第7話 イリアクラウス
――――翌日――――
「――――
聞き慣れない名を聞いたトウゴは、眉をひそめて聞き返した。
部室のサボテンに水をやっていたケイも、サキの
「ええ。おそらく間違いないと思うのよね」
サキは自信に満ちた笑みを浮かべ、
ケイとトウゴは、サキの
「動画に映ってた例の変態をキャプチャして、顔の部分をトリミング。そんで
PCに表示されているのは、顔写真だ。
ビットが荒いうえに、ノイズがかかって
「おお。ずいぶんと鮮明な顔写真になったもんだな」
「すごい画像加工
「もっと
「んだよ。プロカメラマンが手伝ったなら当たり前の仕事かよ」
「褒めて損しました、部長」
「あなたたち、おちょくってる?」
サキは気を取り直し、顔写真をインターネットの検索エンジンへ、ドラッグ&ドロップする。
「で、この顔写真をインターネットの検索エンジンで、画像検索してみたのね。そうすると、広大なネットの中から、この顔写真に最も
検索ボタンをクリックした。
「結果はこの通り」
間もなく、いくつかの検索候補が画面へ表示された。
どれも、ある特定の男の顔写真ばかりである。
その画像の1つをクリックして、出てきた画面を見たトウゴが感心する。
「ははーん。なるほどなあ。浦谷ヨウジ“先生”のプロフィールページが出てくるわけかよ」
「これって……
この
区内の成績優秀者や、金持ちのご子息、ご令嬢が通う、いわゆるエリート進学校だ。卒業生は、だいたいが一流大学への進学者であり、過去に有名な政治家や
顔写真付きの、教員紹介ページである。
「うおお……。動画に出てきたキモいオッサンと、たしかに似てる顔だな」
「そうそう。ってことで、動画に出てきた変態は、星成学園の物理教師、浦谷ヨウジだったと推察しているわけ。どうかしら、私のこの推理」
感想を聞かれたケイとトウゴは、顔を見合わせた。
「どうって言われてもよ……。近くの高校の
「なんか身近にいる人すぎて、偶然が過ぎるというか。意外です。いったい教師が、どうしてあんなキモいことしてたんでしょう?」
「それを、これから調べてみるに決まってるでしょ!」
サキは目を輝かせて、じっとケイを見つめてきている。
なぜ自分へ熱い視線が送られているのか、ケイは察しがついて、嫌そうな顔をした。
「……なんか部長のその視線。不吉な予感がするんですけど」
「雨宮くん前に、星成学園には知り合いがいるって、言ってたわよね」
「やっぱりそうきましたか……」
「学園の周辺を、私たちみたいな他校生がウロウロ嗅ぎ回ってるのは目立つでしょ? 浦谷の耳に入るような噂に、なりたくないのよね。警戒されちゃうかもしれないし。ここは隠密行動が必要よ」
「オレの知り合いに、浦谷ヨウジのことをコッソリ取材して来いと?」
「やだ~。
星成学園へ、ケイを単独で送り込もうとするサキの提案。
聞いていたトウゴは、ニヤリと企みの笑みを浮かべた。
サキに便乗して、気乗りしていない様子のケイを
「
「ん? あの件って、なんのこと言ってるのよ?」
「フッフッフ。まあまあ。吉見くんには関係のない、男同士のデリケートな話だ」
「はあ? なによそれ」
浦谷ヨウジの情報を集めてこいと、命じてくるサキ。
そして、
ケイは、深いため息を漏らした。
「……1対2ですか。
◇◇◇
ケイたちの通う第三東高校から、電車で2つ隣の駅。
関東圏内は地方と違い、駅間の距離が短いため、そこは
先輩2人の指令を受けたケイは、星成学園の校門前まで、たどり着いていた。
夕陽に染まる校舎のどこかから、
校門のすぐ向こうは運動グラウンドになっており、陸上部と思わしき短パンの生徒たちが駆け回っていた。名門校であっても、放課後の雰囲気はケイたちの学校と、あまり大差がないように感じた。
「――――待たせたね、雨宮くん」
校門前で
振り向けば、その人物は相変わらずの
夕陽を浴びて輝く、美しい
上流階級生まれ特有の、上品で優雅な雰囲気をまとった人物だ。首には十字架のネックレスをしている。
見るからに外国人だ。日本人との
そして――――どうやら“今日は”、女子生徒の
「……」
その顔を見るなり、ケイは嫌そうな顔をする。言葉に詰まってしまった。
最初の出会いが特殊であったため、できることならもう、会いたくない人物であった。
「突然、ショートメッセージで呼び出された時は驚いたよ。まあ、君からの連絡は望むところだったから、問題ないけどね」
ケイが黙っていると、胸ポケットに入ったアデルが発言した。
『お久しぶりです、イリア』
イリアクラウス。それが彼女の名前だった。
「やあ、アデル。挨拶を返してくれるのは、君だけだね。ご主人様である
『ケイが人見知りだという点について、同意します』
勝手に話し始めたアデルに対して、ケイは嘆息してしまう。
「……ちょっと黙ってろって、アデル」
『ブーブー。つまらないです』
ケイとアデルの様子を微笑ましく見ていたイリアだったが、提案する。
「ここは少々目立つ。人気のない、
イリアは、そう言って踵を返した。
その意見に同意し、ケイは黙ってイリアの背に続き、学園敷地内へ足を踏み入れる。
案内された先は、
「……久しぶりだな、イリア」
「こうしてわざわざ、ボクと会いに来てくれたのは、あの時の提案について、前向きに考えてくれたということかな? 新しい“
「そういうわけじゃない……。完全に今日は
「おや。それは残念」
イリアは、わざとらしく肩を
優雅な態度のまま、妖しい眼差しで、ケイの顔を覗き込んでくる。
「それじゃあ、ますますいったい、なんの用だい? ボクに対して苦手意識を持ってる君が、わざわざボクに会いたい理由が、他にあるとは考えにくいんだけど?」
「……ある人物について調べてるんだ」
「へえ。誰のことかな」
「この星成学園の教員、浦谷ヨウジについてだ」
その名を聞いたイリアは、腕を組んで少し考え込んだ。
「どうして調べているんだい?」
「個人的に用があるわけじゃない。うちの動画チャンネルの特集のために、浦谷の情報が必要になった。それだけだ」
ケイは詳細を言わず、目的だけを伝えた。
もしもイリアに、廃墟の怪人の話をしたら、
面白そうだと思えば、どんなことにも関与したがる
撮れ高のために無茶をするサキと、タッグでも組まれ日には、たまったものではない。
イリアは、美しい形の
不思議そうに、ケイへ尋ねる。
「ボクの記憶がたしかなら……君たちの部活動が運営しているのは、オカルト研究部という、都市伝説や心霊を取り扱うネット番組だ。そんな番組の特集で、どうして浦谷先生の情報が必要なのかな?」
「さあな。オレは部長に調査を頼まれただけで、理由までは知らない。オレには、お前という星成学園の知り合いがいる。だから、そのツテを使えないのか、相談されただけだから」
「フーン。そうかい。まあ良いさ」
ケイがなにかを隠していることなら、お見通しだと言わんばかりの口調である。
だが
「ボクは――“面白い人物”にしか興味がない。だから、この学園の大半の人間に、関心をもったことがない。誰も彼もが、絵に描いたように平凡で礼儀正しい、ただの富裕層のお坊ちゃん、お嬢様にすぎないからだ。興味がないから、同級生の名前も、ほぼ憶えていないよ」
「
「ハハ。ボクより歪んでいる君に言われると、なんだか笑えるね」
「……」
「浦谷先生についても、詳しいプロフィールなんて知らないよ。そんな教員がいることさえ、今に知ったくらいさ」
「何も知らないってことか。なら、聞く相手を間違えたな」
「そう言うなよ。ボク以外に、話を聞く当てもないんだろう? だから君はボクを訪ねた。救いを求めてね」
イリアは
そうして耳元で
「せっかく君に“
「……」
「それに、君のようなヤツが興味を持っている人物なんだ。なら、ボクも興味が湧いてくるよ。いったいどんな異常者なのか、ね」
イリアはケイから離れ、スカートを
「良いだろう。ボクも、調査に協力しようじゃないか」
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