元カノと牧場で

//車のドアの開閉音✕2


;;正面


「んんっ! 着いたねー。運転お疲れ様、後輩くん」


「すー、はぁーっ」


「んー……この独特の匂いを嗅ぐと牧場って感じするなぁ」


「そうですよー。私は匂いフェチですよー」


「いや、待って。そこで納得しないで……引かれると思って一応隠してたつもりなんだけど……車に乗って芳香剤がどうとか言っちゃったから?」


「今? もう隠す必要ないかなって。今更引かれても別に……」


「え? もっと前から知ってた? ……うん? 高校時代ってこと?」

□本気で心当たりがない感じで


「ヒントは体育祭? 私が3年生のとき――あぁっ!?」


「どうして変なことばっかり覚えてるかな……確かにされた側のほうが記憶に残りそうだけど……」


「えぇ……本当に合ってるか確認したいから言えって? なんか後輩くん、すっごく意地悪になってない? そっちが素なの?」


「まぁ……確かに隠す必要ないわね……お互い」


「言えばいいんでしょ? ……体育祭で後輩くんが競技中で居ないのをいいことにジャージをクンカクンカしていました! バッチリ本人に目撃されました! 体臭と汗と砂埃の匂いがミックスされていて今でも記憶に残ってます!」

□ヤケぎみに


「だって、借り物競走で『好きな人』とかピンポイントで引いてくるとは思わないじゃん」


「クラスの皆にバレちゃうのに隠すこともなく迷わず来てくれたことは嬉しかったけど」

□ニヤニヤと


「後輩くんはゴールしたあとクラスの皆に冷やかされてたよね……くすっ、思い出すだけで笑える」


「『まぁ、あっさり別れたんだけど』とか言わないで……事実だけど」


「……元カノに対してならともかく、他の女の子に嫌味ばかり言ってると嫌われちゃうからね?」


「……そういえば訊いてなかったけど、今ってフリーなの?」


「そうだよね、じゃなきゃふたりで旅行なんて来ないか。後輩くんはその点に関しては信頼出来たもんね」


「私? 女友達と来る予定だったこの旅行以外は、バイトしながら教習所に通う予定ですが?」


「寂しい言うな。お互い様でしょうが」


「あっ! ちょっと、いきなり歩き出さないでよ。置いてかないで!」


//駆け寄ってくる音


;;左側へ移動。近め


「後輩くん、捕まえた!」


//腕に抱きついてくる音


「――あ……」

□やらかしに気づいた感じで


「……つい癖で抱きついちゃった……ごめん、嫌だったよね? すぐ離れるから……」


;;左側。離れる


「あれ……?」


「……元カノが相手でも、腕に抱きつかれて嬉しいかったんだ? 口元が緩んでるよ?」


「私にはバレバレなんだよねぇ。何度そのニヤケ顔を見てきたことか。ねえ後輩くん?」


「へぇ……否定しないで黙っちゃうんだ」


「別にぃ? 深い意味なんてありませんよー」

□楽しそうに


「最初にこの牧場を選んだ理由? 露骨に話題を変えに来たね……」

□呆れぎみに


「那須って言ったら、やっぱり食べ物じゃない? 有名なパン屋さんもあるし、ステーキとかハンバーグ。川魚もあるし、なによりも牧場のソフトクリーム! しかも何ヶ所もあるのが最高だよね」


「後輩くんはどういうイメージを持ってるの?」


「あー確かにアウトドア施設も多いよね。キャンプ場とか。最近だとグランピング施設も増えてるみたいだね」


「しかも、その気になれば車でも電車でも日帰り出来る距離なのが点数高いよね」


「そういえば後輩くんは友達とかと那須まで遊びに来ることあったのかな? ナビも使わずに迷わず下道で来たよね? それも混んでると嫌だからって国道避けて」


「へぇー、仕事のストレス発散に丁度いい距離なんだ。それじゃあ結構詳しい感じ?」


「そうでもない? なるほど……1人で登山したり、自然の中で過ごしてばかりだからお店はイマイチと。真っ先にアウトドア系って出てきたのはそれが理由なんだ。納得」


「――そうだ、もしかして食事の出来る釣り堀とか知ってたりする?」


「よかった。私、川魚ってあんまり食べたこと無いから興味あるんだよね。釣り含めて。オススメのお店ある?」


「あるんだ。じゃあ次はそこ行こ? 後輩くんがオススメするなら外れないだろうし」


「でも安心したかも。私ばかり楽しんで、2日間付き合わせるだけになっちゃうかもって少し心配だったんだよね……後輩くんも他に行きたいところあったら言ってね?」


「でも……私も後輩くんも……どうして付き合ってた頃のデート先に浮かばなかったんだろうね?」


「……やめて、ふたりとも引きこもり体質だったから地元で十分だったとか言わないで。高校を卒業して活動的になったとか単純明快な答えは求めてないから」


「立ち止まってどうしたの? へぇ、どれどれ?」


「あそこがソフトクリーム屋さんなんだ。券売機で食券を買って、隣の窓から店員さんに渡すと」


「んー迷うなぁ。バニラが2種類あるし……高いほうが濃厚って書いてある。チョコも捨てがたいし、期間限定も……」


「後輩くんはどうするの?」


「チョコなんだ……私はバニラにしようかな。そうすれば――」


「――ううん、なんでもない」


//発券音✕2


「ふたつお願いします…………はい、ありがとうございます」

□店員に向けて他人行儀で


「わぁ、美味しそう」


「はい、後輩くんのチョコ味」


「ペロッ――んんっ、美味しい! 地元のショッピングモールとかで食べるのと全然違うね」


「うんうん、暑いから早く食べないと溶けちゃうね。ペロペロ」


「……じー」


「ね、ねえ後輩くん? 私のバニラをひと口あげるから――」


「――うっ、言い終わる前に差し出されると予想されてたみたいでムカつくなぁ……」


「自分でも面倒くさいこと言ってると思うけど……」


「あぁー、そっか。さっき途中で言い止めたのに内容バレバレだったんだ……」


「なんで付き合ってた頃より意思疎通が簡単に出来てるのかな……最後の方は言葉にしてもすれ違ってたはずなのにね」


「ほんとにね……変な感じ」


「あっ、垂れちゃいそう――ペロッ」


「ん~~♪ チョコも美味しい♪」


「はい、後輩くんもバニラどうぞ」


「だよね、美味しいよね……」

□言葉の途中からなにかに気づいた感じで


「どうもしないけど……お互いに口をつけたところに遠慮も躊躇もなくいったなぁと」


「いや、うん。今更だっていうのはごもっともだけど……まぁいいや。レロッ」


「このあと? どうしよっか? 折角の牧場だし、乗馬体験とかしてみる? 動物のふれあいコーナーとかもあるみたいだけど……」


「私の目的? ここはソフトクリームで達成してるよ」


「あー……そっか、釣り堀って、魚を釣る時間に加えて焼き時間まで見なくちゃいけないのか。後輩くんオススメのお店は炭火でじっくり焼くんだ? 30分くらい掛かるし、お昼時は混んで時間が読めなくなると」


「……なら行っちゃおうか? 土曜日の午前中ならまだ混まないよね?」


「うん、私は大丈夫」


「今回の旅行の目当ては色々と食べることだから」


「それじゃ次の目的地決定だね♪」


end

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