第21話 さて、晩餐会

そんなこんなで思ったより順調に仕入れが出来た俺たちは、折角なのでボルグが教えてくれた店で食事をした。

屋台で食べてた串焼きも美味かったが、やはり港町に来たのだから生で味わってみたいと思うのは、俺に前世の記憶があるからなのか?

その店の味に舌鼓を打ちながら俺とアメリアは、明日の晩餐に備えて一応の段取りを打合せする事にした。


「どちらにしても時間が命なので、明日の朝一番にギルドの倉庫で今日仕入れた魚貝は木箱にでも入れて領主の館へ持って行く方が良いと思います」

「そうよね…。エンドがいきなり行って亜空間収納からドンドン出しちゃうと、それはそれで問題があるものね」

「なので、運ぶ時には氷をたくさん用意しておいて下さい。ここから領主の館までの間でも、時間が掛かると魚貝が悪くなってしまいますから」

「氷……氷ねえ……」


呟きながらアメリアがなにか思案している。


「何か問題でもありますか?」

「……いいえ、大丈夫よ。なんとかするわ…」

「じゃあ明日はそういう感じでいきましょう!」


そう言って俺は転移でアメリアをマルクへ送った後、自分の家に帰ったのだった。






「おはようございます!アメリアさん」

「おはよう、エンド!」


翌朝、ギルドの裏手にある荷物用倉庫で待っていたアメリアと落ち合い、さっそく仕事に取り掛かった。

と言っても、亜空間収納から取り出した仕入れた魚貝たちを、用意された氷の入った木箱に分けて詰めていくだけだ。

後はアメリアが集めてくれた人夫達にお任せする。


「これで伯爵の館まで運んで、料理に関してはプロに任せるしかないわね。とりあえず、エンドの仕事はここまでになるわ。ご苦労様!」

「晩餐会、上手くいくと良いですね」

「ここまでやったんだもの、絶対上手くいくわよ!いって貰わないと困るわ?」

「ですね。…じゃあ、俺はこれで…」

「あ、依頼完了の報告は次回会った時でいいかしら?この依頼自体がちょっと特殊だから、私が自分で処理しないとややこしくなるのよ」

「大丈夫ですよ。4~5日後にまた来ますね」


俺とアメリアはお互いに軽く右手を上げて別れた。

そのままアメリアは忙しそうにバタバタと倉庫へ戻って行った。





晩餐会は予想以上に大成功だったようだ。

伯爵の娘は美味い美味いと涙を流しながら、腹がはち切れるほどに食べたらしい。

招待していたそれなりに位の高いお偉方にも大層好評で、招待した伯爵自身も鼻が高く非常にご満悦であったらしい。

また、ぜひ我が領地にも美味しい魚貝を届けて欲しい!という依頼が、ギルドマスターであるアメリアの元に殺到したのは想像に難くない。

もちろん生だけでなくスープや焼き貝といった、普段マルクでは到底味わえない物がずらっと揃っているのだ。

満足しない方が可笑しいくらだ。


この晩餐会以後、港町エドラゴンのボルグと娘ナターシャは、エンドと長い長い付き合いが続く事になる。

エンドが陰で『新鮮王子』と一部の人々に呼ばれる様になるのは、また別の話しだ。


「エンド、今回は本当にありがとう!晩餐会は大成功だったわ!」

「それは良かった」


ギルドマスターのアメリアと、彼女の執務室で俺は話している。

依頼完了の手続きと依頼の成功報酬を貰うためだった。


「成功報酬で金貨100枚。それから金貨50枚……これは伯爵からのお礼ね。折角だし貰っておきなさい。あと、貴方はギルドマスターの権限を持って『ガーネット』ランクに。どうかしら?」


良いんだろうか?これは…。


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