第17話 ニコラウス②
「ねえニコ?」
「はい何でございますかな?レントぼっちゃん」
ニコラウスは、レントの声で回想の海から戻って来た。
とは言っても、時間にしてほんの数分程度の事だが…。
「この家から海まではどれくらい距離があると思う?」
「海……ですかな?」
「うん。今日さ、マルクのギルドで冒険者登録してから、エドラゴンへ行ったんだよ。エドラゴンっていう港町。魚貝類が豊富でとても美味しそうだった」
「ほう、それは良き経験をされましたな」
「
「そうですな、確かに一人で遠出は…旦那様に承諾頂けませんな」
「変な事して目立つのも嫌だし…困ったね」
ニコラウスは
(海か……直線距離ならば、
「直線距離であれば、馬車で丸一日程度の距離だったと思いますが」
「案外近いんだね?」
「ただ……あくまでも『直線距離』が、でございますね」
「…ああ、そういうことね」
「はい。本当に直線で行けてしまうぼっちゃんにとっては、それ程の距離でもないとは思われますが」
「自分だけならね?でも、それじゃあまり意味が無いんだよ。家族やニコ達にも海の食べ物を味わって欲しいからさ~!」
「それならば旦那様の魔道具をお借りになってはどうですかな?」
「
レントぼっちゃんは優しい心の持ち主だ。
家族だけでなく我々の様な使用人の事も考えて下さる。
頭の回転も速く、とても7歳の子供の発想ではない。
レントがニコラウスの過去など知る由もないが、何故かレントだけはニコラウスのことを『ニコ』と呼ぶのである。
「まあいいや、それはまた考えようっと」
「もう一杯いかがですかな?」
「うん、お願い!」
空になったレントのカップに、新たに紅茶を注ぎ入れる。
甘めが好きなレントの為に、砂糖を2個入れて軽く混ぜる。
「ニコはどうしてこの家で働いてるの?」
「どうして…でございますかな?」
「上手く言えないけど、ニコほど強いなら騎士とかなれそうじゃない?」
「フフフ…ぼっちゃん、世の中には強いだけではどうしようもない事柄もあるのですよ。ぼっちゃんも大人になられましたら、ご理解頂けると思います」
「ふ~ん、そうなんだ」
いずれ無理にでも理解しなければならないであろう大人の事情など、7歳のレントには今は毒にしかならない。
「そうだ、ニコ!忘れてたよ……はいコレ!お土産だよ」
「これは、ペン…ですかな?」
「ほら、ニコが日記を書いているって言ってたからさ!これ見て、ペン先がガラスで出来ててさ珍しいと思わない?」
「そうですな、
「この部分にインクを入れるんだよ。そうする事で、今までのペンより一度に沢山の文字を書けるんだ。凄いよね錬金術って!」
「このようなものを…ありがとうございます。おっと、紅茶が冷めてしまいましたな。夕食の用意が出来ているかもしれませんので、ついでに確認をして参ります…」
「うん、分かった」
そう言ってその場を離れる事が、ニコラウスにとっての精一杯であった。
執事として、レントに涙など見せる訳にはいかないからだ。
そっと扉を閉めた死神の目からは、その思いとは裏腹に
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