第22話 シュナさん
「え、えっと……ここがこの村の……商店街……です……」
「じ、じゃ、少し見て回ってみていいかな」
ブルーブラックのような色をした髪を持ち、ショートヘアーの彼女の隣を歩いている。
彼女は……そう。シュナさんだ。
俺は今、何をしているのか。それは遡ること10分ほど前のことーー
「ほら、シュナ。この村でも紹介してきてあげなさい。あ、服は帰り取りに来てくれたらいいから」
「は、はい……」
「はははは! 今日は修行休みだ。ほら、遊んでこい」
「よ……よろしく……お願い……します……」
「よ、よろしくね!」
と、まぁこんな感じだ。
……なんかすごい乗り気じゃなさそうなんだけど大丈夫かな。
「これは……なにかな?」
「これ……は……村で育ててる……果物……」
「シュナさんはこれ好き?」
そう聞くとコクリ、と小さく頷いた。
難しい。とっても難しい。かな〜り難しい。
まぁ、いいだろう。ここは俺の見せ場だ。
「これ1つください」
「はいよ。銅貨1枚だよ」
そう言って俺は、小さな果物を1つ購入した。
シュナさんも好きって言ってたし、少しは心開いてくれるだろうか。
物で釣るのは良くないって? 分かってないなぁ。分かって……無いのか? いや俺は分かっているのか?
「はい。グーミ1つね。ありがとさん」
俺はグーミと呼ばれる果物を受け取り、シュナさんに渡した。
「はい。お近づきの印」
「え、あ……ありがとう」
「いえいえ」
そう言うと、シュナさんは俺の方をじっと見つめ、何かを確認した。すると、店の方へとひとりで歩き出し、「グーミ1つください!」と、注文をした。
買って帰ってきた彼女は、グーミを俺に手渡してきた。
「バッドさん……! お近づきの……印!」
……この子はいい子だ。一応、シュナさんは今の俺からすれば年上ってことになるけど。
まぁ、仲良くはなれそうかな。
「シュナさん、ありがとう。一緒に食べようか」
「うん! あと……シュナで……いいよ!」
「分かった。じゃあ、俺のこともバッドでいいよ」
思い出してみるとケイトはまだ俺の事を君付けで呼んでいる。いや、呼んでいた、か。
いつからバッド呼びになったかは全く覚えていない。まぁ……再会したらわかるか。
こうして、商店街を案内され、俺は村について教えてもらった。
商店街には生活に必要なものはほぼ売ってあった。中央都市やよく行く隣町に比べたら小さくて可愛いものだが、かなり活気が溢れている。
そして、俺とシュナは商店街の出口付近にあるご飯屋さんに入ることにした。
テーブル席に座り、メニュー表を見る。
「ここ、この村唯一のご飯屋さんなんだよ」
「へぇ〜そうなのか。よく来るの?」
「お父さんがいた時は家族でよく来てたよ。今は出稼ぎで家にはいないけど、帰ってきたらまたみんなで行きたいな〜なんて思ってる」
そう言いながら彼女はメニュー表からオススメの料理を教えてくれ、俺はそれを頼むことにした。
シュナも料理を頼み、待ち時間。
「お父さんは何してる人なの?」
「一応、冒険者だけど……すぐ怪我して帰ってきてたからちょっと心配なんだよね〜」
苦笑いしながら話すシュナを見て、俺も口を開く。
「俺の両親も冒険者やってるよ。いつもモンスターなんか出ないクエストばっかやってるけどね」
「えー! なにそれ! 私のお父さんもそういうのやればいいのに!」
2人で笑った。初めはどうなるかと思ったけど……全然大丈夫だ。もうフレンドだ!
「てか、シュナ魔法使えるの?」
「あ、まぁ……うん」
少し気まづそうにする彼女は続けて話した。
「でも、コントロール上手く出来なくてさ。バッドに助けて貰った時も全部魔力使っちゃったし……」
「あの時本当に凄かったよ! あれのおかげで助かったし……かっこいいって思った!」
俺は机から乗り出し、食い気味にそう言った。
これは本心だ。俺は一度も魔法を使えたことがない。それに加えてとてつもない威力のものだった。
最近、魔力を流す修行をしていたおかげか、他人の魔力量が少しわかるようになってきた。
彼女の魔力量は恐らく俺と同じくらいだ。
「あ、あり……がとう……?」
驚いたように感謝を伝えたシュナは、俺の両肩を静かに押し、席へとつかせた。
「バッドは魔法とか使いたいなーとか思ってるの?」
「まぁ……才能は無いと思うけど、ゴスイの魔法科に行って魔法使いになれるように頑張ろうと思ってるよ」
「ごすい?」
シュナは頭の上にはてなマークを浮かべ、首を傾げた。
俺はゴスイ魔法学校について詳しく教えたあげた。
「それで、2ヶ月後くらいに試験があるんだ。シュナも魔力試験なら余裕で行けると思うから……って無理に進めるのもあれか。ごめんね」
「ゴスイ魔法学校……かぁ」
彼女は何か考えた様子で天井を見ていた。
恐らくだが、話している感じ彼女はゴスイに惹かれている。
でも、何か問題があるのだろう。まぁ、多分分かる気がする。父親が出稼ぎに行くくらいだ。
その時、料理が到着した。
「まぁ……食べよっか」
「うん! 美味しいからぜひぜひだよ!」
村唯一のご飯屋さんの定食はとても美味しかった。
──────
「今日は……ありがとね。楽しかった!」
「こちらこそありがとう。久々に色んな話出来て楽しかったよ」
こうして俺たちはシュナの家へと向かった。
帰っている途中。会話が減ってきた頃。
「ねぇ……! バッド」
「どうした?」
「あの……その……私……! 友達あんまりいなくて……あ、あんまりって言うか……村にそもそも私くらいの年齢の子が少なくて……それで……」
俺は「うん。うんうん」と相槌を打ちながら聞く。
「バッドが嫌じゃなかったら……友達……! になって……くれる……?」
シュナの方を見たが、目線は真逆を向いていた。
「……もちろんだよ。俺も友達は少ないから……これからよろしくね!」
断る理由もないし、この村にもお世話になった。
「あ……ありがとう!」
こうして俺たちはシュナの家に着いた。
リュカ君がお出迎えしてくれたが、一言も話さずお母さんを呼んできてくれた。
「リュカ。あなたも挨拶しなさい」
「……」
兄弟って似るんだなぁ。
俺はリュカ君の目線まで下げ、頭にポンっ、と手を置いた。
「お姉さんはリュカ君のためにすごい頑張ってたよ。だから……もう心配させちゃダメだからな」
それだけ言って体勢を戻した。
「あ、あの! 姉ちゃん助けてくれて……ありがとう!」
「どういたしまして」
俺はニコっ、と笑い返した。
リュカ君は家の中へと戻り、それからお母さんと少し話した。
貸していた服を返してもらい、帰ろうとしたその時だった。
「あ、あの。お母さん!」
ずっと静かにしていたシュナが声を上げた。
「どうしたの? シュナ」
「あの……あの! 無理なのは分かってるけど……私……私もっと大きくなったら頑張って働くから……」
最後のセリフを言おうとしたその時、お母さんが口を挟んだ。
「シュナ」
お母さんの顔はいつにも増して真面目で、不穏な空気を放っていた。
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