1章 オカルト研究部
第2話 心霊ニューチューバー
学校が終わると、各自、自宅に帰って夕飯を済ませた。
そうして、いつものように電車に乗り込んだ。
車窓から見える風景は、高層マンションの建ち並ぶ都心から、
森の中に足を踏み入れると、
限られた視界の中で、おもむろにリュックを下ろす。そうして中から取り出したのは、一眼カメラやマイクである。機器のバッテリー残量を確認し、2人は慣れた手つきで、カラープロファイル設定や、音量調整を始めた。
少年のうちの1人。
見るからにガラの悪いピアスの少年、
「……なあ、
「なんですか、先輩」
トウゴに呼ばれた仏頂面の少年、雨宮ケイは返事をする。
黒髪、黒目。どことなく冷ややかな目付きをした、クールな印象の少年である。
作業をしながら耳を
「つかぬことを、聞くんだが」
「つかぬこと、ですか」
「おお。その、なんだ…………おめえよぉ……」
「なにか言いにくいことですか?」
トウゴは
「おめぇには、す、好きなヤツはいるのか……?」
「…………!?」
ケイは目を見開く。トウゴの告白に、衝撃を受けた。
なんと返事をすれば良いか、一瞬だけ迷ってしまったが、答えなら決まっている。
「すいません、今まで先輩の気持ちに気付かなくて……。でもオレ、先輩のことは恋愛対象にできなくて。気持ちには応えられないです」
「はああああ?! ちっげえよ! そういう意味じゃねえし! クソでか
慌ててケイの考えを否定するトウゴ。
咳払いをし、気を取り直してから話し始めた。
「うちの高校の
「ありますね」
「実は俺な。最近、
「一目惚れですか。先輩がそう言う恋バナするのって、なにげに初ですね」
「おうよ。あれは先週のことだった」
「あ……
「良いじゃねえか、話してえんだ! 黙って聞いとけよ! あの日、俺はいつものようにチャリに乗って通学していた。いつも通り、学校近くのコンビニに差し掛かった時だった。星成の制服を着た、あの子を見かけたんだ。他の女子たちとに一緒に登校してたみてえだが、ひときわ可愛かったぜえ……」
「何のひねりもなく、道すがら普通に見かけて好きになったって話ですか」
「ああん? なんか文句あんのか?」
「いや、別にないです。ストレートな先輩らしくて良いと思います」
「へへ。なんかよくわからんが、
嬉しそうに、ポリポリと後頭部を
「それで。その子にはもう、声かけたんですか?」
「ば、馬鹿! 声なんてかけられるかよ! 名前すら知らんわ!」
「ええ。なんで
ケイは呆れながら、自分の考えをトウゴに伝えた。
「
「てめえ、ケンカ売ってんのか」
「でも運動神経
「向こうから寄ってくるのと、こっちから寄っていくのは違うの! 恥ずかしいの! 陰キャの雨宮くんになら、よくわかるだろ!?」
「うわ、めんどくさ……。ずいぶんと、こじらせてるコミュ障ですね」
「やっぱお前、ケンカ売ってるだろ」
トウゴは再び
嫌な予感がして、ケイは頬を引き攣らせた。
「そこで、だな。たしか雨宮は、星成に知り合いがいるって言ってたよな」
「なるほど…………。それが目的でしたか」
「察しが良いじゃねえか。おめえの知り合いのツテを使って、俺の
ケイの
トウゴが話を振ってきた理由は、それだった。
「あいつのことを知り合い……と言って良いのか。たしかに星成の知人はいますが、オレとしては会いたくない人物というか」
「会いたくない知り合いだあ? どういう関係だ?」
言いながら、トウゴは思い直す。
ケイに
「ま、まあ細かいことは良い! 俺のために頼むよ! 礼はするから!」
「うーん…………考えてはおきますよ」
「よっしゃ! そうこなくちゃよ! あの子の
いまだに
2人が
現れたのは少女である。ショートボブの髪型。メガネをかけた、気の強そうな吊り目の少女だ。
少女は2人の傍までやって来るなり、肩を怒らせて言った。
「うわ、おっそ! あなたたち、まだ撮影の準備終わってなかったの!?」
「ん? なんだ。もう帰ってきたのかよ、
第三東高校オカルト研究部の部長、
腰に手を当てながら、部員である2人を
「もう帰ってきたのかじゃないわよ! 私が
「そんなに経つのか。わりぃ。つい雨宮と話し込んじまっててよ」
「お
「いや、女子はお前だけだろ……」
サキに捲し立てられたトウゴは、ばつが悪そうにしている。
急いで準備作業を進めつつ、話を誤魔化すため、トウゴは尋ねた。
「そ、それよか今日はそれなりに大きい廃墟なのに、たったの15分で見て回れたのかよ。すげえ早いな」
「う~ん。1階と地下フロアだけ、ザッとね。全部は無理。とりあえず
「それで、部長。今日の廃墟ホテルは、どんな感じだったんですか?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いた、雨宮くん。なかなかに“
サキは目を輝かせ、嬉しそうにほくそ笑む。
持っていたハイパワーな懐中電灯の光を、背後の暗黒空間へ向けた。
明かりに照らし出されたのは、真っ暗な森の中に佇む、不気味な廃墟のシルエットである。
一切の明かりが灯っていない建物には草が茂り、森の中に、長らく置き捨てられていたことが見てとれる。
「噂の地下
「よくあんな気味悪いところを1人で下見できるよな、お前。いったいどんなメンタルしてんだよ……」
強烈な雰囲気の廃墟外観を見ただけで、トウゴは青ざめている。
そんなトウゴの隣で、ケイが微笑んで言った。
「そういうことらしいんで。今日も頑張って幽霊を呼び寄せてくださいね、峰御先輩」
「ば、馬鹿! なんでもう俺が1人検証やるみたいな口ぶりなんだよ! クジ引きしろ、クジ引き! 今日は雨宮か、吉見のどっちかにしろって!」
「えー。でもでもー。カメラマンの雨宮くんって、怪奇現象が起きても動じないタイプだし。私も霊感ない方だし。となると、いつもみたいに、ビビりのトウゴが慌てふためく姿を撮影した方が、視聴者ウケ良いと思うの」
「テンパった先輩は、リアクションが面白いって言われてますよ。怪奇現象が映ってなくても、
「誰がビビりだよ! 今までのは全部わざと! 演技だったっつの!」
「ほー。それは
「なんでそうなるんだよ! この撮れ高
「ほっほっほ。私は青春を撮れ高に
廃墟を背景にする位置へ、ケイが三脚を立てる。
ハンディカムを乗せて、向きを調整した。
サキはカメラの前に立ち、仁王立ちで胸を張る。
「よし! オカ研メンバー集合! 今回のオープニング撮るわよ! ほら、トウゴは出演者なんだから、私の隣に来て。早く」
嫌そうに渋々と、トウゴはサキの隣に立つ。
ケイはハンディカムのボタンを押し、
サキは
「さあ、今夜も“オカルト研究部”のお時間がやって参りましたーー☆ 今回のメンバーも、Tくんと部長。カメラマンくんの3人です!」
動画を作る上で、3人は本名を使っていない。
ネット上で身元が
サキは部長。
トウゴはT。
そしてケイは
「じゃあ、カメラくん! 今夜の心霊スポットの説明をしてもらえますか?」
声をかけられたケイは、事前にサキから渡されていたカンニングペーパーを読み上げる。
「はい。今回、我々が訪れているのは、
「はあ?! あそこ、ガチで死体を焼いた場所なのか!? 事件現場?!」
「ガチです」
「うっそだろ……。行くのやめとこうぜ……!」
あまり事前情報を聞かされていなかったトウゴは、ドン引きしている。
視聴者から、素の反応が面白いと言われるトウゴは、だいたい
本気で嫌がっているトウゴの反応を、美味しいと思いながら、サキは自分の背後に明かりを向けた。
廃墟の巨大さがわかるよう、建物の外周を
「ここはネットでも有名な、関東屈指のスポットというだけあって、ご覧の通り、雰囲気マウンテンの見た目ですねえ。ぜったい、なにか心霊的なものが潜んでるって感じがします」
サキはレンズに向かい、動画でお約束になっているセリフを言った。
「それでは
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