第36話 悪魔の1週間

 今、俺は午後の授業を終え、図書館にいる。

 とりあえずここで時間を潰そう。


 こうなったら、どうすれば2つ目の最悪から逃れられるか考えるしかない。

 2回目と言っても、怖いものは怖い。この悪魔の1週間。じゃあ、どうすればいいのか。


 ……やっぱ魔法……か。いや……はぁ……


 正直言って、今更魔法を使えたからってどうなるんだ。この一週間で魔法を習得したところで、何か変わるのか?


 ……そんなこと考えても仕方がないか。


 俺はとりあえず図書館で魔法について調べることにした。4階建ての超広い図書館には、この世の全ての本があるんじゃないかってくらいの量の本があった。


 魔法について乗っている本のブースに行き、いくつか本をとって空いている席に着いた。


 意外と授業で教えてもらうことばっかりだなぁ……これもサラン先生が言ってたし……


 期待はずれであった。きっともっと色んなことが書いてある物もあるだろう。しかし、人語以外で書かれているものも多く、俺は全く多言語を読めなかった。そのせいでこの図書館の3割程しか力を使えていなかった。


 ……まぁ、行くとこもないしここで時間潰すか。


 本を戻そうと席を立ったその時だった。


「ヒューム……?」


「バッドか。こんなところで珍しいな」


 本を抱えたヒュームが隣の席に座ってきた。クラスの中では、今のところ1番気まづく無い彼に俺はほっとしてしまった。


 本を戻さずにもう一度席に着いた俺は彼に話しかけた。


「なぁ……ヒューム。魔法って……どうやったら使えるんだ?」


 その質問を聞いた瞬間。ヒュームは少し険しい表情になり、口を開いた。


「多分、バッドの今しようとしていることは間違っているよ。いや……もう間違ってしまったが正しいかな」


 俺のしようとしていることが間違っていた。どういう事だ? 魔法を使おうとしていること自体違うって言うのか?


「それって……どういうことだ?」


「……それは自分で考えた方がいい」


 そう言い捨て、ヒュームは本を持ち離れた席に座ってしまった。また、俺は突き放されてしまった。


 間違っている。何が間違っているのか分からない。正解が分からないのに……間違いが分かるわけないだろ……!


 どこにぶつけたらいいかも分からないこの怒りに苦しめられながら、俺は図書館の閉館時間まで本を読み漁った。


 閉館時間から消灯時間まで約2時間。俺は食事を済ませ、寮の裏にあるスペースで魔法の練習をした。このスペースだけは魔法の仕様が許可されているが、地面や壁の破壊、簡単に言えば高威力のものは禁止とされている。


 まぁ、魔法が使えるわけもない俺は、ただただ消灯時間までの時間を潰すためだけにここにいたようなものだった。


 そして、消灯時間ギリギリになり、寮に戻りあとは寝るだけ。グルドと同じ部屋なのは本当に辛かった。でも、部屋ではあまり絡んでこなかったからそれは不幸中の幸いであった。


 いじめっ子と言うのは周りに人がいるから、見られているからいじめるのだろうか。


 そして次の日。俺はまた朝からグルドに絡まれる。


「よぉ、昨日も魔法使えてなかったな」


 その言葉を愛想笑いで受け流すが、周りの人達は誰も俺たちの方を見向きもしなかった。


 そしてそのまま昨日と同じような時間が過ぎ、午後になった。俺は昼休みの時、サラン先生に行って1週間、午後の授業を休む意志を伝え、さらに無理を言って授業後に個別で指導をしてくれないかと頼んだ。


 ここで離脱すれば、もっとグルドのいじめは酷くなるかもしれない。でも、こうせざるを得なかった。俺の精神は午後の授業に出れるほど、もう体力は残っていなかった。


 そのお願いに先生は「平日1時間位なら」と、快く承諾してくれた。本当に先生には頭が上がらない。


 言いたいことがあるとするならば、グルドのいじめに気が付いていないのか、はたまた無視しているのか分からないが、その件には全く触れてこない所だ。でも、そんな事はいい。


 先生に1時間指導してもらい、昨日と同じように時間を潰して寮に帰った。


 同じような日が3日間続いた。精神的にいじめられ、午後の授業は行かず、先生に個別指導をしてもらう。この3日間、死ぬほど長く感じ、そして、辛かった。


 別にまだ暴力を振るわれた訳では無い。でも、周りからの目線や、気を使う行為が俺の精神をむしばんだ。


 そして、さらに数日が経ち、俺が魔法でグルドに吹き飛ばされるであろう休日の前日の朝。


「なぁ? 今日も午後の授業来ねぇのか? てか最近コソコソなんかやってるよな?」


「ま、まぁ……」


 俺は小さく答えた。そして、グルドはもう一度口を開く。


「……魔法、使えるようになったのか?」


 普段よりも小さく、どこか優しい声でそう聞いてきたグルドに、俺はもちろんNOと答えた。


「ははは!! だろうな!!!」


 何も変わっちゃいなかった。そのまま今日も一日が過ぎた。

 明日、恐らく俺へのいじめは終わる。そして、このままだと……2度目のチャンスも終わる。


 ……結局何も出来なかった。先生に個別で教えてもらったのに何も得られなかった。いや、少しは魔力を魔法に変えるコツは分かったかもしれない。でも、出すことは出来なかった。


 明日は休日で先生の個別レッスンは無い。もう……終わり……


 ……じゃないだろ。何諦めてんだよ……最後まで足掻けよ……!! 足掻け……よ……


 入学当初を思い出す。あの時の、学校に毎日行きたいと思えた日々を。


「どうして……どうしてみんな……!!」


 寮の裏のスペースで俺は泣き崩れた。その時だった。


「こんなところでもやってたのか、バッド」


「グルド……!」


 俺の知っている未来とは別の未来が現れた。

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