8 怪獣ハンティング、殺戮の浜辺
その朝、朝食後、村の広場では、ジャックが銃の手入れに余念がなかった。この男は銃にこだわりがあるようだ。大きなトランクに並べられた5本の銃を1丁ずつ丁寧にみがき上げ整備して銃弾を補給していく。1丁は愛用のジョーカー、長年使いこんでいて的中率が高く、威力は標準でもいざというときに頼りになるという。あとは長距離用のファルコンや大口径のヘカトンケイル、特殊な銃弾を撃ち出すバルカンなどがある。
「へえ、ジャックさん、特殊な銃弾って何があるんですか?」
興味を持ったアレックスが聞くとジャックは自慢げに答える。
「小動物を狙うときのニードル弾、皮の分厚いオスのアフリカゾウでも1発で仕留める特殊なドリル弾、照明弾や冷凍弾なんてのもある。みんな俺の知り合いのライフル職人の芸術だよ」
参謀役のジュリアスカーツも覗き込んで感心する。
「夕べ話した通り、体長6mの大イノシシや、体長15mのワニに似た怪物も目撃されている。翼を広げると10m以上ある鳥のような未知の生物も目撃されているし、今度の敵は手ごわそうだから、これらの銃がきっと役に立つことだろう。
「大イノシシだろうが大ワニだろうが、必ず俺が仕留める」
ジャックの鋭い目に力がこもる。
その時、村の広場に4台目となる見知らぬ黒い車が入ってくる。驚くことにこの車にはガラス窓がなく、全面くろい金属板に覆われている、またひと周り大きなタイヤの表面が特殊な素材でできたキャタピラのような形状で、かなりの悪路も走れそうだ。
「…これが夕べ話していた俺の設計した車だ」
なんと軍事アドバイザーのサミュエルゴードンが進み出た。
「ジャングルでも岩場でもガンガン走れる4輪駆動の装甲車だ。いくつも隠しカメラが付いていて、自動車の中では、大画面を見ながら運転できるし、自動運転にも完全対応だ、小型ミサイルの爆撃にも耐える屈強な車体と、マシンガン、戦車砲、ミサイルランチャなども装備した怪物狩りのための車だ。こいつの名前はオックス。頑丈なだけでなく作業のためのマジックハンドも着いているからモンデール博士にぜひ乗ってもらいたいね」
なんとも凄そうな車だ。でも、それを聞いたジャックは吐き捨てるように言った。
「へへ、こんな物騒な車とじゃあ、獲物は仕留められねえよ。俺は狩に行ったときは別行動にするか、なるべく離れて行動するぜ」
さすがのサミュエルゴードンもかなり頭に来たらしく…。
「なんだと、お前のような頭の固い奴とはこっちから同じ行動は願い下げだ」
そう、言い返し、もう後は視線も合わせない。まとめ役のジュリアスカーツがさっと中に入り、いきり立つサミュエルゴードンをなだめ、チームの分断などの最悪の事態はまぬがれたが、雰囲気はすでに最悪だった。そこで全員に小さなバッチのようなものが渡された。非常のときの通信機だ。これを衣服のどこかにつけておくだけで非常時の通信が可能となる。
「よし、とりあえず今日と明日の水と食料を積み込んで出発だ」
村の若い衆や女たちがシェフのテクポカの用意してくれた食料を積み込む。なぜかテクポカは出てこない…。緊急時の充電器やアンドロイドのメンテボックスもバーグマンの車に積み込んで準備完了だ、バーグマンが今日もおしゃれな服のアヤコに声をかけた。
「アヤコ、例のアクティブスーツは着ないのかい?」
「もちろん着るわ、もうメンテボックスに仕込んであるの。あのマグナスからのスペシャルなプレゼントも一緒にね」
「なるほど。じゃあ、実戦での活躍、楽しみにしているよ」
いよいよ出発と言うとき、突然騒ぎが持ち上がった。なんの騒ぎかとマグナスが覗き込むと、あの超絶美少女マリアンヌが、旅行用のリュックを背負ってそこに立っていた。
「お願いです、食料の用意やケガの手当てには私が必要です。料理はテクポカさんに厳しく仕込まれたし、私は看護婦の資格も持っているんです。どうか一緒に連れて行ってください」
あの事件の後、まだ行方不明の父と姉を怪物の島から見つけ、できるものなら助け出したいというのだ。怪物の出る危険な場所に行くのだから連れて行くわけにはいかない。とみんなで説得したが、マリアンヌも頑固でなかなか折れない。このままでは出発時間が遅れてしまう。さてどうしたものかとみんなが困っていると、アヤコが進み出た。
「わかりました。私が責任をもって彼女の保護と世話をしましょう。決して危険なところには近づけませんから。今回だけは連れて行ってください。マリアンヌさんも、私の言うことをしっかり聞いてくださいね」
「はい、もちろんです」
「まあ、優秀なアンドロイドがそういうなら…」
こうして土壇場でチームの隊員がもう1人増えたのだった。マリアンヌはもちろんアヤコと同じ車に乗り込むこととなり参謀役のジュリアスカーツは中心の連絡係となり、バーグマンの車に移ることとなった。アレックスは調査がしやすいようにと博士とサミュエルゴードンの車に乗ることとなった。
やがて今度はマグナスとアヤコ、マリアンヌの乗る車シルバーハウンド、バーグマンとジュリアスカーツ、ジムとピグの乗るモビルファクトリー、アガサモンデール博士とのアレックスの乗るサミュエルゴードンの装甲車オックス、そしてジャックラーテルが1人で乗る大型のジープシルフィー、4台の車がパゾロの村を出発、パラソスで水上タクシーに積み込まれ、今は観光客立ち入り禁止のデノス島へと渡っていったのであった。
この辺りはしばらく封鎖されて今は近づく人もほとんどいない。軍の近代兵器と怪物が何回もやり合って一時は戦場のようになった場所だが、今は静まり返っている。デノス島の港も同じだった。
「おや、なんだあの丸い黒いのは?いくつもいくつも、すごい数が港に浮いているぞ」
ジャックが目ざとく港の海面に浮く不気味なものを見つける。早速アレックスが手編みで掬い取り観察する。
「これはクラゲだ。黒色の色素を持つ黒いクラゲだよ」
黒い色にどのような意味があるのだろう。今はまだ何もわからない。どこか不吉な黒いクラゲに歓迎されて、ついに港に上陸だ。
水上タクシーから降りて港に着くと、昨日の打ち合わせ通り、今日はそれぞれに散って広い範囲で怪物探索を行い、それから怪物の分布がわかってきた時点で連絡を取り合い協力し合うことが確認された。最初から単独行動をとりそうなジャックラーテルは、自動操縦のあのセンサー付きのドローンを海岸から東の森林地帯に向かって飛ばした。
「さてさて何が網にかかるかな…」
アヤコはというと、早速メンテナンスボックスに入り、そのアクティブスーツに着替えを始めた。一体どんな服なのだろう。マリアンヌもバーグマンの車の広い室内を借りて白の上下の作業服に着替え、救急箱を入れたバッグを持って出てきた。看護士の仕事、やる気満々だ。マグナスは今日のために用意したニードルボンドガンという小型の拳銃を3丁用意して出発に備えた。アレックスは今日はアガサモンデール博士と組んで、怪物の謎に挑む。
参謀役のジュリアスカーツは言った。
「この間の軍の駆除がなぜ失敗に終わったかは色々言われている。でも私が思うに、どこどこに怪物が出たという不確かな情報で動いていただけで、行ってみればガセだったり、逃げた後だったり、隠れてしまっていたりということが多かったそうだ。だからまず、どこにどんな怪物が、どんな時間に出てくるのかきちんと調べていく必要があると思う。そこでマグナスさんたちに頼んで怪物用の監視カメラを作ってもらった。これから島のあちこちを一回りしてカメラを取り付けて回ります。マグナスさん、説明をお願いします」
マグナスとアヤコが立った。
「360度のモーションセンサーのついた超小型監視カメラを島の道路周辺につけていきます。動力は小さな太陽光パネル付きで6か月ほど持つはずです。取り付けはアンドロイドのジムとピグに任せます。高い枝の先や崖の岩に取り付けることもジムならドローン機能でお手の物です」
すると今度はアヤコが言った。
「監視カメラはネットでつながれていてそのデータ画像はリアルタイムに私の電子頭脳に集められます。どの時刻に島のどの地点で何があったのかがわかるように設計されています。怪物騒ぎの終わったときは回収も能率的に行えます」
さらにジュリアスカーツが続けた。
「島のどの地点にどんな怪物がいるかがこれである程度掴めるようになります。あとはその怪物をどのように攻撃すると駆除できるのか、それをモンデール博士とアレックスで調べていただきます」
「怪物は私の夫のジェラルドが開発したプラスチック分解細胞、いわゆる緑色細胞が関わっていると考えられます。でもまだそのメカニズムはよくわかっていません。この島で広く怪物の細胞サンプルなどを集め、それを解明していきたいと思います」
モンデール博士がそういうとアレックスが付け加えた。
「…怪物にはその誕生過程において、どうも何パターンか種類があるようだ。なぜ種類に別れるのか、その謎を探っていきたい。それが怪物駆除の近道だと思う」
本当に村の復活を願っているアレックスは、やはりその熱量が違う、今日も熱いのだ。
「ねえ、マグナス社長、私のアクティブスーツどうですか?バーグマンの苦心の作なんですよ。もう、この間みたいに破れたりすることはないでしょう」
やがてメンテナンスボックスから出てきたアヤコがマグナスの前に進み出た。
「…おお、かっこいいね。女スパイか忍者みたいだよ」
最初見たときは、体の線がくっきり出て、セクシーすぎるかなとも思ったが、まあアンドロイドだから機能性を考えるとこんなものかと思い直した。
「アヤコのボディにはもともとカーボンや合金を使ったヘルメットやプロテクターがいくつも装備されているのだが、それをさらに強化する様に、カーボン繊維やアラミド繊維、ハニカム構造などを取り入れて多層構造にして、体にフィットするウェットスーツ風に仕上げてみた、もうこれで簡単に敗れることはないし、耐衝撃性も格段に上がったよ」
今回は、パールピンクとライトブルーの2着を用意したという。今アヤコが着て居るのは涼しげなライトブルーだ。耐熱性や耐寒性もかなり高く、また防水性能も完璧に仕上げたとバーグマンは熱弁した。また腰のベルトにはさっき用意したニードルボンドガンが取り付けられ、背中にはデイパックのような小さなリュック上のものが背負わされている。さらにリュックの背面には丸いプロテクター状のものがついている。このリュックやプロテクターは、バーグマンに相談を受けたマグナスが特別にプレゼントしたスペシャルなものらしい。子のプロテクターやリュックの意外な使い道は追々わかるという。マグナスはマリアンヌにも念のためニードルボンドガンを渡し、いざというときの護身用にするように言った。
さてサミュエルゴードンのオックスも戦闘準備を始めたが、マシンガンや戦車砲、ロケットランチャーに至るまですべての武器はオックスに装備されていて、全く車からでなくとも8方向のモニター画面で操作や攻撃ができるのだという。また2本の長いロボットハンドが付いていて、車から降りなくとも細胞のサンプルなどを簡単に収集できるのだ。
「ほら操作用グローブをはめると、自分の手のように自在に動いてくれるんですよ」
モンデール博士とアレックスはこのマジックハンドの快適な操作性に驚き、何度も説明を聞いていた。いよいよ島の探索だ。まずは4台で海岸沿いのあのヤシの木並木を走り出す。
「へえ、サブモニターで拡大画面もきれいに映るのね。これなら遠くからでも細胞やごみの様子が確認できるわ」
海岸に打ち上げられたプラスチックごみは相変わらず多いが、注目したのは緑色細胞の肉片が間違いなくこの間より増えているということだ。この海岸あたりでも軍がドンパチと派手に怪物とやり合って肉片が散らばったのだろうか。
モンデール博士たちの乗っている黒い装甲車オックスはまず海岸の周囲で細胞のサンプルを集めることにした。バーグマンのモビルファクトリーは要所要所で車を止めて監視カメラを取り付ける作業を始めていた。ヤシの木でも、ジャングルの木でも、海岸の岩でも、ジムが肩から上をドローンに変えて飛んでいき、特殊なワイヤーや接着剤で一瞬に取り付けが終わるのだった。
そのうちジャックのシルフィーがさっと走り出した。
「すまんな、俺のドローンが東の山地で、5m以上ある巨大な獣を発見したようだ。悪いが先に行かせてもらうぜ」
誰も止めることなくジャックの単独行動は半ば公然化していた。
しばらくしてアレックスとモンデール博士の細胞サンプル集めがほぼ終わったころ、海岸では大きな動きがあった。もともとサンプル集めが始まったころは引き潮の時刻だったらしく、塩がみるみる引いていったのだが、海底が見えてきたとき、明らかに海底が動いているように見えたのだ。
「おお、海底が、岩が動いている…いや、そうじゃない。気を付けろ、あの大ガニだ、岩そっくりのロッククラブだ」
やがてカニたちが岸辺へと動き出したので。マグナスたちのシルバーハウンドとバーグマンらのモビルファクトリーは少し後退し、怪物たちの動きをうかがった。だがサミュエルゴードンのオックスはマジックハンドが格納され戦闘モードオンだ。
まずは車のフロントガラスの横が開き、マシンガンが火を噴いた。だがロッククラブにはほとんどダメージを与えられず、帰って狂暴化させたようだった。大ガニたちは巨大なハサミを振り上げ、足をグーンと高く伸ばし、7、8匹の群れでオックスに迫って来た。
モンデール博士は装甲が頑丈だとは聞いていても、大ガニたちの迫力に震え上がった。だがサミュエルゴードンは落ち着いて次の攻撃に移った。
「戦車砲をロックオンシステムで起動。念のためにロケットランチャーもスタンバイだ」
すると今度はオックスの前部がカチッと開き戦車砲が突き出てきた。さらに後ろの天井部分がせりあがって箱のようなロケット発射装置が姿を現した。そして最初は強力な戦車砲が火を噴く。さすがの岩のような大ガニも1匹また1匹と吹き飛んでいく。サミュエルゴードンはモニターのシステム画面をチェックしながら操作しているが、原則、音声システムでしゃべりかけるだけだ。自動車のコンピュータが敵を識別し、照準を定め、あるいはロックオンして攻撃する。アレックスはモビルファクトリーから見ていて思った。
「さっきから手はほとんど使われていない。しゃべるだけで敵を攻撃できるのは便利だが、何か怖い気がする」
中でも大きなロッククラブが、いきり立つように動き回り、戦車砲をかいくぐり、ハサミを振り上げて装甲車に襲いかかって来た。
「ヒィー!!」
思わずおびえるモンデール博士。だがサミュエルゴードンは笑っている。次の瞬間追尾システム付きのロケットが発射され、動き回るカニを追いかけ、追い詰め、命中、カニを粉々に吹き飛ばす…。気が付けばあたりは、体の一部が吹き飛んで倒れたロッククラブや砕け散った甲らやカニの脚などが散乱していた。
同じころジャックラーテルから、1匹目の獲物を仕留めたと写真付きで報告が入った。
「残念だが、最初の獲物はちっぽけなイノシシだった。だが最初にドローンがとらえた超大物も捕捉済みだ、今日中にそちらも仕留めて報告する」
写真は凄い迫力だった。森林の中に3.5mはある怪物のようなイノシシが横たわっていた。下あごから突き出た牙は太く鋭く、盛り上がった背中からは1.5mはあるヤマアラシのような針が何本も突き出ていた。どう見てもちっぽけな獲物には見えなかった。よくもこんな怪物をあの銃で仕留めたものだ。カニたちの残骸が広がる光景に比べれば、こちらは血や肉片が飛び散ることもなく死体だけが横たわっている。ジャックが軍の攻撃を批判していたが、ちょっとわかる気もした。
ジャックの解説はこうだ。
「このチビ助の方は、ジャガーワームと同じ、大口径のヘカトンケイルで仕留めた。だが急所を見抜き、仕留めることには成功したが皮は予想以上に硬く、厚く、もう限界と思われた。5mを越える超大物は、ヘカトンケイルで倒せるかどうかギリギリだろう。だめなら今度はバルカンで、特殊銃弾を試すことになるかもしれない」
ジャックはそう言い残して、次の探索に出かけたようだった。モンデール博士はもう少し調べたいことがあると言って、車をわざと降りると海岸のビーチで二枚貝を採集し、さらに岩場の方に降りて磯場の生物、海牛などを採っていた。しばらくは何事もなかったが、そのうち大きな悲鳴が響き渡った。
「キャー、すごいスピードで何かが近づいてくる!」
そばにいたアレックスがそいつの正体を確かめる。
「フ、フナムシだ」
そいつらはカニの残骸の匂いに引き付けられて出てきたらしい。飛び掛かってくることはなさそうだったが、50cm以上あり、大群でこちらに移動してくる。さすがにやばいなとアレックスが思案していた時だった。
「超振動パンチ!」
サミュエルゴードンが助けに入った。何なのだこの男は?小さく振動音が聞こえたと思ったら強烈なパンチで巨大なフナムシを1発で吹っ飛ばしバラバラにしたではないか。
「超振動チョップ、超振動キック!」
この男は人間ではなかったのか?拳や足先が打撃の瞬間、目に見えない速さで振動し、飛びぬけた威力を発揮したのである。あっという間に10匹以上撃破し、フナムシたちは逃げ出した。
モンデール博士はどうかと言うと、しばらくの間観察をしたり、装置を使って測定したりしていたが、やがて車に戻ると、確信をもって話し始めた。
「間違いないわね、見て、この装置は1m以内にどのくらいマイクロプラスチックが入っているか測定する装置なんだけど…」
なるほど、目には見えないが、かなりの量のマイクロプラスチックが海水に含まれているのがわかる。一見エメラルドグリーンの海に囲まれた美しい南の島にしか見えないのだが、プラスチック汚染はかなり進んでいる。
「そしてこちらが貝類や海牛などの小動物のエサになるコケや海藻、かなりのマイクロプラスチックが集まっている。でも問題なのはここよ」
そう言ってモンデール博士は貝や小動物の消化器の中を切り開く昨日撮影したという資料映像を見せてくれた。
「あ、本当だ」
なんと腸のかなりの部分が緑色に染まっていた。
「プラスチックを分解する緑色細胞と生物が消化器内で共存している。プラスチックをどんどん分解してその高いエネルギーが、同じく吸収され、ここから血液に溶けこんでいるのです」
しかもこのプラスチック分解の機能は唾液や広く消火液にも備わっており、口に入れるだけで彼らはプラスチックを溶かし始めるらしい。
「そしてもともとジェラルドの実験していたプラスチック分解細胞はプラナリアの持つ驚異の再生能力や増殖能力を持っているのです。海水中のマイクロプラスチックをどんどん分解して高いエネルギーに変換し、これを食べた生物の消化器官に共存する、再生能力や増殖能力によって時に共生した宿主の生物を巨大に進化させる。これが生物の怪物化の一つのプロセスね。そして緑色細胞やマイクロプラスチックが海の生物の中の食物連鎖によって多くのさまざまな生物に広がり、怪物化していくのね」
だが、それを聞いてアレックスが言った。
「なるほど巨大化のプロセスはそのようなものでしょう。でもジャガーワームのような単に巨大化にとどまらず、人間のような歯を持っていたり、足の数が多かったりするのには、まだ未解明の謎があると考えられます。解明が待たれますね」
モンデール博士とアレックスは、一応の成果を上げ、簡単な昼ご飯の時間を迎えることとなった。今度はマリアンヌの出番だ。
モビルファクトリーの作業場で、村で積み込んできた材料をさっと広げると、慣れた手つきでハムや採算度や、タルタルソースタマゴサンド、チーズバーガーや特製ソーセージを使ったホットドッグなどを注文に応じてあっという間に作り上げ、みんなに配る。みんなは待っている間、コンソメオニオンスープやしぼりたての牛乳、生ジュース、村のコーヒーなどの飲み物を自分のグラスに注ぐ。
「ほお、自慢するだけあって見事な手際の良さだ、おお、このチーズバーガーめちゃうまいぞ」
「テクポカさんに教わって、2種類のチーズを組み合わせてるんですよ」
マグナスがうまそうにかぶりつく、アヤコはそれを見て微笑む。
「ハム野菜サンドも野菜が新鮮でシャキシャキしておいしいわ、タマゴサンドもこのタルタルソースの本格的なことと言ったら!」
美貌のモンデール博士もニコニコだ。バーグマンは黙々と大好物のホットドッグを食べている。何でもこのソーセージはテクポカの手作りで、ほっぺたが落ちるほど美味しいそうだ。なぜかサミュエルゴードンはほとんど食べないが、参謀役のジュリアスカーツは、何かとうなずきながら、一通り嚙み締めるように味わっていた。
マリアンヌは、密かに恋するアレックスに気づかれないようハーブをかわいく飾り付けたり、特製の粉チーズを使ったりしていたが、アレックスは気づいたのか気づかなかったのか、おいしいおいしいと食べ続けた。マグナスとアヤコは微笑んで見ていた。
そしてマリアンヌはその後も自分で食べながら働き続け、みんなが食べ終わるころには食べ散らかしもすっかりかたずけ終わり、残り物をマリアンヌがほおばってフィニッシュとなった。そしてお腹いっぱいとなった一行は、次の場所へと移動を始めた。
マグナスの車にいるマリアンヌはアヤコの隣でおとなしくはしていたが、彼女の愛するアレックスは美貌のアガサモンデール博士と同じ車で2人で話ばかりしている。マリアンヌとしては気が気ではないようだ。アヤコが優しくつぶやいた。
「心配しなくても大丈夫、アガサ博士には、ジェラルドモンデールって言うとびきり素敵な旦那さんがいるんだからね」
「…そうか…そうね、そうでした。私ってバカみたい」
2人で顔を見合わせて笑い合った。
その頃、ジャックは東の森の山の中で車を止めて、獲物を待っていた。ジャックはアンドロイドなので、ドローンから贈られてくる通信を頭の中で画面に変換し、それを分析しながら行動を決めていた。外から見れば気難し屋のハンターが押し黙って獲物を待っているようにしか見えない。最初ドローンに超大物の熱反応が捕捉され、ジープをここまで飛ばしてきたのだが。突然熱反応が画面から消えてしまったのだ。
「ドローンのセンサーをはずすってことは、茂った藪の中か、巣穴の中に入っちまったかだな。いいだろう、我慢比べならお得意だ、そっちがしびれを切らすまでじっくり待ってやるよ。強力な銃弾を用意してな」
ジャックはこういう持久戦の時、アンドロイドボディを本当にありがたく思った。トイレに行く必要も睡眠をとる必要もなく、飲み食いもいらないのだ。音ひとつ立てることなく、獲物を長時間待ち続けることができる。そのうち、獲物の体がわずかに動いたらしい。モーションセンサーがかすかに反応した。
「間違いない、奴は、モンスターはすぐ近くにいる」
ジャックは、あの大口径の銃ヘカトンケイルと、特殊な銃弾と、バルカンを片手にジープを降りた。そして怪物の隠れているあたりに、息を殺して近づいていった、たった1人で。
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