14 森の王
移動中の車でアヤコが言った。
「ほら最初みんなに通信機になるバッチを配ったでしょう。サミュエルゴードンのバッチがまだ生きていて、さっきからほんの少しずつ移動しているわ。何らかの理由で連絡は取れないようだけど、サイボーグの彼は数百mから落下してまだ生きている」
「本当かい?ならば1安心だ。みん何も知らせるよ」
知らせると、参謀役のジュリアスカーツからすぐに返信が来た。
「今サミュエルゴードンの落下地点の正確な位置がわからず、モンデール博士とアレックスの探索は困難を極めている。とにかく早く現場に駆け付け、アヤコから正確な位置を教えてあげてほしい」
「了解」
アヤコはすぐにオックスに乗っている博士とアレックスに連絡をとった。
「博士、アレックス、こちらで確認しているサミュエルゴードンの位置は、今オックスの端っている位置より120mほど北になります。なにせまったく路のない森の中ですので、今の場所で止まって、こちらが到着するのをお待ちください」
「は、はい。待っています」
サミュエルゴードンは運よくまだ生きていた。空中に放りだされたとき、もう終わりだという思いとともに、俺は何度も死地をくぐり抜けてきた、諦めない、何か手があるという思いが駆け巡った。
「そうだ、森自体をクッション代わりに使おう」
空中で両手、両足を開き、姿勢をすぐに整える。だがその頃にはもう森の高い木が目の前に迫っていた。空気の抵抗が大きくなりわずかにスピードが緩む。
「なんでもいい、サイボーグハンドで葉でも枝でも掴むんだ」
あちこちに手を引っ掛けながら、葉をちぎり枝を折りながら落下していく。ところが、ゴン!ボン!
どこかで肩を強く打ち、さらに胸全体を太い枝に引っかかる様に思いっきり打つ!
あの丈夫なプロテクターがなければ、肩の骨が砕け、肋骨粉砕、内臓破裂のところだろう。速度はかなり落ちたが、そこでバランスを失って、今度は頭から墜落だ。
「ええいっ」
最後にサイボーグハンドは小枝をやっと掴んだが頭を打ち、彼は柔道の左受け身の体勢で地上に落ちた。
「うぐっ」
あの頑丈なヘルメットがなければ意識を失っていたかもしれない。全身をうってしばらくは動けなかった。少しして手足を伸ばしてみる。手も足も何とか動く…私は生きているようだ。
だがその時、ガサガサと音がして何かが近づいてきたようだ。横になったまま見ていると、大きな手とともに毛むくじゃらの黒い足が見えてきた。
「人間よりでかいかな。ゴリラ?でもこんな太平洋の島にゴリラはいないよなあ…」
そう思いながら上半身をおこす。その毛むくじゃらと向き合う。
「なんだこの生き物は?!」
そいつはゴリラより大きく、身長は2m50以上あり、ヒヒのように犬歯が強大に発達しており、さらに毛むくじゃらの指がとても長く、爪は鋭く、そして太かった。
「博士化アレックスがいれば正体はわかりそうだが…。とりあえず狂暴そうだからここは退散しよう…」
サミュエルゴードンはなるべく目を合わさないようにして、後ずさりしながら立ち上がりそのまま後ろに下がっていった。
大ザルはどことなく落ち着いていて、他を寄せ付けない、貫禄のようなものがあった。自分の縄張りの近くに大きな音がして何かが落ちてきたので様子を探りに来たのだろう。だが大ザルのほかにも様子を見に来た奴がいた。遠くから何か大きなものが近づいてくる気配がして、大ザルにも緊張が走る。
「ギャウオオオオオオウ」
大ザルが長い犬歯をむき出して大きく吠える。
「まずい…あ、あれは…」
「グルルる、クヮクヮクヮ!」
けたたましい鳴き声を響かせて近づいて来たのは、あの七面鳥の怪物らしかった。だがその時、サミュエルゴードンを呼ぶ声も聞こえてきた。
「サミュエルゴードンさん、アガサモンデールです、捜しに来ました。いたら声を出してください!」
大ザルはあの七面鳥に気を取られているようだ。とりあえず返事をしてみる。
「ここです、元気です」
だが、大ザルはサミュエルが大声を出すと牙で威嚇してくる。これでは、サミュエルは動くことができない。先頭に立ってみんなを導いてきたアヤコの姿が見えてくる、無言で手を振るサミュエル。
「…サミュエルさんを発見しました。でも、近くに大きなゴリラのような怪物が睨みをきかせていて自由に動けないようです。さらに後ろから巨大な七面鳥の怪物も接近してきているようです」
自動車が停車している道路まではまだここから数十mある。どうやって安全に彼を連れて行こう。だがアヤコが見守るうちに状況は変わって来た。
「グヮ、ギャークヮクヮクヮ」
なんとあの尾羽の先まで15mはある七面鳥が大ザルに向かって突っ込んできたのだ。大ザルもデカいが、七面鳥と比べたらかなり小さく見える。鋭いくちばしと言い力強い足の爪と言い、翼の力強さと言い、大ザルには勝ち目はこれっぽっちもなさそうに思えた。だが大ザルはしたたかに賢く、そして身軽であった。
何とひょいと七面鳥の突進を横にかわすと、そのまま背中にまたがったのだ。ここでは七面鳥の凶悪な嘴も、殺人的な後ろ足の爪も、力強い羽ばたきもヒットできない。それどころか長く太い首をあの大きな手でつかむとその強力な握力で締め上げたのだ。
アヤコは一瞬動きが止まった2匹の怪物をみてすかさずニードルボンドガンを撃ち、七面鳥の尾羽と大ザルの背中にまんまと発信機を取り付けることに成功した。
「グェッ、グウウウ、ギャヒヒヒヒー」
苦しくなり、あらゆる手を使って、背中のサルを落とそうと暴れ回る七面鳥、そしてここぞとしがみつく大ザル、激しくけたたましい攻防がしばらく続いた後、大ザルは思いっきり振り落とされ、七面鳥も激しく息をした後、退却していった。逃げていく七面鳥を見て、最後に大ザルが大きな折れた枝を地面にたたきつけ、勝利の雄たけびを上げた。
やがてアヤコを先頭にみんなが近づいてくる。サミュエルを取り囲む仲間の姿がぼうっとにじんだ。不死身の男サミュエルゴードンは奇跡的に大きなけががなくて救出された。だが、胸の最新のプロテクターのフレームは折れ、その他の部分やヘルメットにもひびが入り、もう二度と使いものにはならなかった。
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