第35話 恐怖
あれ……ここは?
「目、覚めたか」
「先生……」
横になっている身体を起こし、周りを見渡す。俺は保健室のベッドにいた。
「俺……どうなったんですか?」
「魔力の使いすぎで意識飛んでた。それだけだ」
「魔法は……」
「まったくだ」
淡い期待も束の間。現実を思い知らされる。なんとしてでも俺は魔法を使えるようにならなければいけないのに。
あんなに近かった目標が、急に遠のく感じがした。
「みんなは……出来てましたか」
その質問にサラン先生は言葉を詰まらせた。その表情だけで、俺は全てを察した。何も変わっちゃいなかった。
「バッド。そんなに気負うことないぞ。確かに魔法科は魔法を学ぶ場だ。でも、お前は実技入試の得点もずば抜けて高かった。無理に魔法使い目指さなくても……」
「先生には……! 分からないです……」
先生の言葉を遮るようにして俺はそう言い捨て、俯いた。
なんだろう。もう何してるんだろう。
ここ数日、俺はどこかおかしかった。でも、それに気がつけなかった。
週末もグルドと気まづくなったせいで全く休めなかった。
何がここまで俺を苦しめているのだろうか。それはもう明らかだった。
俺が魔法を使えないからじゃない。周りのみんなに置いていかれるからじゃない。
未来が分かるのが怖いんだ。魔法を使えないと起こる未来が。
両親がモンスターに襲われたのだって実際に起こった。でも、たまたま助けられた。
しかし、今回はどうだ? 1年経っても魔法の1つも使えない。
今更いじめが怖いのか? あぁ、怖いさ。あの時よりも怖いよ。出来上がった関係も力も努力も。全部無くなっちゃう気がするから。
無くなるんなら元からなかった方が……
パチンっ!!
「……! 先生……何するんですか……!」
俺は頬を平手打ちされた。叩かれ、ジンジンと痛む頬を押えながら先生の方に目を向けた。
「これで俺は体罰で処分受けちまうかもな」
「だったら……なんで……」
「大切な人のためなら俺は法だって犯すぞ」
「……!!!」
「分かったんならしゃきっとしろ。午後の実技が嫌なら当分は出なくていいし、魔法使いたいなら俺ができることならなんでも協力する。それでもまだウジウジすんのか?」
俺は間違っていた。確実に間違っていた。何してんだよ……!!
せっかくのチャンスなんだ。二度とない
しかも……いじめなんて起きてないじゃないか。グルドやトム、ヒュームにシュナ。みんな俺の為に心配してくれてたじゃないか。
涙が溢れ出す。泣いてばっかじゃないか。そんなんじゃダメだろバカバッド。
「保健の先生が明日は授業出ないでここで安静にって言ってたぞ」
そう言って先生は静かに保健室を出ていった。
ありがとうございます。その一言すら俺は伝えられなかった。
──────
保健室での長い一日が過ぎ、俺は教室へと向かった。今日から。また今日から改心して頑張ろう。そう意気込んでいた。
まず、俺がしなきゃ行けないことは友達に謝ることだ。そこからだ。魔法が使えたってこれをしなきゃ意味が無い。
気まづさを持ちながらも教室のドアを開け、自分の席についた。
「バッド……大丈夫だった?」
シュナだった。1番初めに声をかけてくれたのは隣の席の彼女だった。俺は小さく深呼吸をし、「大丈夫だよ。あと、この前はごめん」と言おうとした。
その時だった───
「なぁ! なんで魔法使えないやつここにいんだ?」
嫌な記憶。2つ目の最悪の始まりの記憶が今、復活した。
遠く離れた席から俺を罵るセリフを吐いた人物。そう、それは紛れもなくグルドであった。
何も言えずにいる俺のとこに歩み寄り、肩を組んでくる彼に、俺は完全に脅えてしまった。
「昨日みんなバッドの話コソコソしてたぜ。なぁ? トム」
「ち、違ぇ……よ」
なんだよその反応は。分かりやす過ぎるだろ。なんでだよ……どうして結局……こうなっちまうんだよ……!
「俺以外みんなお前のこと……」
グルドがなにか話そうとした瞬間、教室のドアが開いた。
「出席取るぞ、座れ」
俺は謝ることなんてできる訳もなく、長い一日がスタートした。
そして、昼。グルドはまた俺に絡んでくる。
「なぁ、飯おごってくれよ。バッド」
俺は何も考えられなかった。グルドと食堂に行き、学食を奢った。理由は無い。ひとつあげるとすれば……怖かった。これ以上酷くなるのが怖かった。
結局みんなからは避けられた。グルドのいじめの対象になりたくないのだろうか。
聞いた話によれば、彼の得意な魔法は【爆発】だったらしい。怖い。
そして、午後。魔法の授業が始まった。
「よーし、今日も2人組作れ」
「なぁ、俺と組もうぜ。魔法使えないんだろ?」
俺は頷いた。思い出した。全部思い出した。昔のいじめられていた俺も、こんなことされていたって。
そして一週間後、俺は図書館裏で魔法で吹き飛ばされる。それ以降、彼からのいじめはなくなる。
飽きたのか、それとも、他の理由なのかは分からない。
でも、そこから俺は本当に孤立し始めるんだ。
こうして、俺の最悪な一週間が幕を開ける。
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