第3話 HIROへの第一歩

 とりあえずHIROと言ってもそれ以外は普通に暮らさないといけないらしい。

 そうとなれば明日も仕事だ、その日は1時間後には起きないといけないがとりあえず寝た。


 突拍子もない事に巻き込まれたがなぜか落ち着いていて起床までぐっすり眠れた。


 タンタタラタラランー

 タンタタラタラランー


 タンタタラタラランー

 タンタタラタラランー


(ピッ!)


(携帯のアラームが鳴ってますよ、起きなくていいんですか?37《サーティセブン》)


「んあ?」


 寝ぼけながら携帯のアラームを止める。

 そのまま再度寝る。


 7分後…


 タンタタラタラランー

 タンタタラタラランー


 タンタタラタラランー

 タンタタラタラランー


(ピッ!)


(また携帯のアラームが鳴ってますよ、起きなくていいんですか?37)


 …


 無意識に携帯のアラームを止めてそのまま動かなくなった。


(ひろみちゃん〜起きなさい〜会社遅れるわよ〜)


「んが、ひろみ言うなや…」


 …


(ピピッ!)


 バリバリバリバリッ!


「ギャー!」


 ひろみの全身に電気が発生し飛び起きた。


「な、何これ!?」


(起きないからですよ、さっさと用意して会社に行って下さい)


 ウリカちゃんは無機質に無慈悲に言った。


「もっと優しく起こしてよ!朝から死ぬかと思ったわ」


(優しく起こしても起きなかったので。安心して下さい、その電撃は痛いだけで無害ですから)


 本当に容赦ないなウリカちゃん…


「というかずっとそうやってサポートしてくれるの?」


(いえ、必要な時だけです。HIROになった事で今までの生活リズムが乱れると計画に支障が出る事がありますので今回はサポートしました)


「そうなんだ、んじゃまあ準備するか」


(ちゃんと朝食を取って顔を洗って歯を磨いて行って下さい)


「オカンかな?」


 何にしても今日は助かったな、一人じゃ確実に寝過ごしてるわ。

 電撃の他に何か嫌な事を言われた気もするが…思いだせん。


 昨日買った菓子パンと桃、バナナ、ヨーグルトを腹に収め出勤の準備をする。


「ほんじゃ行って来ますー」


 誰も居ない部屋に向かっていつもは言わない事を言った。

 まあ、期待はしてないけどね。


(ピッ!)


(行ってらっしゃい、戻ったら能力の確認をしますので寄り道せずに帰宅して下さい)


「ああ、今日からもうやるのか。了解か〜い」


 そう言って部屋を出た。


 人に行ってらっしゃいと言われるの久しぶりだな…

 悪くない。


 …


 その日の会社は何事もなくごく普通に終わった。

 仕事は工場内のメンテナンス技師をしている。

 一応責任者だ。

 この仕事はトラブルが無ければキッチリ定時で戻れる。まあ、トラブルが続くと徹夜もあり得るが。


 高校卒業後勤めだし今まで転職もせずやって来てる。長くいれば役職もつくもんだ。

 今じゃ現場は若いもんに任せて主に管理が仕事だな。


 近くのスーパーで夕食の弁当とおやつを買って戻った。


「ただいま〜っと」


 この言葉も今まではあまり言わなかったな。


(ピッ!)


(お帰りなさい37、では能力の確認をしましょう)


「おいおい、飯くらい食わせてくれよ?」


(食べて来なかったのですね)


「あ、ああ。今日はこれだ」


 袋を前に出した。


(素早く食べて能力の確認しますよ)


「はいはい」


 そう言いながらTVを付け見ながら弁当を掻っ込んだ。


「そして〜今日は飲まないから〆はこれだ!」


 買ってきたプリンを上に掲げる。


「今日から発売、コンビニ限定大人の苦味!お子様注意の激渋プリン!」


(ビービー!)


 な、なんだ?どうした?


(緊急事態が発生!HIROシークエンスを脅かす存在を確認、これより回収します)


「え?そんな事が?」


 能力を確認する前に事件か!?


「あ、あれ?俺のプリンは?」


(回収成功しました、これより処理します)


「な?まさか、ウリカちゃん?」


(さあ!ムグムグ… 能力の確認にムグ…行きますよ)


(苦ー!)


「そりゃー苦いだろう、お子様が間違って買って食べたらその苦さにクレームが出る程と言われてる激苦キャラメルソース、大人のプリンだ」


(こんなの全然美味しくないじゃないですか!?)


「ふ…この苦さがわからないとは、ウリカちゃんまだまだお子様だったんだな」


「っていうかプリン返せ!」


(あ、プリンは激甘ですね慣れれば美味しいかも)


「ほう、わかってるじゃないか」


「いや、それ俺のプリンだからね?返そうよ」


(カッ、カッ、カシャ)


 容器をスプーンで掻く音がする。


(ふー、さあ、では行きましょう37)


「くそう満足そうな声しやがって…」


(能力の把握はこの部屋では狭いですから他の場所で行う事を提案します)


「他の場所か…帰りにコンビニ寄るか」


「しかし他の場所ったって公園とか?」


(ある程度の広さがあり人に見られない所がいいですね)


「そんな所あったかな〜」


(検索します、ありました。このマンションの屋上です)


「検索早いな!ここの屋上かよ?」


 そういえば行った事なかったな。

 まあ近いから便利だ。

 あ、コンビニ寄れねえじゃん…


「ま、とりあえず行くかな」


 ジャージと動きやすい様にスニーカーを履いて屋上に向かった。

 エレベーターで最上階まで行く。

 エレベーターを降りてさらに上に行く階段を上がった。

 屋上に出ると思われる扉があり開けようとノブを回したが鍵がかかっていた。

 見ると鍵を開けるツマミがあったのでそれを回して鍵を開け扉を開けた。


 秋はまだだが幾分温度が下がっておりむうっとした空気と共に涼しさも流れ込んで来た。


「おー屋上はこんなふうになってたのか」


 全体を高いフェンスで囲まれておりあちこちに配電盤やタンクの様な物が設置してある。中央は何もなくコンクリートの広場になっていた。

 出て来た扉の横にはゴルフのパット練習をするシートが置かれておりパターとボールも置いてあった。

 誰かがここで練習しているらしい。


「これって誰か来るんじゃない?」


(問題ありません、ここへは大家が毎朝来るだけです)


「へーそんな事もわかるのね」


「それなら俺の能力もわかりそうだけど?」


(能力はHIRO本人の思いや人格に合った能力が発現し易くその思いの強さが能力の強さになります。したがって自分で発見した方が能力を向上させられます)


「本人の思いや人格か〜この年になるとそう言うのって若い頃よりも燃えられなのよね〜」


(ともかく色々試して下さい)


「試すったって… そんじゃあれだなヒーロー映画のやつを試して見るか!」


「まずはあれだろやっぱり!」


 鏑木裕実は年甲斐もなく目がキラキラして来た。


 バッ!


 バババッ!


 ババッ!


 腰を落とし腕を上に横にと切れ良くポーズを取りながら最後に右手首の裏を上側にして前に突き出した。


 …


 何も起きなかった…


 ヒョウ〜


 残暑が残る生暖かい風が一瞬吹いたが冷たく感じた。


(それは何なんです?)


 ウリカちゃんの無機質な声が痛い。


 なんだよ!出ないじゃんか!?手から糸!

 すげー恥ずかしい!


「あ、あれだよ…手からクモの糸を出すあれ…」


(手からクモの糸ですか?キモイですね)


「キモイ言わないでよ…」


 微妙な空気に早めの秋を感じた…



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