元カノと釣り堀で

;;立ち位置 右側


「結構混んでない? 夏休みだから?」


「へぇ~連休とかはこんなもんじゃないんだ。というか……確認なんだけど、釣り堀なんだよね? ここ」


//ゴーカートのエンジン音(可能なら右奥から


「ゴーカートが走ってるし、芝ソリにパターゴルフまであるんだけど……」


「え……卓球場まであるの? 本当に?」


「いや、さっきも言ったけどやらないよ! 結果見えてるし賭けが成立しないからね」


「あ、釣り池の隣はつかみ取り池なんだ……子供向けだよね?」


「え、大学生のグループとか若いカップルとかがやることもあるんだ……まぁ、私は裸足になるだけだし、後輩くんも裾を捲っちゃえば問題ないのか……ふむ」


「……んーやめとく。今回は釣りをやってみたい」


「受付お願いしてもいい? 私こういうのわからないから」


「カウンターでバケツと餌を受け取って……竿は池のところ?」


「ちょっと見せてくれる? ……これが餌……ほっ」


「よかった……虫じゃなかった……私、足が多いのと逆に足が無いの無理なんだよね……って、よく知ってるか。私の部屋に来た時に何度か虫退治してくれてるもんね」


「この釣り堀は練りエサ? ――つまり、他だと虫を使ってるところもあるって意味だよね? ……もしかして私のことを考えてくれたのかな?」


「そっかそっか……ふふっ」


「こらっ、表情を見ようとして覗き込まないの。俯いたんだから察して欲しいんだけど!」


「んと……竿がこれで、グリップに針が固定されてるから外してと」


「練りエサを千切って針につければいいんだよね?」


「……こんな感じ? 大きいの? 針を隠すくらい……こ、こう?」


「――オッケー覚えた。次からはひとりでも出来るはず」


「……すんすん。んー、結構臭いが手についちゃってる」

□ややテンション下がり気味


「あんまり好ましい臭いじゃないね……コレって石鹸で落ちるの?」


「ちゃんと落ちるんなら別にいいや」


「それで次は池に向けて糸を垂らすと――うわわっ、引いてる!」


「ちょ、こ、後輩くん! どうしたらいいの!? 笑ってないで助けてよ!」


;;右側近づく


「竿を立てると――おーっ、なるほど……目の前に糸が来るから持てるようになるのか……冷静に考えればすぐに分かることなんだけど……」


「……針を魚の口から外して、バケツに――」


//バケツの水が跳ねる音


「――うひゃぁ!?」


「うー……水が思いっきり顔に跳ねたんだけど……しかも目元に……ハンカチ……あ、手が練りエサで汚れてるんだよね……流石にこのままポケットの中に突っ込むのは抵抗が……でも水道まで行くの面倒くさいなぁ……」


「後輩くん。悪いんだけどさ……私のショートパンツの左側ポケットにハンカチ入ってるから出してくれない?」


::右側、更に近づく


「うん、ありがと……これでよしっと」


「あれ? 後輩くんどうしたの? なんか面白い顔してるけど」


「もしかしてポケットの中に手を入れた時に、私の太ももの感触で何か思うところでもあったのかなぁ? 胸だって直に揉んだことあるのに、今更脚で意識しちゃってるとか? まさかねぇ?」

□からかう感じで


「違う? それはそれでなんだか……複雑な気分というか……いや、元カレ相手にない言ってるんだろ私……」


「んんっ!」


「それで正解は?」


「私の素で出た悲鳴が面白かった?」


「……っ」


「…………あのね後輩くん。よく考えてみて?」


「例えばだよ? 私が後輩くんの前で『きゃあっ』なんて悲鳴あげたとするでしょ?  それはそれで今になって可愛こぶんなって言い出さない?」


「そこで肯定するのもさぁ……付き合ってた頃の私が馬鹿みたいに思えるんだけど」


「いいトコ見せようとキャラを作ってたのはお互い様でしょ……お陰でさっきから印象変わってきてるし。後輩くんって優しいだけじゃなくて意外と意地悪なところがあったんだなぁって」


「……でもさ、なんか今の方が気楽に話せてる気がするんだよね……良いんだか悪いんだか知らないけど」


「……まぁ、どうでもいいよね」

□ボソッと呟く感じで


;;右側 元の位置に離れる


「それで取り敢えず1匹は釣れたけど……何匹釣ればいいと思う?」


「お昼ごはんにするか、軽食かで変わりそうだけど……一応、このあとパン屋さん巡りして、夜はホテルのバイキングでステーキ食べるつもりだから……ここでいっぱい食べるのは無理かな?」


「え? お酒? 私は好きだよ?」


「そっか。後輩くんもお酒飲める歳になってるんだもんね」


「あ……わざわざ訊いてきたってことは、後輩くんも好きなんだ? なら寝る前にふたりで飲もっか」


「太りそう言わないで……大丈夫のはず……」


「魚……1人1匹にしておこうか」


「……え? ここって塩焼きはもちろん、唐揚げが美味しいの? 骨とか頭までお菓子みたいに食べられる?」


「……1人2匹にしよう。それ聞いちゃったら両方試したくなるじゃん」


「という訳で、えいっ! 2匹目を――ゲット! ――ととっ、いひぃっ!?」


「びっくりした……魚がちょうど内ももにビシャって……糸の長さが絶妙すぎない?」


「――後輩くん? 悲鳴は『きゃあっ』じゃなくて良いのかって、まだ擦るの?」

□少し冷めた声色で


「ぷぷっ、冗談だよ。そんなに慌てなくても、別に怒ってないから」


「あれ? この魚、模様違うけど?」


「最初がイワナで、次がニジマスなんだ……そういえばゲームでたまに出てくるね」


「どっちが美味しいの?」


「うん、結局は好みなのはわかってる」


「でも私と後輩くんって好み似てるよね? だから訊いておこうかなと」


「ほうほう……イワナのほうが癖がなくて後輩くんのオススメと。ニジマスは塩焼きでイワナはどっちもいけるんだ」


「なら、あと2匹はイワナが釣れるように狙う――のは無理か。願っててね」


「……え? 池には3種類入ってるの? 残りは……ヤマメ? 数が少ないけど、こっちも美味しい?」


「せっかくなら食べ比べしたいよねぇ。頑張ってみるねっ」


――――

――


;;正面に移動


「あはは……結局、イワナが2匹にニジマスが3匹で、ヤマメが1匹になっちゃったね……塩焼き3の唐揚げが3」


「こうやって並んでるの見ると、結構お腹に溜まりそう……」


「はい、諦めの悪い私のせいなので責任持って食べるから大丈夫。いただきます!」


end

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る