第34話 孤立

 授業が始まってから一週間が経ち、俺は今魔力水晶を持っている。


「ぐぬぬぬ……はぁ……今日もだめだ」


 周りが、いや、俺以外が魔力水晶の色を変化させている中、俺だけが唯一成功していなかった。

 変わりそうで変わらない。それが一週間続いた。


「えっと……まぁ、とりあえず今日でこの魔力水晶を使った練習は終わりだ。明日から本格的に魔法を使うぞ。今日はもう終わりだ、解散」


 結局最後まで俺は魔力水晶の色を変えることが出来なかった。


「バッド……大丈夫?」


「あ、あぁ……うん。大丈夫だよ」


 みんなが帰る中、シュナが俺に声をかけてくれた。シュナは初めから魔力水晶の色を変えることに成功しており、ヒュームと一緒に別メニューをしていた。


 ちなみにヒュームはシュナと同じ16の代だ。 一浪って所だろう。


「シュナ戻ろー……って何話してんの?」


「あ、ごめんエアリスさん……」


 冷たい目でこちらを見てくる彼女。エアリス。正直かなり関わりずらい。

 初めはシュナと仲良くしてくれてるからいいか、と思っていたが、蓋を開けてみればかな〜りツンツンしている。


「てか、あんた入試総合1位だったんでしょ? 何よこのザマ。シュナと知り合いとか信じられないわ」


「あはは……」


 嫌だなこの感じ。なんか、こう……うん。嫌だ。

 でも、言い返す力は無い。彼女の実力も折り紙付きだ。


 大丈夫だ。耐えろバッド。昔の俺じゃない。きっといつか魔法だってできるようになるはずだ。なんなら、授業で魔法を使い始めたらなんだかんだ出来てしまうかもしれない。


 そうだ、そう信じよう。今日はもう大人しく帰ろう。静かにその場を去ろうとしたその時だった。


「エアリス。それは言い過ぎだよ」


 その言葉を発したのはシュナだった。かなり真剣な表情に驚きを隠せないエアリスだったが、少しして反撃をする。


「なによそれ。こいつがここにいるのが私は許せない。私やあのメガネみたいに魔力量に恵まれなくて、でもゴスイに来たくて必死に勉強して努力してきた私たちがバカみたいじゃない!!」


 それを聞いて、俺は納得してしまった。

 そうだ、そうだよな。俺は……努力なんて……

 抑えきれない何かが溢れてきてしまう。


 努力をしてきてない訳では無い。それは胸を張って言える。でも、でも。思ってしまったんだ。

 この魔力量、俺じゃなくて彼女エアリスにあったらと。


 そしたら俺はきっと……ここにいないだろう。


「シュナ。もう……俺に構わなくていいからさ。あと、エアリスさん。シュナと友達になってくれてありがとう。もう……関わらないようにするから嫌いにならないであげてください」


「ちょ……!」


 そう言って俺は涙を隠しながら歩き始めた。


 この1年間。強くはなった。でも、よく考えてみろ。魔法は一度も使えてない。魔力を身体に流せる? なんだよそれ。魔法使いになるんだろ?

 ……あぁ。もう何も考えたくない。


 急に明日の学校が憂鬱になった。


 ──────


「バッド……? なぁ、バッドってば!」


「あ、ごめん。どうしたのグルド」


「お前さっきっからその顔なんだよ」


 消灯時間になり、寝ようとしていた時のこと。グルドが俺に話しかけてきた。

 確かに、今日は一度もグルドと話していなかったな。話しかけるなオーラ満載だったのだろう。


 2人で各々のベッドに入り、話を始める。


「グルドは……さ? 魔力水晶に魔力流すの……簡単だった?」


「そ、それは……」


 回答に困るグルド。無理もない。簡単な訳ない相手が目の前にいるのだから。


「ま、まぁ! あんま考えない方がいいぞ。ほら、魔力流せなくても魔法なら……」


「無理だよ」


 無意識に冷たくなってしまう俺に、グルドは何度も何度も声をかけてくれた。

 やめてくれ。もう……やめてくれよ。俺はもう……無理なんだよ……!


「な? バッド」


「……無責任なこと言わないでくれ」


 その俺の放った一言から、グルドの声は聞こえなくなった。

 あぁ……終わった。何してんだ……俺……


 寮の部屋で共に過ごす友達との仲を崩壊させ、俺は眠りについた。


 ──────


「なぁ、バッド! 昼飯食い行かね?」


「ごめんトム、今日は1人がいいんだ」


 昨日の出来事から、俺は孤立して行った。して行ったと言うか、自分から周りとの繋がりを絶とうとした。


 もちろん、嫌いになったとかでは無い。トムも毎日話しかけてくれるし、グルドだって俺の事を気にかけてくれていた。シュナもそうだ。


 でも、どこか皆との差を感じてしまっていた。もう皆と同じ土俵には立てていない。

 それから、俺はみんなの考えていることを意識するようになっていた。


 元いじめられっ子の特性が発動する。


 ──みんな俺の事嫌い


 そんな風に見えてしまう。早く皆と同じところに行かないと。


 そんなこんなで午後。初めての魔法を使う実技が始まった。


「とりあえず2人1組を作ってくれ。女子は3人でいいぞ」


 2人1組……か。どうしよう。気まづい……

 周りを見渡すと、予想通りグルドとトムがペアを組んでいた。


「バッド。僕と組んでくれないか?」


「ヒューム……うん。ありがとう」


 ヒュームとペアを組み、魔法を使う授業が始まった。


「えーっと。今回はなんでもいいから魔力を使って魔法を使ってみろ。基本手を前に突き出して、魔力を貯めれば自然に発生する。何を出したいか考えてもいいが、今日は考えるな。それで出てきた魔法がお前らの得意な属性だ。ペアを作った理由は少しでも変化があれば分かるようにだ。それじゃ、初めろ」


 得意な属性……か。そんなものあるのだろうか。

 今考えても無駄か。ヒュームに失礼だ。


「僕から……行くよ」


「うん」


 ヒュームが右手を突き出し、魔力を貯める。そして、その突き出された手の先からは大きな岩の塊が現れた。


「す、すげぇ……」


 思わず声が出てしまう。なんだかんだ目の前でちゃんと魔法を見ることは初めてだった。


 しかし、その岩は飛んでいかず、その場にドカッ、と落ちてしまった。


「去年試験に落ちてから魔法も両立して練習したんだけど……まだ飛ばせないんだ」


 ヒュームは苦笑いしながらそう言った。それを聞いた時、さらに差を感じた。まだ魔法を出そうともしていないのに、できる気がしなかった。


「じゃあ……次俺が行くね」


 右手を突き出し、魔力を貯める。


「バッド……!?」


 俺はありったけの魔力を右手に溜め込んだ。ヒュームが驚く程にだ。

 でも、魔法の魔の字も出なかった。


 そして、俺は魔力の使いすぎで意識を失ってしまった。

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