第4話 罪色欲之王

 怒涛の勢いでログが流れ、ステータスに項目が追加されていく。

 困惑する俺は、ウララに目線を向けた。

 ウララは、俺のステータス画面を見て愕然としていた。



「……うそ」



 泣いてるのか、喜んでいるのか、怒っているのか。はたまた照れているのか、恥ずかしいのか。

 そんなよくわからない表情をコロコロと変えながら、最終的にウララは俺から目を背けていった。



「お……お兄ちゃん……ヘンタイだってばさ」

「はぁ!?」

「い、いったん配信おわり! 帰ったらまた配信ってことで!」



 慌ただしくウララはスマホをポケットにしまった。

 配信を終わらせるのはいいけれど、ヘンタイとはどういうことだってばよ。

 まあしかし、そう言われてもおかしくはないような単語がステータス画面に広がっているけれど……。



「……でも、成長値五倍はぶっ壊れスキルだよ……っ」

「え? なに? なんの話?」

「っ、と、とにかくきょうはもうかえろう!」

「お、おう……?」



 顔を真っ赤にしたウララがずかずかと出口に向かっていく。

 生唾を飲む。

 なぜだか、嫌な予感がした。

 ステータス画面に映る単語の数々が、俺に不吉な予測を起こさせた。





「『罪色欲之王アスモデウス《EX》――かつて一つの文明を滅ぼした淫魔の力が宿ったスキル。性行為によってレベルを上げた場合、成長値を五倍にする。』……成長値五倍?」



 迷宮前のタクシー乗り場から再び数十分かけて自宅に戻り、俺の部屋。

 ちゃぶ台を挟むようにしてウララと向かい合う。

 ウララの前にはスタンドで固定したスマホがあり、配信はすでに始まっていた。



「成長値っていうのは、レベルが上がった時にステータスに加算される数値のことだよ。お兄ちゃんは成長値が『2』だから、レベルが1上がったら……」

「ATK4が6になるってことか?」

「うん。で、さらに成長値が五倍だから2×5で10。ATK4に+10されるってこと」

「ほうほう」



 数字がいっぱいで俺の頭がおかしくなりそうだ。



「それに加えて、お兄ちゃんが獲得した『淫魔の末裔』っていう称号の効果があって、得られる経験値が三倍と、成長値×2が得られるの」

「ほうほう」



 俺は『淫魔の末裔』の詳細を開く。



『淫魔の末裔――戦闘によって得られる経験値が半減し、性行為によって得られる経験値が三倍、成長値×2の恩恵が得られる。』



「えと、だから……んーと」

「10×2=20の成長値を得られるの。しかも経験値が三倍! ほかにもスキルたくさんゲットできたし! 滑り出しは好調だねっ」

「ほうほう。つまりあれか、俺はすごいってことだな」

「うんうん、さすがお兄ちゃん。わたしのお兄ちゃんっ!」

「よっしゃあ!」



 二人でハイタッチを交わす。

 そのタイミングで、電子音がボソリとつぶやいた。



『だがしかし、性行為が前提のヘンタイ性能である』



「「っ!?」」



『はよレベ上げろ』

『さすがに規制案件スキルで草』

『垢BANされてもいいからレベル上げしろ』



 固まる俺とウララをよそに、次々と視聴者がコメントを投げてくる。


 視聴者数、1032人。


 一気に増えたなあ。なんて現実逃避してみる。


 先の配信のアーカイブ――『【探索士はじめました】伝説のスキルオーブ獲得!? 壮絶、ゴブリンとの死闘』』――がこの短時間で軽くバズったとウララは言っていたが、こんな見ず知らずの大勢の人間の前で俺たち兄妹は……というより俺が羞恥プレイを受けていた。



『頼む! レベル上げしてくれ!』

『なにこのヘンタイスキルww羨ましすぎww』

『はよ妹でレベル上げwww』



「で、できるわけないだろ! 兄妹だぞ俺たち!」

「そ、そうだそうだ! わたしたち、義理とはえい兄妹! 義理とはいえ! 血、繋がってないけど!」



 なぜだろう。ウララの助け舟が泥舟にしか感じない。



『義理ならおk』

『幼馴染的な感覚でイケる』

『いいからレベル上げしろ』



 案の定、ウララの余計な発言でコメントがさらにヒートアップ。

 これはマズイ。

 いけない方向に流される前に、この配信をどうにかする必要があった。



「……お兄ちゃん」

「な……なんだよ」



 正面のウララが、上目遣い気味に言った。



「レベル上げ、する?」

「――はあ?!」



 何を言ってるんだ、この子は。



「中絶費用も自分で出すから……っ」

「少女漫画に出てきそうなクズ彼氏扱いやめてくれる?」

「じゃあ下着の色だけでも確認しとく?」

「素人系のアンケートそっちからふってくるのやめてもらっていいですか」



 これ以上はヤバい。

 ちゃぶ台越しにウララの顔が近づいてきている。

 俺はカメラ兼配信機材であるスマホの電源を落とそうと手を伸ばした、瞬間。

 顔を赤くし目を潤ませたウララが、唐突にそんなことを言ってきた。



「だってえ……」



 ウララは、スマホに視線を落とす。



「投げ銭、もらっちゃったからぁ……」

「……うそん」



『洒落にならない女剣士:¥10000

 どこまでが性行為に該当するのか実験してほしい』

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