第11話 困惑のギルドマスター

「それで、君はそこで私たちの話しを盗み聴きしてたみたいだけど、何処のどなたかしら?」


気が付けば背後に立っていたギルドマスターに声を掛けられた。

心なしかちょっと怖い圧力を感じるが…気のせい、という事にしておこう。


「私は先ほど冒険者登録をしたばかりの新米冒険者でして…。盗み聴きみたいになってしまったのは謝りますが、この世界の職業に少しばかりうといものですから、後学の為に聴かせて頂きました」

「ふ~ん、新人という事ね~」

「はいそうですね」


元々その前にあった勇者の揉め事を見ていただけなのだが、とりあえずは穏便に済ませる感じで謝っておく。


「あら?エンドさん!どうされたんですか?」

受付け業務の手が空いたのか、シンディさんがこちらに気付いた。


「いえ、大した事でありませんが…」

「シンディは彼の事を知っているの?」

「はい、彼の冒険者登録の担当が私でしたので」

「そういう事ね…」


シンディさんの説明でギルドマスターの視線が少し優しくなった、かな?

相変わらず嫌疑の眼差しではあるが。


「エンドと言うのね貴方。職業は何かしら?魔力は?」

「職業はポーターです。魔力は……え~」

「マスター!!」


シンディさんの突然の大きな声に、さすがのギルドマスターもびっくりした顔をしていた。


「どうしたのシンディ?いきなり‥‥‥」

「お耳を‥‥‥」

そう言い、ギルドマスターに何か耳打ちをした。


「それ、本当なの?嘘じゃない?」

「はい。測定石板で確かめていますので間違いないと思います!」

「聞いたこと無いわね、そんなこと…」


ギルドマスターは腕組みをしたまま思案している。

目を瞑り何かを思い出しているみたいだ。


「ここではちょっと場所が悪いわね。貴方、少しお時間あるかしら?」

「え?ええ、大丈夫です」

「じゃあ、付いて来てくれる?」


言われるがままにギルドマスターの後を付いて行く。

その部屋は建物の3階にあった。


「とりあえず、その椅子に座ってちょうだい」

「はい」


一見すると普通の応接セットのソファであるが、なかなか座り心地は良いな。

ギルドマスターは俺の正面に腰を下ろした。


「私はアメリア。ここマルク支部のギルドマスターをやっている者よ。それで…エンドさん?貴方、ポーターだと言ったわね?」

「エンド、で結構ですよ。おっしゃる通り職業はポーターですね」

「それで、さっきシンディから話では……貴方、魔力が無いんですって?本当なのかしら?」

「確かに……無いですね」


(困ったな。ステータスを見せる訳にはいかないし…)

どう言い訳しようか悩んでいると、見た事のあるをゴトッ!と目の前のテーブルにギルドマスターはわざわざ俺の方へ向けて置いた。


「これに私の目の前で手を置いてくれないかしら?」

「良いですよ」


石板に手を置く。

やはり石板に表示される数字は〈0〉だった。

……その後、10回ほど手を置いたり離したりを繰り返したが、結果が変わることは無かった。


「信じられないわ…本当に、魔力が無いなんて…」


一番信じられないのは、自分自身だけどね…。



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