元カノと車中で

;;左側やや遠い位置


「教えてもらったナンバー……この車だよね?」


「んーと……よかった正解だ」


//窓をノックする音


//パワーウィンドウが開く音


;;正面やや遠い位置


「お、おはよう……ございます」


「……っ」


「ひ、久しぶり……えへへ……乗っていい?」


「ありがとう。失礼しまーす」


//車のドアが開く音


//シートベルトを締める音


//パワーウィンドウが閉まる音


//ここからエンジン音


;;正面近づく


「えっと……これから2日間よろしくね……」


「ん……」


「…………ぅ」


「…………ね、ねえ……なにか喋ってよ」


「……」


「…………っ」


「…………もしかしてだけど、私が話振るの待ってるのかな?」


「前はもっと貴方から話題を振ってくれてたと思うんだけど」


「でも、そうだよね……会うのあの日以来だもんね……ちょっと、距離感に困るよね……」


「うっ……うん、私も同じだし文句言える立場じゃないです……」


「通話だと全然平気だったんだけど……直接顔を合わせると、色々とね……貴方もでしょ? 前はしっかり目が合ってたのに、今は合わないもん」


「……私が視線を逸らしてる? ……否定出来ないかなぁ……」


「……コレを懐かしいって言われても……人見知りは大分改善しましたー」

□後半はわざとらしく不機嫌に


「ちょっとぉ! 陰キャは酷くないかな? 自己主張が苦手なだけだから」


「……わかってる。自分で言ってて説得力無いなと感じてるし」


「昔より口数増えたなって……こうなった原因のほとんどが貴方じゃない?」


「返事するまで話しかけてきたもんね……高校時代。今になって思うけど、よく私のことを嫌にならなかったよね。かなり素っ気なかった気がするけど」


「…………知ってる。私の声が好きで聞きたいって何度も言われたから」


「…………赤くなってないから。貴方だって照れてるじゃない……なんで付き合う前みたいな会話になってるのよ……」


「……そうだねお互いに調子が出てきた感じするし、こうして喋ってるのも悪い気はしないけど……混む前に那須に着きたいし……」


「うん。忘れ物もないし準備バッチリだから、出発お願いします」


;;左側へ


;;ここから車の走る音


「……ん」


「…………あ」


「……すんすん」


「部屋に行くといつもこの匂いしてたよね? アクア系の芳香剤。好みは変わってないんだ……ちょっと安心したかも」


「私? 私も自分ではそんなに変わってないと思ってるけど……どう?」


「え? 服装? 大人っぽくなったとか?」

□嬉しそうな、期待するような


「確かに今日はスカートじゃないけど……?」

□理解できずに悩みながら


「あ、あー! そういうことか。確かに高校じゃ制服だし、私服で会う時もスカートばっかだったね」


「……当時は一応、清楚系を目指してワンピース着たりしてたねぇ」


「貴方以外には不評だったけど」


「……まさか貴方も内心では微妙だと思ってたとか……?」

□本気で心配げに


「よかった……流石にソレは衝撃の事実すぎてショックだから……助かった」


「でも、なるほどねぇ……そもそも、私がショートパンツ穿くようになったの、別れてからかも。貴方にとっては変化といえば変化になるのね」


「理由? ……んー……大学入って、友達と遊びに行くことが増えて……活動的な子ばかりだから引っ張られるようにって感じ」


「あのさ……しっかりと別の理由がメインとか見破るのやめてくれない?」


「……何度見てきたかって、お互い様でしょうに」


「正直に言っても怒らない?」


「……信じるからね?」


「…………信じる、か。それが出来なくて別れたのに……」

□ボソッと小声で


「……ごめん、今のは完全に失言だったのわかってるから」


「正直に言えば聞かなかったことにしてくれるって……ズルいなぁ」


「貴方がスカートだと嬉しそうだったから合わせてたけど、必要なくなったし気分転換したかったからかなぁ……?」


「…………」


「…………う、ほら、こういう空気になると思って言わなかったのに、馬鹿」


「最初の理由も嘘じゃないからね?」

□慌てて誤魔化す感じで


「ほら、屋内のスポーツ施設とか行くのよ。CMでやってるような場所。そのときに周りが動きやすい格好してるのに私ひとりだけワンピースとか着てたら浮いちゃうでしょ?」


「というか……体力はなんとかなるけど、それ以外はぶっちゃけ足引っ張ってるから、服装まで浮いてたら色々と友人関係が不安になるんだよね。周りの目もだけど……」

□自嘲気味に


「う、運動音痴じゃないし、変なこと言わないでもらえる?」


「え……なら勝負しようって……確かにホテルに卓球とかあるだろうけど……負けたら罰ゲーム? 私が貴方に勝てる訳ないよね? よく知ってるでしょ?」


「……? どうしたの? 気になること?」


「……この『貴方』呼び?」


「いやー……やっぱり気になる?」


「ほ、ほら……名前呼びだと……付き合ってた頃を思い出しちゃうし……だからって苗字呼びも、今更変な感じするじゃない?」


「わかってる。それを言うなら『貴方』呼びは新婚か! ってツッコミ入れられそうなのはわかってるから」


「他に思い浮かばなかったんだから仕方ないじゃん」

□いじけた感じで


「――なら希望がある? なになに?」


「え……そうなるの?」


「本人が望むならいいけど……後輩くん」


「確認なんだけど、どっからこの発想が出てきたの?」


「……昨日読んだ先輩後輩のラブコメ漫画?」


「先輩後輩のラブコメ……」


「ふーん」

□ちょっと嬉しそうに


「別にー? 深い意味なんてないから。変わらないなぁと思っただけ」


「くすっ、なんでもないですよー」


「ね? 後輩くん♪」


end

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