深海の羽衣〖参ノ箱〗②
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場面が変わったはずなのに、私は再び居間で母と向かい合っていた。
……絶望って、このことかしら。
腕を組み、ふんぞり返るように背筋を伸ばして私を見下ろす母の目を盗み、今の状況を把握しようと、周囲や自分に目をやった。
たしかに居間だけど、家具の配置がさっきと違っているわね。私は……、高校の制服を着ているわ。でも、新しいわね。ということは、高校生になったばかりってことかしら。だとすると──、
「それで?」
「クラブはお母ちゃんの言った通りに華道部に入ったから、部活はバドミントン同好会に入りたいの。」
私が通っていた学校ではクラブと部活動は別のものだった。クラブは授業の一環として行うもので必修だったため、生徒全員が何らかのクラブに所属しなければならなかった。母は私に華道部に入るように強要した。しかし、この時点では、部活動はどこに所属するかを決めていなかった。
運動と名のつくものから逃げ回っていた私が、唯一好きだったスポーツがバドミントンだった。
これまで、運動と縁のなかったのだ。運動部に入りたいと言ったら喜んでくれるかもしれない。当時の私は、淡い期待を胸に抱いていた。
「バドミントン同好会?」
母は、眉をピクリと動かした。
「オリンピックの選手にでもなれるっていうならいいけど、なんにもなれないならやる必要ない。そんな、何の役にも立たないバドミントンじゃなく、華道部に入りなさい。茶道部があるならそっちをやらせるところだけど、ないんだったらそれで仕方ない。華道とか茶道なら、花嫁修業になるでしょ。」
なんともおかしな理論だ。母自身、バレーボールが好きだったけれど、バレーボールの選手になったわけじゃない。あまりのバカバカしさに、お腹の底から笑いが突き上げる。私は、必死にこらえた。
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