二人目の理解者
「さあて、行くか」
アビゲイル皇女との朝食を済ませ、僕は訓練着に着替えて部屋を出る。
グレンとの立ち合いから三日が過ぎ、怪我は完治していないものの、腫れも引いて熱も下がったため、剣術の訓練に向かうのだ。
……いや、グレンとの立ち合いに、と言ったほうが正しいだろうか。
そう……僕は性懲りもなく、再びグレンに挑もうとしている。
自分自身が強くなるため、というのもあるけど、グレンに認めてもらうためには、何度だって挑むつもりだ。
グレンはヴァルロワの王子である僕のことが気に入らないかもしれないが、それでも、王国の皇都襲撃を逆に返り討ちにし、復讐を果たすためにはあの男の力がどうしても必要だから。
とはいえ、毎回毎回ぼろぼろにされるのはつらいので、早めに折れてくれると助かるけど。
なお、このことはアビゲイル皇女にも話をしてある。
もちろん、本当の目的については伏せたままにし、あくまでも僕自身が強くなりたいからとだけ告げて。
彼女からは『絶対に駄目です』と認めてくれなかったけど、粘り強くお願いをした結果、かなり渋々ではあるものの何とか受け入れてくれた。
僕が絶対に折れないことを、彼女も悟ったのだろう。
アビゲイル皇女に黙ってグレンと立ち合ってもよかったのかもしれないけど、僕はあれだけ彼女に心配をかけ、悲しませてしまったんだ。
納得をしてもらえないまでも、ちゃんと話をすべきだと思ったから。
ということで。
「「「「「っ!?」」」」」
まさか、僕が再び顔を出すとは思わなかったのだろう。
訓練をしている騎士達が、訓練場に現れた僕を見て一斉に息を呑んだ。
「…………………………」
訓練場に立つグレンが、鋭い視線をこちらに向けている。
三日前のような無関心なものとは違い、明確に僕を意識して。
まあ、お咎めなしとはいえ、小言の一つや二つは言われただろうから、
「グレン殿、僕と……」
「悪いが、グレンと立ち合わせるわけにはまいりませぬな」
僕とグレンの間に割って入ったのは、サイラス将軍だった。
彼は三日前の和やかな雰囲気とは異なり、険しい表情を見せている。
先日のくだけた様子から、比較的容易に仲間に引き入れることができるかもと思ったけど、グレンと立ち合ったことで心象を悪くしてしまったか……?
「先日のことで、ギュスターヴ殿下とグレンの実力差は明白。それに、この男も騎士団長であり、忙しい身。これ以上、殿下の
「…………………………」
そう言われてしまうと、何も反論できない。
粘ってみてもいいが、それで余計に
……仕方ない。今日のところは諦めて……って。
「殿下は我々と違ってお暇でしょうから、これでも振って時間でも潰すのがよろしかろう」
「え……っ!?」
無造作に手渡された、通常よりも二倍の太さもある木剣。
だけど、その重量は二倍どころか四倍……いや、五倍はあるぞ!?
「ほう……? 皇国ならこの程度の
「っ!」
口
というか……あはは、
もしこの
それに……不義の子の第六王子である僕にこんなまなざしを向ける人は、王国でも皇国でも、あなたで
「……そこまで言われては、僕も引き下がれません。この
「ほ……それは楽しみですわい」
いずれにせよ、サイラスが僕とグレンの立ち合いを認めないということは、実力不足というだけでなく、そんなことをしても意味がないと判断したからだろう。
なら……グレンとの立ち合いに意味を見出せるまで、強くなるしかない。
ということで。
「く……っ」
「おや? まだ百回も素振りができてはおりませぬな」
フラフラになりながら木剣を振る僕に、隙を見ては
僕のことを『暇』だと言い放った割に、将軍こそ暇そうですね……と言いたいところだけど、彼の後ろで物言いたげな人がいることからも、わざわざ僕に付き合ってくれているんだな。
……これじゃ、何としても強くなるしかないね。
それから僕は、特別製の木剣に逆に振り回されつつも、日が暮れるまで一心不乱に振るい続けた。
すると。
「ギュスターヴ殿下」
「あ……アビゲイル殿下」
エレンを連れて訓練場にやって来た彼女に、僕は慌てて駆け寄る。
「このようなところに、どうなさったのですか?」
「いえ……あなた様が、また無茶をなされているのではと思いまして」
冷ややかな視線を送り、そんな皮肉を告げるアビゲイル皇女。
居たたまれない僕は、思わず口ごもってしまう。
「あ、あはは……最初はグレン殿との再戦に意気込んでおりましたが、結局認められませんでしたので、今はこうやって剣の素振りに勤しんでおります」
「そうでしたか」
僕の答えを聞き、表情こそ変えないものの、その声色といいあからさまに機嫌がよくなった。
今夜彼女の部屋に伺ったら、きっと嬉しそうにしてくれることだろう。
「それで……ギュスターヴ殿下の訓練は、まだ続きますでしょうか……?」
おずおずと尋ねるアビゲイル皇女に、僕はチラリ、とサイラス将軍を
「いえ。これで切り上げますので、もしよろしければ夕食をご一緒しても?」
「っ! も、もちろんです」
僕は彼女の小さな手を取ると、訓練場を後にする。
だけど。
「…………………………」
グレンの僕達に向ける視線が、妙に気になった。
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