永遠の忠誠を
「しょ、勝者、ギュスターヴ=オブ=ストラスクライド!」
審判が勝ち名乗りを上げ、僕とフィリップの試合が終わった。
だけど。
「「「「「…………………………」」」」」
フィリップの無残な姿に……いや、ヴァルロワの王子であり、同じく第三王子のフィリップの弟である僕が、非情にもここまでのことをしたことに、民衆達は全員声を失っている。
とはいえ、僕がもう王国などとは縁が切れており、既にストラスクライド皇国側の人間であることは理解してくれたことだろう。
「ギュ、ギュスターヴ殿下! これはあまりにもやり過ぎです! フィリップ殿下に対し、ここまでする必要が……」
「申し訳ございません。皇国に来るまではフィリップ兄上の足元にも及ばなかったため、胸を借りるつもりで全力を出して戦いました」
「で、ですが……」
「それと、本日は聖女様がこの場にいらっしゃいましたので、
聖女の言葉を
フィリップには是非とも回復してもらいたいのは、純粋な僕の願いでもある。
だって、そうじゃなかったら、もっと絶望を味わわせることができないじゃないか。
それに、きっとコイツは怪我が回復したら、僕にこれ以上ない恨みを持って皇都襲撃が行われる
本当に、その時が楽しみだよ。
「……フィリップ殿下、今、治療いたします」
切り離された両腕をそれぞれフィリップの肩口の断面に合わせ、聖女が祈りを捧げた。
すると、
「ふう……これで、大丈夫……ですね……」
額の珠のような汗を
どうやら治癒の力の行使には、相当な体力が必要のようだ。
さて。
僕はエドワード王、アビゲイル皇女、ブリジットがいる皇族専用の席の前までゆっくりと歩を進めると。
「この勝利を、ストラスクライド皇国に捧げます」
「うむ。ギュスターヴ殿下よ、見事であった」
エドワード王が僕を見て満足げに頷く。
その隣に座るブリジットは満面の笑みで拍手を送り、アビゲイル皇女は……僕を見つめ、胸を撫で下ろしていた。
「皆の者よ! 本日、皇国の最強の武が示された。皇国の盾、皇国の矛……そして、新たに誕生した
エドワード王の言葉により、民衆達は割れんばかりの拍手と歓声を送る。
僕は。
「アビゲイル殿下! どうぞこちらへ!」
彼女を見つめて一礼し、この舞台に来ていただくようにお願いした。
少し戸惑うような仕草を見せるものの、アビゲイル皇女はゆっくりと頷くと、席を立ってこちらへと下りてくる。
「ギュスターヴ殿下、お見事でした。それと……ご無事で何よりでした」
「ありがとうございます」
アビゲイル皇女が、称賛と
もちろん嬉しいけど、彼女をここに呼んだのは他でもない。
僕はゆっくりと
「ギュスターヴ=オブ=ストラスクライドは、この剣を世界一大切な婚約者……そして、たった一人の
「え……? あ……」
まさか、このようなことをするとは思ってもみなかったのだろう。
アビゲイル皇女は戸惑い、おろおろと周囲を見回す。
「ハッハ! このサイラス=ガーランド、我が剣を
「同じく。グレン=コルベットの剣は、
いつの間にか僕の後ろに控えていた二人が、同じように
実は、サイラス将軍とグレイとは、最初から口裏を合わせていた。
フィリップ率いるヴァルロワ王国騎士団の連中を完膚なきまでに叩きのめし、アビゲイル皇女に永遠の忠誠を誓うことで、皇国の軍部の全てが彼女を支援することを皇国の内外に正式に表明することを。
いずれヴァルロワ王国を打倒するという、強烈な意思表示を行うことを。
「あ……そ、その……私……」
「アビゲイル殿下は、ただ受け入れてくださればいいんです。そして、あなたの笑顔を見せてください。『ギロチン皇女』などではない、本当のあなたの笑顔を」
そうだ、僕は見たいんだ。
誰にも遠慮することなく、自分の思いに蓋をすることもなく、ただ、本当のあなたの姿を。
「本当に……本当に……あなた様は……っ」
「あ……」
「ハッハ……これはこれは」
「…………………………」
アビゲイル皇女が、ぽろぽろと涙を
でも、彼女の表情はくしゃくしゃなのに、一生懸命笑おうとしていて……。
僕は、永遠に忘れない。
かつて『ギロチン皇女』と呼ばれたアビゲイル=オブ=ストラスクライドの、世界一綺麗な、不器用な笑顔を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます