9 怪獣ハンティング、昆虫の森

それからジャックの車以外の3台の車は、海岸から一番近い南の森に入った。ここには海岸側におしゃれなレストランやダイビングセットを貸し出すショップ、お土産屋なども並び、いつもなら人通りも多いところなのだが、今は人っ子一人いない。3台は、ヤシの林を越え、牧場や小さな畑を越え、さらに奥の林の中へと進んでいく。ジュリアスカーツの声がした。

「この林の奥で鳥のようなバカでかい影が目撃されたのだ。油断は決してするなよ」

狭い道路を奥に進んでいくと、そのうち一番前の車、オックスに乗っていたアレックスが声を上げた。

「ほら左奥の小さな山のふもとで、今何か動いていたぞ。でも遠すぎるな、動いてるしな」

「ならばロックオンズーム機能がお勧めだ、動くものを追尾しながら拡大画面で見せてくれる」

すぐに小さく動いているものがロックオンされ、拡大される。

「なんだこれは…しかもかなり数が多いぞ」

やがて画面いっぱいにある生き物の映像が大写しになる。アレックスの声が大きくなる。

「バッタだ。トノサマバッタに似ているが、50cm以上ある!」

アガサモンデール博士が低い声で言った。

「サミュエルゴードンさん、可能なところまで近づいていただけますか?」

「あのバッタぐらいならこの装甲車がどうとかと言うことはないでしょう。様子をみながら接近しますよ」

そして巨大なバッタが生息する森に近づくという連絡が入り、オックスはゆっくりと前に進んでいった。マグナスのシルバーハウンドと、バーグマンのモビルファクトリーは少し距離を取り、後ろから近づいていった。

「しかしすごい数だなあ、ここだけで2、30匹はいるぞ」

自動車がその場所に近づくと、突然そのたくさんのバッタがブオンブオンと羽音をたてて一斉に飛び去っていく。

「なんだこりゃあ?!」

アレックスが何かを見つけ、突然自動車から飛び出て走り出す。

「おいおい、勝手に降りると身の安全は保障できないぞ」

サミュエルゴードンが注意する。

「そうじゃなくて、自動車の入れない藪の中に何かあるんだよ」

どうにも危険ではらはらしてしまう。アレックスはたくさんのバッタが飛び出してきたあたりを回り込んで奥まで調べに行く。

「おお、こ、これは!」

アレックスの目の前に広がったのは藪の影に空けられた大きな穴、プラスチックごみの不法投棄だった。モンデール博士も車を降りて穴に近づいた。マグナスもアクティブスーツを着たアヤコも車を降りて穴に近づき、その不法投棄の悲惨な現状に驚いていた。どこかの国でプラスチックごみとしてキューブ上にまとめられたものを中心に、膨大な量の人工芝、ペットボトルなどが大きな穴に詰め込まれていた。

「ひどいなこれは、藪の後ろは外側から見えないことをいいことに、深い穴が掘られて大量にプラスチックごみが捨てられている。そして…」

アレックスはそこに小さなカニを発見、ピンセットでその小さなカニとプラスチックごみのサンプルを一つ拾った。そしてその付近の土を少し採り、ビニール袋に入れて持ち帰ろうとした。だが、その時、ごみの穴の中から何か、黒いうごめくものが迫って来た。

「うぉっ、なんだありゃバッタではないぞ…」

それは体長80cmほどの黒い甲虫のようだった。それが2匹、3匹とごみの中から出てきてこちらに向かってくるのだ。生物に詳しいアレックスが叫んだ。

「あれは小動物の死体などを食べる肉食性の森の掃除屋シデムシだな。あれ、体の半分が芋虫のような幼虫もいる。危険な蟲だからすぐに車に戻るんだ」

肉食性の危険な蟲だときかされて、みんなは慌てて逃げ帰る。しかし巨大なシデムシは意外と早い、どんどん追いついてくる。

マグナスがすぐ後ろで甲虫の足音が迫ってくるのを感じ、逃げながら振り向きニードルボンドガンを数発撃つ、黒い巨大なシデムシがすぐ後ろで凶悪な鋭いアゴを広げギーギギギと威嚇してくる。とんでもない、こんな奴に襲われたらイチコロだ。

「危ない!」

バチッと音がして黒い肉食昆虫は地面に転がった。軽やかなステップでかけつけ、マグナスの後ろの巨大シデムシを撃ち、みんなを守ったのはあのライトブルーのアクティブスーツに身を包んだアヤコだった。

「電撃サーベル、思った以上の威力だわ」

あのリュックの側面に折りたたまれたサーベルが格納してあり、いざというときにぱっと飛び出す仕組みになっているのだ。そしてリュック本体には強力な充電パックがあり、アンドロイドの体を通じて電気エネルギーが絶えず供給される。それはフェンシングのサーベルであり、強力なスタンガンだった。

さらにリュックの背面についていたプロテクター状のものは、取り外され、左手にシールドとして握られていた。

「まだ何匹かやってきます、私がここで食い止めますから、みなさんは急いで車に逃げてください」

アヤコはしゃべりながらシールドで左から来た虫を防ぎ、電撃サーベルでとどめを刺した。これこそバーグマンから相談を受けたマグナスがアヤコのために設計して作り上げた電撃パックだ。すると車で待機していたマリアンヌから緊急通信が入った。

「マグナスさんの頭の上の木の枝から、大きな蜘蛛のような、吸盤を持った怪物が狙っているようです。気をつけて」

すぐにアヤコがニードルボンドガンを撃ちながら駆け付ける。驚いた!1mほどもある蜘蛛のような怪物が今まさにとびかかろうとしている。しかも蜘蛛の足先は伸び縮みする吸盤のついた足のようになっていて1度捕まったら逃げられそうもない。バチ!電撃サーベルが火花を散らして吸盤蜘蛛を追い払う。蜘蛛はすぐに張り巡らされていた糸をつたって木の裏へと姿を消していった。

「危なかった。ありがとう、アヤコ」

「あなたを守るために私入るの。でも、今のはマリアンヌのおかげね。この森は気が抜けないわ」

周囲に気を付けながら、森の中を奥へ奥へと進んでいく。もうみんな外に出る回数もほとんどなくなっていたが、途中でそうはいかなくなった。

「倒木だ、これはちょっと厄介だぞ」

何と幹の直径が1mをはるかに超える巨木が、なぜか朽ち果て、ボロボロになって道路に倒れ掛かり、完全に道路をふさいでいる。根や枝にはやはりプラスチックごみが絡んでいる。

「これはジムとピグの出番だな」

工具ロボのピグの工具を使って、ジムは回転のこぎりやチェーンソーに手首のパーツを変えて、早速倒木の分解作業だ。

「マグナスさん、巨木の中は食い荒らされてスカスカです。案外早く終わるかもしれません。今ワイヤーをかけて取り除きます」

ワイヤーをかけていくつかに切り込みを入れた巨木を引っ張る。かなり高度な作業をジムは効率よくこなしていく。めきめきと音をたてて巨木が真っ二つになり、作業が成功したと思われたその時。

「キャー、なんなのあれ?」

マリアンヌが思わず悲鳴を上げた。巨木の中から60cm以上あるベージュの甲虫がぞろぞろとはい出てきた。20匹、いやもっといる。長い触覚、大きな複眼、鋭いあご、奇声を発しながら動き回る。カミキリムシだ。こんな巨大な虫が島中に広がったら、木々は猛烈な勢いで食い荒らされ、ジャングルはボロボロになる。サミュエルゴードンがそれを見てひと声かけた。

「ジム、ワイヤーを離して後ろに下がるんだ」

一体なんだと思ったが、ジムが巨木から離れると、その時、サミュエルゴードンが巨木に向かってオックスの火炎放射器を放った。アンドロイドのジムに被害はなかったが、突然のことにみんな驚いた。巨大カミキリムシはその半数が火に包まれ、もう半分は散り散りに逃げていった。

火炎放射器はベストな方法だったのかどうか、みんなもわからなかった。だが道路の障害物はすっかり取り除かれ、灰が散らかるばかりだった。当然のようにジムがさっと掃除して、自動車の列は再び前に進みだした。

「ううん、昆虫があんなに大きな奴らばかりだと、それを餌にする奴らももっとでかいのかなあ…」

アレックスが小さくつぶやいた。だがこの時のアレックスの言葉が、あとで現実のものとなるのであった。

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