第21話 リュナさん

 リュナさんの家へと向かっている途中のこと。


「そういえば自分、ゴブリンと戦ったんですけど……多分、いや、90パーセントくらいで知性がありました」


 何気なく話題を提示した俺だったのだが……


「ゴブリンに知性が!?!?」


 ストローグさんは足を止め、顔をグイッ、とこちらに近づけてきた。


「は、はい……ちょ、近いです……。てか、そんなに驚くことなんですか?」


 正直ここまでストローグさんが驚くとは思っていなかった。


 俺は生前、ありとあらゆる知性のあるモンスターと対峙したことがあった。


 だから、あまりおかしいとは思わなかった。出ないと言われていたから少し驚いた位だった。


「そうだぞ! 基本モンスターは知性を持たない。知性を持つのは上級、いや、それ以上のモンスター達だけだ。……下級のゴブリンが持ってるとは到底思えねぇよ」


 そんなものなのか? 中央都市とは考え方が少し違うのだろうか。ゴスイを卒業出来たら、そっちの方のダンジョンにでもストローグさんを連れて行ってみよう。


 俺とストローグさんはまた歩き出した。


「ここだな。リュナさんの家は」


 そう言ってストローグさんはドアをコンコン、と2回ノックし、「ストローグです」と、家の中に伝えた。


 その瞬間、家の中からドタバタと音が鳴り、リュナさんが家から飛び出てきた。


「ストローグさん!! あ、あとバッド君!! 本当にありがとうございました!!」


 外に出てきた途端、土下座をするリュナさんの肩をストローグさんがポンッ、と叩く。


「いえいえ。当たり前のことですよ。シュナちゃんの様態はどうなんですか?」


「さっき一瞬目を覚ましたんですけど……バッド君の心配だけしてまた眠っちゃいました。怪我は太ももの傷だけだったので村長さんに。あ、洋服洗って返します……すいません!!」


「あ、全然大丈夫ですよ。シュナさんが無事で良かったです」


 慌ただしいリュナさんにそう返事をすると、凄い形相でこちらに近づいてきた。


「え、えっと……どうかしました……か?」


「……この御恩、どうお返しすればいいのか……ストローグさんから聞きました……バッド君がシュナを見つけて助けてくれたって……」


「い、いや! ストローグさんが居なかったら俺も危なかったですし……」


「もし良かったら……」


「……?」


「うちの娘を妻に向かい入れてくれませんか!?!?」


「つ、つま!?!? え、い、いや、ち、ちょっと……」


 いきなり過ぎて驚きを隠せなかった俺を見てストローグさんが話し出した。


「ははははは!! ごめんなさいねリュナさん。こいつ、好きな女の子いるんですよ」


「あ……そうなんですかごめんなさい!」


「ちょ、す、好きとかじゃないですから!!」


 反射的にストローグさんをポコポコ叩く。


「シュナちゃんも結構可愛いんじゃないのか……?」


「そういうこと言わない……!」


 コソコソ話す俺とストローグさん。そんな中、リュナさんが真面目そうに口を開いた。


「でも、本当にありがとうございました」


 そう言って深く頭を下げ、お礼を言ったリュナさん。

 でも、良かった。本当に良かった。助けられて。


「そういえば、リュカ君は大丈夫なんですか?」


「はい。今はシュナの面倒見てくれてます」


「そうなんですね。じゃ、今日はここら辺で帰らせて貰います」


「あ、今度シュナからもお礼を言わせなくちゃだから……また来てくれますか? バッド君は服の件もありますし」


 ストローグさんがこちらをチラッ、と見つめる。


「はい。もちろんです。歳も近いので仲良くさせてください」


「ありがとうございます!」


 こうして、長かったモンスター討伐も幕を閉じた。


 ──────


「うちの子がお世話になってたなんて……本当にすいません!」


「あ、いえいえ、俺は全然大丈夫ですし、今回の件は俺が誘っちゃったんで……」


 今、我が家に来ている。そして、ストローグさんがお母さん達に今日の出来事について話している。


「おい……バッド。俺との関係言ってなかったのかよ……」


「はい……そういえば言ってませんでした……」


 コソコソと会話をする俺とストローグさん。目の前には驚いた顔をした両親がいた。


 確かに言ってなかったな……ケイトのことは言ってたけど、そういえばストローグさんの事は全く言ったこと無かった。


「でも、無事でよかったです。ストローグさんも」


「すいませんでした。これからはもっと注意深く接しようと思います。それではここら辺で」


 そう言ってから軽く挨拶をし、ストローグさんは家へと戻って行った。


「バッド……」


「はい……」


「この前のケイトちゃんの家の件もそうだけど、たまたまあなたは無事で居られている。怪我はしてるけどね。でも……でもね」


 お母さんの表情が真剣に変わった。俺は静かに聞く。


「もう、命に関わるような危ないことは極力さけなさい」


「……分かりました」


 確かにそうだ。俺は勘違いしていた。

 今、俺はまだ14歳。まだまだ子どもだ。心は23歳だけどな。


 お母さん達にも、命に関わるようなことはやめてって言いたいけど。やめておこう。


 あとは、もう、危ないことはやめよう。人に心配かけることを。


 ──────


 数日後。


「え、えっと……バッドって言います」


「ほら、シュナ。挨拶とお礼」


「しゅ、シュナ……です。この前は……ありがとうございま……した……」


 なんだかとても想像とは違った性格の女の子であった。

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