第19話 バッドVSゴブリン

「……あった!」


 俺は分かれ道にたどり着いた。


「はぁ……はぁ……こっちから来たから……こっち!」


 すぐさま選ばれなかった方の道へと走り出した。


 体力は既に限界。もし、今この状況でモンスターなんかに出くわしたら……なんて考えてる暇か!


 助けなきゃ……助けなきゃ! 信じてもらったんだ!!


 俺はひたすら走り続けた。


「……あれは?」


 薄暗い道の先になにかの影が見えた。


 ……人? にしては2つあるけど……


 その時俺は思い出した。ストローグさんの話を。


 人型の……モンスター!?


 さらに近づくと招待は明らかになった。

 そこには縄で縛られた女性と緑の肌の人型モンスターがいた。正しくそれはゴブリンであった。


 女性は上半身の服をビリビリにされており、下着姿であった。


「助けて!!」


 女性の太ももには、切りつけられた跡があり、かなり出血していた。


「助けに来ました!! お名前はシュナさんですか!!」


 俺が走りながらそう聞くと、彼女は泣きながら縦に首を振った。


 俺は何も考えず、ゴブリンの所に走り出す。


「……まじかよ」


 そのゴブリンは、右手にナイフを持ち、俺に気が付いた瞬間、無言でこっちに走り出してきた。


 カキン!


「あっぶね!」


 俺は間一髪、剣で受け止め、弾き返した。


 にしても、このゴブリンの攻撃は重たかった。そして、ひとつ、疑問が生まれた。


 女性の様子だった。モンスターは知性を持たない。そう聞いた。でも、女性は縄で縛られ、服を破かれている。


 そして、悲鳴から時間が経っているのに、太もも以外に目立った外傷はなかった。


 ……まずは彼女の安全の確保だ。


「お〜〜りゃ〜〜!」


 俺はゴブリンに向かって突撃した。そして剣を振った。


「ぐへっ!」


 俺は弾き飛ばされてしまった。小さなナイフにいとも簡単に。


 本当に……これ……おかしいだろ!


 この洞窟に発生しているモンスターは格が違った。確かに、前世でもこのようなモンスター達は沢山、出会ったことはあった。


 でも、それは中央都市の大きなダンジョンでの事だ。


 こんな小さな村の近くに……こんなモンスターが発生するなんて……


「くそ!」


 俺は何度も何度も、ゴブリンにアタックしては吹き飛ばされてを繰り返した。


 クソ……勝てねぇ……目の前に助けなきゃ行けない人がいんのに……!


 その時だった。


「……助けて」


 弱々しいシュナさんの声だった。


 何やってんだよ! 馬鹿野郎!!


「……ストローグさん。ごめんなさい」


 俺は身体中に魔力を流した。

 大きく深呼吸をする。


 前よりも多く、そして早く。流せ……流せ!


「……!!!」


 俺はゴブリン目掛けて全力で走り、剣を振り下ろした。


「ギュア!?!?」


 ゴブリンは驚きを見せたが、ナイフで俺の攻撃を間一髪受け止めた。


 しかし、ゴブリンは攻撃の衝撃に耐えられず、左側側の壁へと吹き飛ばされ、激突した。


 大きな音と共に、パラパラと壁が崩れる音がした。


 ……安否確認!


「シュナさん! 大丈夫ですか!!」


 小さく頷いたのを見て、俺は剣で縄を切り、上の服を脱ぎ彼女に着させてあげた。


 ビリビリに破かれていた服を結び、太ももの傷跡にギュッ、と縛った。


 縛った時、「んっ!」と、痛みを我慢する彼女だったが、それ以外は何も見せなかった。


 強い子だ。そういえば弟の敵討ちって言ってたっけな。


 絶対助けて帰ろう……


「う、後ろ!!」


 彼女が叫んだ時、すぐに振り返ったがもう遅かった。


 目の前にはもう、殺意の満ちたゴブリンが現れていた。


 やべぇ……死ぬ!!!


 ブウォォォン!!!


「うわっ!!」


 その大きな音と同時に発生した巨大な風は、ゴブリンを吹き飛ばし、俺たちを助けてくれた。


「い、今のって……」


 両手を伸ばし、はぁはぁ、と荒い呼吸をする彼女に質問をしたが、返事はかえってこなかった。


 見ていなかったが、恐らく彼女の魔法だ。しかもかなりの魔力量だった。


 そう。かなりの魔力量。多分だが……


「やっぱか……」


 彼女は気を失いドサッ、と倒れてしまった。


 脈はある。まだ生きてる。俺は治癒魔法使えねぇから……早くケリつけて帰らねぇと。


 俺は立ち上がり、ゴブリンの方を向いた。

 ゴブリンも立ち上がり、こちらを睨めつける。


 知性のあるモンスター。ここまで厄介なものは初めてだ。


 ケイトも、ケイトを寝取ったアイツも、かなりの腕利きの冒険者であった。だから、難なくモンスターの討伐は出来ていた。


 でも……今は違う。1人だ。魔法も使えないただの剣士。


「正々堂々これでできるな……!」


 俺は身体中にもう一度魔力を流した。

 あの時とは違うけど、俺もまた違う。


 魔力の使い方も習得したし、戦い方もしっかり学んだ。そして、守るべきものも増えた。


 守るもんあるときぐらい、全力で約束破ります師匠……!


 一撃で終わらせる……だから……全部流せ……!


「ギュアァァァア!!」


 ゴブリンが走り出す。相手もさっきより段違いに魔力量が増えていた。


 スピードも圧も段違いだ。


 でも、なんでだろう。負ける気がしない。


「はぁぁぁぁあ!!!」


 ゴブリンがナイフを突き出して来た瞬間、その場で上から剣を振り下ろした。


 ゴブリンは咄嗟にナイフを持ち上げ、防御姿勢に入る。


 だが、俺の剣は止まることなく、ナイフを粉々にし、ゴブリンを脳天から真っ二つに切り裂いた。

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