第21話 妹達の隠し事
強引に自室から連れ出されると、渡り廊下の中程でミサと花乃に出くわす。ミサもまた、僕と稟を見るなり身構えるという訳の分からない反応を見せる。
「……昂良、ラムネに足りないものはなんだ?」
「唐突だね。強いて言えば自制心かな」
「なんかすごくそれっぽい指摘を兄さんにされた! え、それ本心ですか? 私、自制できてないですか?」
「よし、行っていいぞ」
「三砂さんも何か言ってください! 花乃さん、私ってそんなに自己中ですか? わがまま悪役令嬢ですか?」
「ラムちゃん、そんなの気にしないの! 可愛ければ何でも許されるから!」
「フォローになってないです~!」
珍しく僕より早く起きているラムネもそうだけど、ミサや花乃の様子もかなり違和感がある。そのことを伝えると、
「お前にだけは言われたくないが……まぁ何でもない、こういう日もある」
とのこと。実に分かりやすい怪しさだ。ミサは昨日、僕や九波と別れて稟の出生記録などを情報屋から仕入れているはず。ラムネの反応も鑑みると、生い立ちから稟を警戒すべき理由でも見つけたのかもしれない。とはいえ、出生にまつわる僕へのネガティブな感情って何だろう。
どことなく刺々しい雰囲気の中で食事を終え、大学に向かうラムネと素晴を玄関先で見送る。ラムネは終始、難しい顔をして言葉少なだった。
「兄さん、三砂さん達からも聞いているかと思いますが、あの人には気をつけてください」
「稟のこと? まさか僕の命を狙う刺客だとか言わないよね?」
軽口も笑い事にはできないくらい、ラムネは神経質になっていた。
「お願いですから」
今にも泣き出しそうな顔で懇願されてしまえば、理由は分からずとも首肯せざるを得ない。なんだかんだ言って、僕は妹に強く出ることはできないお兄ちゃんなのである。
「稟の出生について気になることでもあった?」
「……確かめたいことがあるんです。帰ってきたら、ちゃんと話します」
警戒すべき理由はあるが、差し迫った脅威とまでは認められないというのが、稟に対するラムネの現在の評価らしい。我が妹の危機管理能力を信じて、ここはゆっくり待ってやるのが兄の務めか。
「わかった。調べ物もいいけど、ちゃんと大学の授業も出るんだぞ。素晴もラムネも危ないことしないようにな」
子どもじゃないんだから、とうら若き女子大生達は苦笑しながら出て行った。その後ろ姿を見送っていると、まだ中学生だったラムネと素晴の小さい背中を思い出す。いくつになっても、兄からすれば妹とその親友のことは特に心配になるものだ。
「さて、九波はミサが持ってきた情報の中身を知ってるんだろ?」
隣に控えていた九波は事もなげに、はい、と答えた。
「ラムネさんもああ言ってますし、俺から伝えるのは控えますが、正直、あまり大したことではないように思っています」
事情を知っている者達の中でこうも受け取り方が違うということは、やはり具体的な稟の危険性が示されたわけではないらしい。今朝、様子がおかしかったのは僕を幼少期から知る面々であり、三年前から玄翁衆に加わった九波はさほど深刻に捉えていない。ということは――
「稟は、僕に対する積年の恨みを持っていそうな奴の関係者ってところか。僕ってこんなに町の人気者なのに、そんなに恨みを買ってるかな?」
「昂良さんの人間的性質は関係ないんじゃないですか? 誰しも生きている以上、憎まれたり恨まれたりしているもんですよ。でも、大半はみんな時間とともに忘れていく。何年も忘れ難い憎しみとか恨みとかって、抱き続ける人はどんな気持ちなんでしょうね」
「知りたくないね、知ったところで絶対、理解できないし。とにかく、ラムネに教えてもらうまでは気にしないことにしよう。僕もこれから出掛けるよ」
「お供します。どこに行くんですか?」
「鉄選組の屋敷。群咲に流入している麻薬について聞きたいことがあるんだ」
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