16 怪獣上陸

サミュエルゴードンも精密検査を終えすっかり調子もよくなり、ジュリアスカーツとともに帰って来た。帰る早々ジュリアスカーツがみんなに言った。

「モンスターエキスパートチーム、緊急出動命令が出た。用意を整え、午後にはビルゴル島のメイランドパークに出かけてもらう」

ゴールドマン知事からの突然の要請だった。パプリアのあるエステル諸島の最北端にあるビルゴル島、その島の沖合で、海底を歩く巨大な影が再び目撃されたのだ。しかもこの間は軍の魚雷でバラバラにされたはずが、今度は少しずつ形態の違う3匹に増えての目撃だった。すぐにモンデール博士に連絡が届いた。博士は目撃記録を分析し、次のように答えた。

「これは緑色細胞を持つ怪物に見られるバラバラにされた肉塊の再生増殖現象だと思われます。先日魚雷によってバラバラにされた怪物の肉会が、海底にあったプラスチック片を核として再び3匹の怪物になったと推測されます。また、このタイプの怪物は1つの大きなプラスチック片を中心にいくつかの緑色細胞を持つ生物が融合し1つの集合体としての体ができてくるので集合体を構成する生物の種類や大きさ、順番などが少し変わるだけで1匹1匹の形態が少しずつ異なってくるわけです」

当初、再び駆除を依頼された軍としてはハタと困ってしまったわけである。魚雷やその他爆発を伴う攻撃は今回は出来ない。攻撃によって、さらに数を増やすことになるかもしれないからである。

そこでリリエンタールロッジに集まっている怪物退治のエキスパートチームに再び緊急の出動がかけられたのである。

「でも今度は海の中だぞ。どうやって攻めるんだ。潜水艦でも使うのか?」

体の調子がよくなりすっかり勢いづくサミュエルゴードンが言った。この男なら、自分専用の小型潜水艦か、水中ドローンぐらいは持ってきそうだ。するとアレックスが言った。

「もう博士たちと作戦会議済みだ。奴らは遊園地にある大きなプラスチックの乗り物なんかを狙って上陸してくる。だから勝負をかけるのは上陸後だ」

それを聞いて、ジャックラーテルも出番がありそうでにやりとした。

「と、言うより、上陸地点周辺のプラスチック製品をすべて片付けてしまい、遊園地の被害を最小限に抑える。そして、餌になる大きなプラスチックを3匹の怪物に合わせて3体海岸に埋め込んでそこに奴らを誘い出すわけだ。自然破壊につながるので毒物や化学兵器は使えないが、逆に海岸沿いで山火事の恐れもないから火炎放射器や炎上弾も使えるし、電気や冷却材なんかも使えるだろう」

すでにアレックスの中には色々な作戦が組み立ててあるようだった。すると疑惑の男ジュリアスカーツが言った。

「…とにかく3体の怪物はこうしている間もどんどん島に近づいている。メイランドパークでは今、避難する観光客でパニック状態になっている。とにかく急ごう。

怪物が3体もいると聞いて、それぞれのエキスパートたちは、それぞれに作戦を練り、2時間ほどかけて出発の用意を整えると、早速それぞれの車で出発、そして港からは水上タクシーでビルゴル島へ1直線、1時間ちょっとの船旅だった。

「さすがにもう観光客たちの避難は終わったようだな」

近づいてくるビルゴル島を見て、ジュリアスカーツは呟いた。でもこの時、彼の頭の中では恐ろしい計画が進んでいたのだった。

ビルゴル島では乗り物はすべて止まり、人影は消えてガラーンとしていた。怪物が近づいてきている東南のビーチに車で近づく。

「ここは遊園地の遊具のすぐそばじゃないか、これじゃあ、パニックにもなるよ」

アレックスがつぶやくとモンデール博士が言った。

「軍のレーダー分析によるとね、4体の怪物たちはこの海岸を目指して近づいて来ているの。ここは自然が多く残っている水族館や養殖場のあるエリアでもないし、レストランや買い物のできるエリアでも、ましてや下水処理場でもごみの焼却場でもない。でもここには透明なプラスチックのバブルロボや、強化プラスチックのウォータースライダーなどプラスチック製品がいっぱい、だからここを狙って近づいてくるのよ」

「よし、ここのビーチだ。プラスチックの遊具やごみはすっかり片付けられている。頼んでおいたパワーショベルも来てるぞ」

バーグマンのモビルファクトリーが近づき、早速ジムが降りてくる。マグナスとバーグマンが打ち合わせをしながら用意を始める。

作業用ロボのジムは建設機械の操縦も大得意。しかもここの重機はアンドロイド対応の自動操縦車両で、作業中の機械からのカメラ映像や機械のデータもリアルタイムで送られるため、なんとジムは操縦席に座ることもなく、AIからのリモコン操作で、しかも一度に12台まで別々に操縦することができるのだ。マグナスが作業用の図面をジムに送ると、早速重機たちに命令がかかる。まずパワーショベルが20mおきに3つの穴を掘っていく。穴が掘れると大きなプラスチックを積んだ小型トラックが穴に近づき、プラスチックごみをガラガラと穴に入れていく。全部自動だ。

「よし、おびき寄せるためのエサは用意できた。攻撃の準備をし、その態勢で怪物を待つ」

それぞれの車が少し離れたところで停車し、怪物たちの上陸を待った。マットマグナス、アヤコ、マリアンヌのシルバーハウンドはモビルファクトリーと並び、アレックスと博士、サミュエルゴードンのオックスとジャックラーテルのシルフィーは、1台ずつ陣取った。

「よし、怪物たちを確実にこの海岸に近づける最後の作戦だ」

マグナスが合図するとアヤコが海岸に降り、手を振った。するとモーターボートが1台海岸のそばに白波を立てながら進み出た。

「あのボートの後ろには、ロープでたくさんのプラスチックごみがぶら下がっているの、これで獲物をおびき出すわ」

怪物たちはすでに水深20mほどの深さまで近づいて来ている。3匹のうち1匹は少し右に曲がって進んでいるように見える。

「よしアヤコ、モーターボートでこの海岸におびき出すのだ」

モーターボートが近づくと早速怪物たちがプラスチックに反応し始める。

ザッパーン!

突然水しぶきが上がり、ボートのすぐそばに巨大なイカの触腕らしき吸盤のついた長い腕が伸びてくる。危ない、危ない。ボートは大きく揺れながらカーブを切ってさらに2匹の怪物の近くに回り込む。波間に大きなイソギンチャクの職種や深海魚の鋭い歯のようなものも見え隠れする。

「おお、アヤコ、気をつけろよ。あの触手は危ないぞ」

モーターボートはプラスチックごみを埋めた海岸のすぐそばまで来てプラスチックごみを切り離し、逃げていく。怪物たちはすぐに切り離されたプラスチックごみを触手や触腕で引き寄せると体に貪欲に飲み込んでいく、恐ろしい迫力だ。

やがてしばらく待っていると、1匹目の怪獣が近づいてきた。海の中に黒い影が近づき、やがてザッパー!と奇怪な生き物が顔を上げる。

「な、なんだありゃ」

1匹目の怪物は頭部に当たる部分が変形したヒトデで、不気味な目が1つこちらをにらんでいる。それが上陸と共にプラスチックごみを見つけ、1直線に左の穴を目指し進んでくる。

身長は10mくらいだろうか、一番下にはごっつい巨大ガニがいて、そいつが足になってゆっくり進んでくる。穴まで来ると、上半身のイソギンチャクの職種やコウイカの触腕のようなものが伸びてプラスチックごみを飲み込んでいく。生々しい凄い迫力だ。

左の穴のそばにはかなり離れたところにジャックラーテルのシルフィーが待ち構えている。

「こりゃあ大物だ。仕留め甲斐があるぜ。じゃあ、俺から行かせてもらう」

ジャックは初めて特殊弾丸を発射するバルカンを手に取り、特殊弾丸の冷凍弾を1発ずつ装填する。

「このバルカンを作ってくれた職人のフリントによれば、命中した個所から体の内部に進み、最後に爆発して大量の冷凍液で体の内部を凍らせて組織をさらに破壊していくのだ。獲物の脳や神経節の部分を狙って打つのが効果的だと言っていた。しかしこの怪物はイカとかイソギンチャクとかホヤとかどこに脳があるのかわからない生き物の集合体だな。まあそれならそれで全身をくまなく狙うか」

そういうとジャックは上から下のまで、それぞれの生物の中心部を狙って等間隔でバルカンを撃っていった。

ガガーン、ガガーン、ガガーン、ガガーン、ガガーン!

「シューッ」

怪物は驚いたのか海水を噴き出して縮みだした。そしてそのまま動きが止まり、地響きを立てながらゆっくり倒れていった。怪物の体に着いた海水が白く凍っているのがよくわかった。見事だった。銃の扱いに慣れたジャックだからこその速攻だった。間をあけず次の1匹が真ん中の穴に近づき、イソギンチャクの長い触手を一度に大量に伸ばす。

「へへ、こっちはまどろっこしいことは抜きだ、あっという間に仕留めてやるさ」

 サミュエルゴードンは、怪物がプラスチックごみを食べ始めると同時に、炎上弾を立て続けに何発もオックスから撃った。怪物の全身に揮発性の油が広がり、次の瞬間派手に燃え上がった。

「キキイイイイイイイ!」

 巨大な火柱の中で怪物は暴れまくったが、波打ち際に歩き出してそのまま力尽き、崩れるように炎を上げながら倒れていった。怪物の体にさざ波が寄せていった。

3匹目の怪物は、頭部に深海魚のような鋭い牙を持った恐ろしい奴だった。だが今度はアクティブスーツ姿のアヤコが車を降りた。怪物は夢中になって餌をあさっている。こちらに気付かれたら、あの牙で狙われたらアヤコでも危ない。どうやって攻撃するというのだろう。アヤコはあのシールドを取り外し、そこに四角いもう1つの箱を取り付け、ドローンモードで空に放った。そして自分はサーベルをはずして怪物に向かって構えた。そしてフェンシングの型を決め、ポーズをとる。ただ、今までと何かが違う、動きのスピードが増し、格段に良くなってきている。

「怪物め、覚悟しなさい!」

アヤコの自動操縦となるドローンは餌をむさぼる怪物の後ろから近づくと、肩のあたりにあの黒い箱から何かを発射した。

「なんだあれは、ナイフか?」

金属的なきらめきが輝いた。それに気づいた深海魚の牙が、長い首を伸ばしてアヤコの方に向き直って牙を突き立てる。でもアヤコは電撃サーベルの火花を散らしながら牙を2回、3回と跳ね返す、見事な動きだ。そしてその直後アヤコは叫んだ。

「ライトニングアタック!」

なんとアヤコのサーベルの先から強力な電流がナイフを通って、怪物に流れ込んだのだ!

あのナイフは色々な生物の寄せ集めであるこの怪物の全身に確実に電気を流すための金属だったのか?

「シュユユユユユ…」

怪物の全身から白い煙が立ちのぼり、やがて怪物は大きな地響きを立てて倒れこんだ。怪物を1匹ずつ、増殖もさせずに確実に仕留めたのだ。

「やった!」

アヤコはフェンシングの型をばっちりと決めてポーズをとった。

そう、マグナスが早速フェンシングのヨーロッパチャンピオンのデータを入れたおかげで、剣の鋭さからアヤコの姿勢もサーベルの構えも華麗に、そして精悍に変わったのだ。

今度は怪物を増殖させることもなくほぼ完ぺきに倒したエキスパートチーム、帰りは体も軽かった。だが、やっとエイラス島について山道を走っている時にメイランドパークのあるビルゴル島から再度連絡が入った…。

「え、今度は別の怪物が4匹近づいてきたっていうんですか?今確かに3匹は倒しましたよね」

アレックスが言い返すと遊園地側はこう答えた。

「軍の潜水艦が次々と発見してます。奴らどこかで増殖してるんじゃないですか」

やっと怪物を倒してエイラス島に着いたばかりだというのに、みんなそれを聞いて、どっと疲れが出てきたようだった。すると突然参謀役のジュリアスカーツが妙なことを言った。

「いいんだよ。海の中の怪物は1匹ずつ倒すことができたからね。これからもあの方法を使えば、遊園地は守れるだろう。でも問題はデノス島だよ。逃げ足の速いやつ、隠れるやつ、そういう怪物をあぶりだして倒してきたが、いくら倒してもきりがない。どんどん増えていく巨大昆虫、それを餌にする蜘蛛やコウモリたちも増殖している。これらを1匹ずつ駆除するのはかなり難しい。…いっぺんに全部倒す方法があればいいのだが…」

するとそれを聞いていた同じ車のバーグマンが言った。

「いっぺんでみんな倒すなんて…、ものごと、なんでもそんな都合のいい話はありませんよ。少なくとも我々は1頭ずつなら確実に位置を確認し、効率的に倒す手段を確立し始めている。それをさらに研究し、広げていくしかないでしょう」

だがジュリアスカーツはそれを無視するかのように続けた。

「だからこそ1度に怪物を根絶する方法が必要だと思うんです…」

ジュリアスカーツはそれきり黙っていたが、彼の恐ろしい計画はすでに動き出していた。

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