムスキルオーブが出現しました。

 固有スキル:罪色欲之王アスモデウス《EX》を獲得しました。

 以下略


 ――――――――――――――――――――



 怒涛の勢いでログが流れ、ステータスに項目が追加されていく。


 困惑する俺は、ウララに目線を向けた。


 ウララは、俺のステータス画面を見て愕然としていた。



「……うそ」



 泣いてるのか、喜んでいるのか、怒っているのか。はたまた照れているのか、恥ずかしいのか。


 そんなよくわからない表情をコロコロと変えながら、最終的にウララは俺から目を背けていった。



「お……お兄ちゃん……ヘンタイだってばさ」


「はぁ……?」


「い、いったん配信おわり! 帰ったらまた配信ってことで!」



 慌ただしくウララはスマホをポケットにしまった。


 配信を終わらせるのはいいけれど、ヘンタイとはどういうことだってばよ。


 まあしかし、そう言われてもおかしくはないような単語がステータス画面に広がっているけれど……。



「……でも、成長値五倍はぶっ壊れスキルだよ……っ」


「え? なに? なんの話?」


「っ、と、とにかくきょうはもうかえろう!」


「お、おう……?」



 顔を真っ赤にしたウララがずかずかと出口に向かっていく。


 生唾を飲む。


 なぜだか、嫌な予感がした。


 ステータス画面に映る単語の数々が、俺に不吉な予測を起こさせた。



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