第10話 『勇者』という職業②

一万年前、その頃は人族も魔族もこの大陸で栄え、皆共存して生きていた。

主に人族・魔族・天族と少数の人語を理解する獣たち、亜獣人。

特に大きな争いも起こらず、平和な世界であった。


は突然現れた。


蛇のような首を6つ持ち、その体は天覆う巨大な黒い太陽の様であった。

全ての生き物たちが力を合わせて、その巨体に立ち向かった。

しかし、その厄獣は大陸にあった4つの国をたった3日で滅ぼしてしまった。

口からは一瞬で溶けてしまいそうなブレスや、毒息を吐く。

体の鱗は、どんな剣や魔法も受け付けぬ程に堅固なものであった。


そうして厄獣が現れて7日後、突然厄獣は動かなくなり静かになった。

もう既に大陸の3分の1が焦土に変わっていたが、これをチャンスだと思った各族長たちは創造神にどうすればこの厄獣を倒せるのか知恵を求めた。


その求めに創造の女神フランロワーヌは、各種族から勇者を造り出した。

人族からは火と水の勇者を。

天族からは風と光の勇者を。

魔族からは闇の勇者を。

亜獣人からは土の勇者を。


フランロワーヌはその勇者たちに、厄獣を倒す為の剣を与えた。

剣を貰った6人の勇者は、厄獣が動きを止めてる間にそれぞれが6つの首を刈り取り、厄獣を倒すことに成功した。


もし今後もこの様な事態があってはこの世界が危ういと考え、創造の女神フランロワーヌは『職業』という形で人々に女神の力を分け与えることにした。

それが現在の『職業』の始まりと言われている。


とりわけ『勇者』は特殊で、この世界には勇者は6存在すると決まっており、それ以下でも以上でも存在しない。

勇者が一人死ねば、新たに勇者が産まれる。

それは自然の摂理として、一万年の昔から受け継がれてきた歴史である。

勇者以外の職業は種類も多く、人数も種族の決まりも特に無かった。


その後、魔族は南の大陸に、天族は北の大陸に海を渡って移り住むようになった。

伝承によると、その【厄獣】が一番最近現れたのは、約1000年前となっている。

その時も6人の勇者がそれぞれに剣を携え、厄獣を倒したと伝わっている。


『勇者』についての伝承は、各地域のギルドマスターと各国の王、そして勇者本人には確実に伝えることが女神との約定である。

それ以外の者が聞いても特に罰も無いのだが、正直聞いてもそれ程意味がない。

故に、勇者の伝承は一般的にはほとんど知られておらず、国としても力を入れて広める必要も無いと感じているので、個人的に調べたい者は放置している。




「というのが、職業『勇者』としての伝承なのよ。分かったかしら?」

「はい。【天災の厄獣】に対する特別な職業、という事ですよね?」

「まあそうね。でも職業が勇者だからと言って、いち冒険者には変わりないからギルドで特別扱いする必要は無いからね?いくら勇者としての天恵ギフトがあるとはいえ、ある程度は鍛えといて貰わないといけないからね!」

「なるほど…」


そこまで話した時、カウンターへ冒険者らしき人が訪ねてくる。

すぐにシンディさんは対応に戻る。


(勇者はこの世界に6人。職業勇者の存在意義か…)


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