十六 エピローグ
七月七日は、母・沙織の命日であった。
光と輝の兄弟は、十三回目にあたるこの日、彩音の両親と約束した通り、ともに墓参りに行った。
両親だけでなく、奏詠・彩音・遙歌の三姉妹もついてきて冥福を祈ってくれたことを有難く思う。
実の両親に会えない寂しさはもちろんある。しかし、黄泉の国で再会し元気な姿を確認できた今年は、例年よりも幾分か和らいでいた。
母が死んだ時、光は三歳であった。九歳までともに過ごした自身と違い、記憶も僅かだろうと輝は気に病んでいた。
また、母に会いたい。その思いは変わらない。
今生の別れとなった母に、弟だけが再会したことを羨ましく思う。
しかし、自分が愛した母の記憶が、光に再び追加されたことを嬉しくも思う。
輝と光のこの六年の差は、一日で埋められるものでもないと兄は自分に我慢を強いた。
また会えることを期待して日々を精一杯生きるのだと、輝は決意を新たにした。
墓参りを終え、兄弟は家路についた。
かんかん照りの夏の陽射しが降り注ぐ。
梅雨の最中にありながら、天気が良いのは有難いが、エアコンの風がとても恋しかった。
「ただいま」
玄関の扉を開けると、リビングから話し声が聞こえる。
「申し訳ないけど、ちょっとだけ使わせてもらえたらなって」
「いえいえ。でも共用でいいんですか? 新しく設置していただいても構いませんが……」
鈿女と、誰だろうか。女性の声、白兎や月讀ではないようだがと兄弟は顔を見合わせた。
リビングの扉を開けるとそこには沙織が座っていた。
驚きに兄弟が立ちすくむ。
目を見開いて、声にならない声を漏らす息子二人に沙織も気がついた。
「おかえりなさい」
十三年ぶりに聞いた我が家での、母の「おかえり」だった。
「……ただいま」
自然と口角が上がっていき、にやけが止まらず、息が漏れるままに答えた。
「いや、母さんもお帰り。どうしてここに?」
「ただいま。長年、伊弉冉尊に仕えたご褒美にって、この七月七日だけは地上にいさせてもらえることになったの」
「そっか、そっかあ……」
輝は涙をこぼした。
笑顔を見せたかったが、もう何十年か後の話だと思っていた突然の再会にこらえられなかった。
「さ、立ってないでこっちにおいで」
二人にソファを勧める。兄弟は母の両隣に座った。
「これまでのこと、いっぱい教えて。それから……このかわいい家族についても」
我が物顔で膝の上に座る小兎を撫でながら、母は息子達に尋ねた。
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