深海の羽衣〖参ノ箱〗③
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世界がゆがみ、場面が変わった。しかし、またも私は、居間で母と向かい合っていた。
食器棚のガラスに写る自分の姿は、高校生より、もう少し成長しているように見えた。社会人の記憶のようだ。ということは、あの記憶か……?
私は高校卒業後、すぐに就職をした。職場は自宅からそう遠くないこともあり、一人暮らしをせずに親元から通っていた。
「それで?」
まさか、同じセリフを三回も聞くとは思わなかった。というよりも、母の語彙力に驚いた。
「友だちの部署の、慰安旅行に行きたいの。」
当時、私が勤めていた会社では、社員をねぎらう旅行へ行く日にちが部署によって違っていた。そのため、他の部署にいる友人からお誘いを受けることもしばしばあったのだ。
「なんで他の部署の旅行にまで行かなきゃならないの。そんなもの行く必要ない。今すぐ断りなさい。あんたの部署の旅行だって、仕方ないから行ってもいいって言ったくらいなのに。」
そのあと、母は、何やらぶつくさと管をまきながら、居間を出ていった。
どの口が言ってるのかしら。自分は、あちこち遊びに行って、家族を心配させていたくせに……。
私は、こんな理不尽な命令に従い続けていたというのか。いや、理不尽なのは分かっていたのだ。分かっていたのに、従っていたのだ。まるで、マリオネットのように。
コトンと音を立てて、記憶の箱が座卓の上に姿を現した。次は、どんな記憶の再現なのだろうか。私は、鍵を取り出すと、鍵穴に差し込んだ。
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