第3話 職業『無』

玄関の扉の前で家族たちに見送られ、タウロス兄さん護衛の元に用意された馬車に乗る。

我が家はそれ程裕福な貴族ではないけれど、祝福の儀はそれだけ重要な意味があるという事になる。

何たってその人間の一生が決定付けられる訳だからな。


「レント、緊張しているのか?」


俺の向かいに座ってるタウロス兄さんが聞いてきたので、小さく首を横に振る。


「ううん、楽しみ過ぎてワクワクしているよ!」

「ははは、さすがは俺の弟だ!物怖じしないところは、父親おやじ譲りか?」


兄さんは腕組みしながら豪快に笑っていた。



30分ほどタウロス兄さんと他愛ない会話をしていると、馬車が止まる。


「着いたな」


背の低い俺は、タウロス兄さんに手を貸してもらい馬車から降りた。


「うわ~……」


思っていたより大きな教会だ。

同じ様な馬車が3台見えたのでタウロス兄さんに聞いてみると、祝福の儀は満7歳とは決まっているが、誕生日でないとダメという事は無いらしいので、誕生日以降で好きな日に祝福の儀は受けられるという事だった。


(俺と同じ日に5人も祝福の儀を受けるんだな)


「さあレント、教会の中に入って。受付けをしてもらうぞ」

「はい、タウロス兄さん!」





「レント・ディー・アウストロス、貴方はこの日この時より、創造の女神フランロワーヌの祝福の元に職業を与えられます。願わくば、幸あるその人生の糧とならんことを…。では…」


目を瞑り、片膝を付いて祈りの状態でいる俺の頭の上に、そう言ってから司祭は手のひらをかざした。

その瞬間、頭の中が数式のようなモノで一杯になり、一瞬で治まった。


「……これにて貴方の祝福の儀は終了です。どうか貴方のじんせ…い…が?」


司祭の言葉が途中で止まる。

俺もに現れたステータス画面?をジッと見つめる。


「職業…『無』‥‥‥?」


「職業が、無いなんて…そんな事……あり得ない‥‥。い、いや、しかしご神託は私の元に確かに‥‥な、なぜ?」



名前 :レント・ディー・アウストロス

職業 :『無』

魔力 :『無』

加護 :魔力変換無限(フランの悪癖いたずら



(ちょっと待て!あの、幼女神!なんなんだ『フランの悪癖』ってのは?はっ?魔力無しってか?俺この世界でどうやって生きてけば良いんだ?)


司祭は口に手を当てて放心したまま、そのステータス画面?を見ている。

俺はで、しばしの間固まっていた。



教会の外で待ってくれていたタウロス兄さんが、出てきた俺を見つけて駆け寄ってくる。


「どうだった、無事に祝福の儀は終わったのか?」

「あ、えっと、うん……」

「どうした?何かあったのか?」

「いや…えっと、あったというか、無かったと言うか…」

「なんだ、何が言いたいんだ、レント?」


俺も自分で何が言いたいのか分からない。

が、職業がどうあれ、俺は自分が使ことを知っている。

そこのところは、これから少し時間を掛けて考えていこう。

それよりも問題は、加護の方だ。

魔力が無いのも関わらず魔法を使えているのは、恐らくはこれが原因だとしか思えない。


「まあいい、初めての遠出で疲れたんだろ。早く帰って、ゆっくり休め」


タウロス兄さんは深く聞いてこず、そのまま俺達は馬車に乗って家に帰った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る