第15話 フィニッシュ

フィニッシュ


⚪︎   ⚪︎   ⚪︎  ⚪︎   ⚪︎

 ◇.  ◇   ◇  ◇


「第5組めもスタートしました。各組一位の方、スタート地点で待機お願いします」


 スタート地点のスタッフがアナウンスしている。


 俺以外にも、既にスタート地点にいる。

 背の高く、髪を金色に染めていたり、ガチムチで髪にメッシュを入れていたりする。鼻や耳にボディーピアスしてるよ。

 筋肉質な上半身をラッシュガードに包み、静かに佇んでいる野郎もいる。背は俺と同じぐらいだけど、太ももの太いこと、スパッツがピッチリになっている。見たところ、この人がライバルになるかもな。

 そう時間を待たずに4組目と5組目の1位が集まってきた。スタート位置はやはり、くじ、そして色は緑だったりする。

 先ほどと同じスタート位置だ。幸先か良いのか悪いのか。

 そして、皆、散るようにスタート地点へ行く。


「座ってもらえますか? 待機お願いします」


 指示通りに腰を下ろして体育座りになる。


「頑張れー」


 微かに美鳥の声が聞こえた。

 探して見ようとするけれど、今の俺はコースの一番端っこだったりする。反対側はよく見えるのだけれど、こっち側は近い観客はすごく良く見えるのだけれど、そこから奥が影になって見えない。


 「頑張れー」


 また、聞こえた。

 さっきエールをもらって、身体にはエネルギーが満ちている。美鳥から貰えたんだ。フラッグをとって、あいつの笑顔を見たいっていう添加剤も追加された。

 まあ、負ける気はしないが負ける気もない。気力まで美鳥にもらった。

 すると派手な色のアロハを着て同色のハットを被ったスタッフが俺たちの前に立つ。手に持ったマイクで、


「カップルチケットの争奪ビーチフラッグ、決勝を始めます。ここに5人の猛者が集まった。グランラグーンご自慢のウォータースライダーのチケットを手にするのは誰だ! 

彼女のために鬼とかし修羅となるのは誰だ。フラッグを翳し王となるのは一人だけ。さあ、ファイト!」


 スタッフが抑揚をつけ、煽るように前口上を始めていく。さらに、


「本日は運営より、一位の方はカップルチケットを2枚進呈となりましたぁ。一回だけじゃ物足りないでしょ。そして運営スタッフが独断で決める2位の方にも1枚進呈となりましたあ。さあ、さあ、レディ・ゴウ」


 スタッフが

 

   ピィー


 ホイッスルを鳴らす。俺たち参加者はゴールに足を向けるように寝そべっていく。静かにスタッフはコース端に移動した。


 観客は片隅を飲んでいく。静寂が広がる。

 

と、


オンユアマーク

レディ


ピィー


ホイッスルが響く。


 俺は頭の上で組んでいた手を話し砂面をつく。その勢いと腿を屈伸させて腰を僅かに引く。

 さらに引いていくと、生まれたスペースに軸足を立膝に引き寄せ足先を砂面につける。

 ついている手を目一杯押して上体を起こしつつ軸足を中心に据え体を捻っていく。

 捻って利き足を進行方向へ向けると曲げて力を貯めていた軸足の力を爆発させて、伸ばし砂面に潜り込ませた足先をしっかりと踏み締めて身体を押し出した。


   パァッ


 参加者全員がおがり、砂を踏み締めて走り出すものだから、砂煙が上がり、オレたちを隠す。

 利き足の一歩目は俺の走るコースのセンターでなく外へアウトステップさせた。

 上体を起こしつつー2歩目は反対の外側へ踏み込んでいく。3歩、4歩とアウトステップする幅を狭くして全力で前へ進む。

 スタート直後は、パッと見で3番目で飛び出した。

 まあ、僅差の殆ど横並び。しかし先の2人は上体が左右にふらついて安定しないせいか、その後の加速が鈍い。しっかりと、足を踏み込み

 後ろにできるだけ長く掻いていく。滑らせないよう、早く足を掻き出してしまわないようにして体を前に押し出していく。

 見るは砂浜に立つビーチフラッグのみ。そのうち1人は抜くことができた。でも、もう1人。ラッシュガードを着た此奴だけはなかなか抜けない。

 腕をリズム良く振り、足は砂を捉えて前に進んでいる。スタート地点で警戒していた此奴だ。

 スタート直後のふらつきから体を早く安定させて砂地を走破している。足腰も鍛えているようで、5回に及ぶ試合で荒れた砂地をものともせずに走っていくんだ。

 俺も負けじとついて行く。ついて行くのが精一杯のところだけどね。

 ただひたすら前を目指して行くのみ。コースも半分過ぎて、もう少しというところで


「「…ばれぇー」」


 の美鳥の声が微かに聞こえた。ハモって聞こえる。走ることに集中し過ぎたか。


「はっ」


 此奴の息吹が聞こえた。ここで此奴が動いた。

 思いっきり足先を踏み込ませて、そのまま力の限り体を前に押し出すと手からフラッグへ飛び込んでいった。へッドスライディングだ。

 フラッグまでもう少しというところで此奴の手先がフラッグに向かっていく。


「一孝さん」


 美鳥のエールに俺の体のアクセルを踏み込んでいく。

 此奴は飛び込んだが、俺は砂を掻き続けて体を前へ押し出して行く。

 もう少しでフラッグまで手が届くというところで、最後に力の限り砂を蹴ってフットスライディングをする。

 飛び込んだが方が勝てるとも聞いたけど、どうだか。

 此奴の伸ばした手の上に俺の手が追いつきフラッグを狙う。



   ズサァー


◇   ◇   ◇    ◇   ◇

  ◇.  ◇    ◇   ◇



 私が自分と同じ顔を見た時、その向こうで一孝さんと彼奴が走り去って行く。私はそれを指差して


「前! 前を見て……」


 叫んだ。


「お姉ちゃん」

 

 そう、彼女は姉の美華なんだ。お互いそっくりな顔の作り。十数年一緒に暮らしていたの。間違えることはない。

 姉も振り返り2人の姿を追う。

 一孝さんの背中が見えた。飛び込んだ彼奴の足や腰、背中が見える。

 一孝さんも飛び込んだ。


 そして砂煙が上がり、ふたりの体が揉み合って行くのが見えた。

そのうちをフラッグを持った手が挙げられた。



「お姉ちゃん、。行こう」


 2人が走り去ったコースに入り込み、ゴールまで私は一孝さんのところへ向かう。

 途中、お姉ちゃんにも手を伸ばした。







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