第18話 モンスター

「モンスターってどんな感じなんですかね?」


「分からねぇけど、前発生したのはちっちゃい犬みてぇなやつだったな。あと人型のやつも出たことあるけど基本モンスターは知性がねぇからどうってことねぇよ」


「そうなんですかぁ」


「す、ストローグさん!!!」


 村長に言われた洞窟へと向かっている途中、向かい側から女性が1人、走ってこちらに近づき、ストローグさんの名前を呼んだ。


「リュナさん。どうしたんですか?」


「シュナが……モンスターの出た洞窟に行っちゃって……帰ってこないんです!」


「シュナちゃんが!? リュカ君は!?」


「リュカが昨日そのモンスターに怪我させられちゃって……それで昨日私が敵討ちしてあげるって言って……魔法使えるようになったから大丈夫って……私は! 止めたんです……でも気が付いたら朝いなくて……」


「落ち着いて。今から行くところでした。必ず見つけてきます。バッド! 走るぞ!」


「あ、はい!」


 話についていけなかった俺は咄嗟に声を出し、走り出した。


 これは修行とか言ってる場合じゃ無さそうだ。

 でも、ストローグさんがいれば安心。村のみんなはそう感じていそうだ。


 ……俺も頑張らなきゃ。


 ──────


「ここか……」


 村から少し離れた所にぽつん、と地面に空いた穴があった。


 中は暗くてあまり見えなかったが、明らかに俺がいつも魔法の練習をしていた洞穴とは訳が違った。


「バッド。行けるか」


「……はい。もちろんです」


 14歳とはいえ、俺は一応5年間冒険者として剣士をやっていた。


 以前、ストローグさんになんでそんなに剣の振り方が分かるのか、と聞かれたことがある。


 まぁ……適当に流せたからよかったけど。ストローグさんじゃなかったらとっくのとうに感づかれていそうだ。


 洞窟の中へと入り、平坦な場所までくると、ストローグさんが地面に手をつけ何かを始めた。


「この世の闇に、照らす光をこの大地に」


 そう詠唱すると、真っ暗だった洞窟がパッ、と明るくなり、周りが見渡せるくらいになった。


「ストローグさんって魔法苦手なんじゃなかったんですか?」


「苦手だけど、今やったのは詠唱魔法だ。少し練習すれば、魔力あるやつなら誰でも出来る。ほら、行くぞ」


 詠唱魔法か……知らなかった。魔法科から逃げた俺は全く知らなかった。少しも知らなかった……


 ストローグさんはしっかり努力家だ。見習わないと。


 俺とストローグさんは早足で洞窟を進んで行った。


 グルル……!


「来たぞ。バッド、お前が行け」


「え、あ、ちょっと!」


 背中をバンっ、と押された俺は、小さな犬のようなモンスターの前まで歩み寄ってしまった。


 ……よし。やるぞ。これくらいのモンスターなら俺でも狩れる。


「おりゃぁぁあーー!」


 グルル……


 モンスターを切りつけ、青い血がブシャッ、溢れ出した。


「あれ……?」


 呆気なく動かなくなってしまったモンスターを見て、俺は唖然としてしまった。


 こんな……簡単だったっけ?


「ははは! よくやったぞバッド」


 その時だった。


「きゃぁぁぁぁぁあ!!!」


「悲鳴!!」


「どこだ!? 早く行くぞ!!」


 悲鳴の居場所が分からない俺とストローグさんは、一本道を走り続けた。


 すると、俺とストローグさんの前には分かれ道が現れた。


「分かれ道……どうしますか!?」


「片方任せたって言いたい所だが……やっぱりお前一人は危険だ。とりあえずこっち一緒に行くぞ」


 そう言って左側の道に走り出したストローグさんを追いかけ、俺も走った。


 ストローグさんの雰囲気が少し変わったことに違和感を持ったが、今はそれどころではなかった。


 ガルル……


「3匹……俺に任せてください!」


 さっきと同じようなモンスターが群れで現れた。

 でもこれくらいなら……行ける!


「待て!!!」


 そうストローグさんが叫んだ時にはもう遅かった。


「刃が……入らない!?」


 全力で振り下ろした剣は、少し刺さった位で全くさっきとは違う感触だった。


 ガルル!!!


「うわっ!!!」


 残りの2匹が俺に飛びかかる。やばい……避けれねぇ!!


 スパンスパンっ!


「下がれバッド!」


 後ろからストローグさんが間一髪間に合い、俺は助かった。


 良かった……けど、どうして。さっきと何ら変わらないモンスターのはずなのに。


「……さっきと感じる魔力が全然違ぇんだ。上位種……ではなさそうなんだけどな。さっきっからやばい魔力がビンビン感じる」


 スパンっ!


 残りを倒し、また走り出す。


「どうしてなんですか?」


「そんなん分からねぇけど……ヤバいってことは分かるな」


「モンスターもですけど……こっちもやばそうです」


 俺とストローグさんの目の前に現れたのは行き止まりだった。


「2択外したか……すぐ戻るぞ!!」


 その時だった。


 グラルル……!


「……!」


 俺でも分かる。有り得ないほどの魔力。目の前に現れたそのモンスターは、さっきのモンスターとは比べ物にならないくらいの大きさだった。


「な、なんですか……これ……」


「ヤバそうだな……こいつが一番魔力はなってたやつか……」


 よく見ると、その大きなモンスターの後ろには、さっきと同じようなモンスターがぞろぞろ居た。


「どうします……か? 俺は力になれないし……でも……! この数じゃ……」


「俺を舐めてんのか? バッド。お前は先に行け」


「先に行けって……」


「早くシュナちゃん探せって言ってんだ!!」


「で、でも……!」


「感じた魔力大半は多分こいつらだ。だからさっさと行け!! 足止めは……俺がする」


 そう言ってストローグさんは走り出した。

 それに合わせて俺も走り出す。


 ストローグさんは俺を信じて先に行かせるのだろうか。


 それとも、自分の名誉の為だろうか。


 ガキン!


 ストローグさんの大きな剣とモンスターのしっぽがぶつかり合う。


「今だ! 行け! 俺はお前を信じてる!! 死んだら許さねぇかんな!!!!」


「……はい!」


 俺はストローグさんとモンスターを置いてもう1つの道へと走った。



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