第二節 男なのに女子、女だけど男子
第六話
ついに再登校の日が来た。
学校側は気を使ってくれたのか、二校時目が始まるまでに登校せよとの指示があり、今までより一時間ほど遅く家を出る。
女子の制服を身に着けた僕は、初めて一人で外を歩いている。多少の恥ずかしさや心細さはあるけれど、これからもこの服装をしなくてはならないのだから、もう開き直るしかないだろう。
それと夕べの件でわかっていたけど、やっぱりスカートのはき心地は悪くなかった。だからって制服以外でもスカートをはいてみたいとまでは、今のところは思ってない。流石にそれはやりすぎだし、わざわざ自分から矛盾を積み重ねなくてもいいはずだ。
最寄り駅から電車に乗る。いつもの通学時間と違う時間帯だったから混雑のピークは過ぎていて、慣れないスカート姿で激しいラッシュに巻き込まれなかったのは気が楽だった。学校近くの駅で降りると、一校時目の途中から校舎に入る。
二校時目は保健室において、養護教諭も立ち会いつつ、担任から様々な話を聞かされる。
僕が朝おんしたことは、すでにクラスメイト達には説明してあること。学籍上は男子として扱うが、状況が状況だけに、学校側としては僕に様々な配慮がなされること。そのうえで、僕に対しては最低限でも節度を持って接するようにと言い含めてある。とのことだった。
逆に僕への指示として、不慣れな環境下で気分や体調が悪くなったら、すぐ保健室へ来ることを勧めてきた。そしてプライバシー保護の観点から、誰かから朝おんのことを興味本位で聞かれても、必要以上に話さないようにと釘を差す
続いて三校時目、僕は担任に連れられて、ついに元のクラスへと入った。男女全員からの興味を込めた視線が集中する中、無言で自分の席へ着く。
その時間は担任の担当である現国だったが、最初の十数分は改めて僕に対する説明が行われた。後は授業に入ったが、クラスメイト達はやはり気になるのか、チラリチラリとこちらを見ているのがわかった。
授業が終わり、担任が教室から出ていくと、皆が僕の周りに集まってきた。最初に声をかけてきたのは、僕に朝おんの噂を教えてくれた、男の友達だ。
「お前、本当に徳田だよな?」
「ああ、見ての通り朝おんしたけどね」
初めて僕がしゃべると、周囲が一斉にどよめく。
「声まで女になってるんだな」
「なんか前より高くなってるし!」
今度は僕がハッとした。
女になった時から、自分が話している声に多少の違和感はあった。そういえば他人がスマホで録音した僕の声を、再生で聞かされた時、今まで頭の中で聞いているのと全く違う感じがしたの覚えている。逆にそれが、他人が普通に聞く僕の声だったわけで、周りがこれほど驚くからには、僕は喉というか声帯まで変化していたのだと、ようやく気づかされる。
また声以外でも、変化による違いを思い知らされたことがあった。
今でも僕の身長は175cmで、男子の平均よりやや高い程度だ。そんな僕が女になったことで、改めて周りを見回してみると、同じクラスどころか校内全体でも、ほとんどの女子が僕の肩に届く程度の背丈しかないことに気がつく。
男だった時は、女より男の方が背が高いのは当たり前みたいに思っていた。だが今の僕は、大抵の女子や小柄な男子からは、見上げられるほどに首一つ抜けた大女と化しているのだ。だから校内を移動するだけでも目立ってしまうし、朝おんしたという噂も相まって注目の的とならざるを得ない。
面白くないことではあるけど、自分以外の誰かが朝おんしたら、やっぱり興味津々で眺めてしまうだろう。僕としては平然とした態度を貫き通すしか方法がなかった。
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