第四話
翌日の夕方遅く、生徒全員が下校した後、 僕は両親とともに校長室に入った。男の校長と担任の女教師が出迎えてくれる。
校長が言うには、今から二十年前に当校で朝おんした生徒がおり、学校全体でサポートしつつ卒業させたという事例があったとのことだった。つまりこの学校に伝わる、あの伝説……
――ある男子生徒が突然女に性転換してしまい、そのまま女子として卒業していった――
それは本当に起きていたことで、紛れもない事実だという。驚愕している僕へ追い打ちをかけるように、担任も意外なことを言い出す。
「私はこの学校の卒業生で、その朝おんした生徒とはクラスメイトだったのよ」
「先生の同級生!?」
まさか自分の担任が、学校伝説の目撃者だったとは思いもよらなかった。
ともかく二十年前とはいえ、そういった実績もあり学校側としては当時と同様のサポートで臨むから、このまま在学を続けてほしいという話だった。転校の手続きや費用などの問題を抱えなくても済むということで、両親としては概ね同意をしていたが、それでも僕自身は気が乗らない。
そんな僕に対して担任は、当時朝おんした生徒を取り巻くクラス内の状況を聞かせてくれた。いわく、クラスメイト達は最初こそ興味本位だったものの、やがて男子も女子も節度を持って接するようになり、当人も大きな不満や葛藤を抱えることなく無事に卒業できたという。そういった昔話を交えつつ在学を説得されたことで、僕も最終的には学校側の意見を受け入れることにした。
在学を続けるにあたっては、学籍簿上はあくまで男子であること。制服については体格の変化によって男子用が着られなくなったので、学校から女子用が貸与されること。また、他の生徒にも配慮して着替えについては教職員用の更衣室を、トイレについても教職員用を使用することが許可された。
ちなみに担任の同級生だったという、その朝おんした生徒が今どうなっているのかとたずねたところ、卒業して以来一度も会っていないので、男に戻ったか女のままなのかもわからない……とのことだった。卒業してしまうと同窓会でも開かれない限り、元クラスメイトの消息はつかめなくなるものらしい。
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