一度目の人生を、再び
「おはよう、ございます……」
「……おはようございます」
これが、
ブリジットが皇都ロンディニアを離れてノルウィッチに移り住み、皇国の矛であるグレンもそれに付き従った。
サイラス将軍も、エドワード王の命によりヴァルロワ方面軍の総司令官としてノルマンドに着任しており、既に皇都にはいない。
つまり……アビゲイル皇女の最大の支援者は、もう皇都には一人も残ってはいないのだ。
全てのことが、
「…………………………」
「…………………………」
朝食を終え、無言で席を立った僕は、着替えて訓練場へと向かった。
「……皇宮なのに騎士がいないなんて、寂しいね」
ミックとテリーも、サイラス将軍と共にノルマンドに赴任しており、ここにはいない。
……いや、皇国騎士団は全て、ノルウィッチあるいはノルマンドに行ってしまったのだ。
ブリジットが自身の体制づくりのために騎士を引き抜くというのはまだ理解できるが、全ての戦力をノルマンドに投入してしまった、エドワード王の真意が分からない。
毒から回復したこともあり、王国との決戦に向けて準備をするにしても、いくらなんでも無防備すぎる……って。
「それももう、僕が考えるようなことじゃないか」
残念ながら、あれほど惹かれてやまなかったアビゲイル皇女は、僕を強引に将軍に任命したことでブリジットとの確執が表面化し、以前の『ギロチン皇女』に戻ってしまった。
もう……彼女のことが分からない。
「……結局、
エドワード王の崩御を阻止し、僕自身も皇国の剣と認められたことで、調子に乗ってしまったみたいだ。
所詮、僕は不義の子の第六王子でしかないのに。
すると。
「クレア……」
「ギュスターヴ殿下、少々よろしいでしょうか」
現れたのは、アビゲイル皇女の侍女であるクレア。
一体、どうしたというのだろうか。
「僕に何か用か?」
「……どうして、アビゲイル殿下に寄り添おうとなさらないのですか?」
「え?」
クレアの言葉の意味が分からず、僕は思わず呆けた声を漏らした。
「あなたを将軍に任命するように皇王陛下に進言されたのも、全てはあなたが皇国内で肩身の狭い思いをしないようにするため。そのことに気づかないあなたではないでしょう?」
「…………………………」
「なのにあなたは、まるでアビゲイル殿下を避け、将軍としての責務も
クレアめ、はっきり言ってくれるじゃないか。
確かに僕は、将軍に任命されたもののその職務に一切従事していない。
というより、最初から軍権はサイラス将軍とグレンが持っており、僕はただのお飾りでしかないのだ。
だからこそ余計に、皇国の騎士や兵士達から
「……いずれにせよ、皇国に居場所なんて、最初からなかったんだ。そんな僕が、今さら……っ!?」「あなたは! ゴールトン伯爵の部下達に襲われた時、私を助けてくださいました! 『アビゲイル殿下が悲しむから』と!」
クレアが僕の胸倉をつかみ、詰め寄る。
今にも、泣き出しそうな表情で。
「あれは嘘だったのですか! あの時のあなたの想いは、一体どこに行ってしまわれたのですか!」
「……オマエには関係ない」
「関係あります! あなたがそんなだったら、私は……私は……っ」
とうとう
その言葉の続きが何なのか分からないが、少なくとも僕にそれを聞く資格はないだろう。
「引き続き……アビゲイル殿下を頼む」
「っ! ま、待って……」
彼女の伸ばす手を振り払うように、僕は訓練場を後にする。
その先には。
「マリエット……」
「ギュスターヴ殿下、お迎えにまいりました」
慈愛を
そんな彼女に包まれ、僕は部屋へと戻ると。
「それで……君のほうは順調なのか?」
「はい。これで、殿下をお救いすることができそうです」
「そうか」
どうやら、上手くいっているようだ。
彼女から聞かされたのは、ヴァルロワ王国による『ギュスターヴ奪還計画』。
王国でも選りすぐりの者で構成された部隊をロンディニアに侵入させ、秘密裏に僕をここから連れ出し、王国へと戻るというもの。
発案はマリエットだが、このことは聖女セシルが積極的に動いてくれたそうだ。
「王国からの連絡では、聖女様も殿下のことを気にかけておられるようです。先日の『アイリスの紋章』の授与の際、皇国にいいように操られてしまった殿下のお姿を見ておられますから……」
「……言わないでくれ。あれは僕の最大の
僕は恥ずかしさから逃れるかのように、両手で顔を覆い隠した。
「ね……ギュスターヴ殿下……」
「マリエット……?」
隣に座り、マリエットはいつものように僕を抱きしめる。
「王国に戻ってからも、その……私を、あなたのお
「そ、そんなの、当然じゃないか!」
「フフ……侍女としてではなく、あなたの伴侶として、ですよ?」
「あ……」
どうやら僕は意味を勘違いしていたらしく、マリエットはクスリ、と笑った。
でも……僕の答えは決まっている。
「もちろんだ……いや、どうかこの僕の妻になってはくれないだろうか」
「! う、嬉しいです……!」
胸に顔をうずめ、マリエットが瞳を潤ませる。
そんな彼女の髪を、僕は優しく撫でた。
さあ……あとは、迎えるだけ。
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