7 新チーム発足
それから数か月がたった。マグナスは怪獣島のことを忘れたかのようにG計画と言う新しい計画にのめりこみ、新しいアンドロイドを設計していた。バーグマンはアヤコに頼まれ、更なるアヤコの改良計画に取り組んでいた。アレックスは独自に怪獣島の生物の研究をしたり、マキシマ博士たちの行方を調べたりしていた。
そんなある日、マグナスのところにあの美貌のアガサモンデール博士から連絡がきた。
「…実はあの怪獣島のことでゴールドマン知事がお困りのようです。久しぶりに連絡を取ったところ、軍に任せておいた怪獣の駆逐の件はなかなか思ったように進まないし、あの一帯を封鎖したので島の観光にも大きな損害が出て、島民たちもかなり困っている様子です。私も夫のことで責任を感じていますし、何か知事に協力できることがないか考えていました。そこであの時のジュリアスカーツ氏の提案で、専門家を集めたエキスパートチームを組織して怪獣駆除を行うことになりました。つきましてはチームのメンバーの一員としてマグナスさんの参加をお願いしたく…」
思ってもみないエキスパートチームへの参加の依頼であった。ジュリアスカーツの話ではほかにハンターの専門家や武器の専門家も呼んであるからマグナスとアヤコ、それにメカニックのバーグマンの力を借りたいというのだ。
「ちょっと待ってください、凄い報酬ですね。どこから出ているのです…」
するとアガサモンデール博士は…。
「詳しくは言えないけど、昔エイラス島を統治していた宗主国で、現在も結びつきの強いあの大国の軍事部門ね、今回の事件を重く見ていたみたい」
軍事大国…あの国か…。
「ああ、そうですか」
なにやらきなくさいことになってきた。こうなるとどうも気が進まない。断ろうかと思っていると、アガサ博士は最後にひと言付け加えた。
「あ、それからあなたの親友アレックスリゲルはもう参加することになっているわ、ぜひマグナスも参加するように言ってくれってね。デノス島もそうだけど、エイラス島も怪獣騒ぎで観光客はさっぱりなの。ジャガーワームに襲われた人がまた出たって言うし、彼が今滞在しているパゾロの村もホテルの仕事もお土産の仕事もすっかりなくなってみんな困り果てているらしいわ。1日も早く怪獣問題を解決して村の平和を取り戻すんだってやる気満々ね」
「…そうですか…ではパゾロの村のためにも、アレックスのためにも私も参加させていただきます」
結局参加することになってしまった。
それからわずか2週間後、エイラス島に降り立ったマグナスたち一行は、再び自動車を2台連ねてパゾロの村に向かっていた。パゾロの村では、マグナスたちが来ると、村の子どもや村人もみんな出てきて大変な騒ぎだった。アンドロイドのジグも、道具ロボットのピグも元気だった。アンドロイドシェフのテラポカも陽気に出迎えてくれた。あの島の美少女マリアンヌも出てきて早速アヤコと話をしていた。
「マリアンヌはずっとアレックスのことを思い続けているらしいけど、どうも告白できなくて困ってるみたいよ」
まあ、あんな美少女に思われているなんて男性なら誰だって悪い気はしないけど、今はこの村の危機を救おうと一所懸命なアレックスには黙っていた方がいいかな。私はしばらく見守ることにした。
そのアレックスがモンデール博士たちと共に出てきたが、珍しく険しい顔をしている。理由を聞いてみると意外な事実がわかった。
「夕べの夜遅く村の鶏小屋が何者かに襲われて、10羽ほどの鶏が姿を消したそうだ。監視カメラのない山側から襲われたようだが、もしかすると犯人は…」
村人は何らかの野生動物らしいと謂うのだが、もしかするとあの怪物かもしれないと言うのでどうも胸騒ぎがしてね」
「ジャガーワームか…?でも可能性がゼロではなさそうだな」
マグナスがそう答えるとモンデール博士がこう言った。
「もうすぐここに2人の専門家が来ます。一人は動物を追跡して仕留めるハンターだから、きっとその人が色々わかると思うわ。もう1人は、武器のエキスパートらしいけどね」
モンデール博士の隣にいるあの思慮深そうなジュリアスカーツの人選らしい。
やがて少しすると悪路でもガンガン飛ばせそうな高性能の大型のジープが村に乗り込んできた。ジュリアスカーツが色々説明してくれる。アフリカのサバンナを主たるエリアとし、主にアウトドア好きな富裕層向けにサファリでハンターのガイドを務めるプロのハンタージャックラーテルだ。モンデール博士がアレックスを連れて車に近づき、今の怪物の話をすると、がっしりした鋭い目で鷲鼻の男が瞳を輝かせた。
「今朝、軍の施設でこの間のジャガーウァームの駆除画像を見てきたばかりなんだ。奴ら派手な武器ばかりドンパチ撃ちまくって結局2頭も逃がしちまいやがった。てんでなってない、あれじゃあ、軍事費の無駄遣いだ」
いつもはシマウマやヌー、ライオンなどをハンティングしている男が軍の怪物駆除に文句ばかりを並べ立てた。そしてジャックラーテルは足早にジープを降りるとアレックスに頼み込んだ。
「早速その鶏小屋に連れてってもらえるかな。いいかい、獲物は1分1秒でも早く手を打っておかないとどんどん遠くに逃げちまう。手がかりも、時間の経過とともにどんどん不鮮明になっちまう。だから獣の追跡は今との戦いなのさ」
アレックスは、口うるさそうなそのジャックとともに山の斜面を登っていった。そんなことをしているうちに、ヘリコプターの音が近づいてきた。ジュリアスカーツの話では、なんともう一人のメンバーがここに降りてくるという。しかしこの村の周囲はジャングルだ。しかも大型の軍用ヘリコプターだ。あまり広いとは言えない村の広場に着陸するには無理がある。パラシュートで降下するにしてもちと狭い。と、思って見上げているとヘリは村の上空でホバリングをはじめ、そのうち、ロープがするすると降りてきて、1人の男が狭い村の入り口に降りてきた。そしてあっという間にうまく着地するとロープを切り離してこちらにすたすたと歩いてきた。そのあまりに見事な身のこなしに誰もがハッと驚いた。ジュリアスカーツが早口でまくし立てた。
「彼が軍事チーフアドバイザーのサニュエルゴードンだ。武器の専門家であり、1年前に起きたヘリコプター墜落事件の目撃者でもある」
え、それってマキシマ博士の研究所の襲撃事件のことだろうか?本当だろうか、マグナスはあれもこれも聞いてみたいことでいっぱいだった。だが先ほどのジャックラーテルが、突然斜面の藪の中から飛び出し、モンデール博士を捕まえて話し出した。
「モンデール博士、やばいぞ、あれはジャガーワームに間違いない。このままでは村人が危険だ。すぐに追跡してハンティングだ!」
なんでも小屋の入り口の頑丈な錠前が金具事引きちぎる様に無くなっていたとか、鶏の入っていた2mほどの金属製の檻がぺちゃんこになって床に転がっていたとか、ありえないことばかりだった。
「山側の入り口を壊し、頭を突っ込んで、鶏を丸のみにしたんだろう。羽は少し散らかっていたが、血や食い散らかした後はほとんどなかった。丸飲みだよ、丸飲み」
そして周囲を調べると、山の斜面にとても大きな獣の足跡を数か所で発見したという。
「ジャガーに似た足跡の大きさは43cm、怪物の足跡以外考えられない大きさだ」
モンデール博士は、今日は作戦を練って、実際の怪物退治は明日からだと言ったが、もうジャックは止まらない。
「予定は予定だ。だが怪物や野生動物は予定通りには動いてくれない、こっちが動物に合わせるしかないのさ。悪いが俺は追跡を開始する。怪物におびえている暇があったら、まずは行動だ。そういうわけで、ごめんな、俺は行くぜ」
そしてあっという間にジャックラーテルは、愛用の特別製のライフルを握ると、獲物を追いかけて1人で出かけようとしていた。するとヘリから降りてきたサミュエルゴードンが…。
「あの怪物相手に1人では危険だ、俺が一緒に行こう」
と申し出た。なるほど、このサミュエルゴードンも背は高いし、圧倒的な筋肉男で腕自慢のようだ。だが、ジャックは。
「無駄に銃をぶっぱなすような軍の奴らと一緒じゃあ、追跡はできない。1人で行ってくるさ。じゃあな」
そう言ってけんもほろろに断った。ゴードンはむっとしてつぶやいた。
「まあいい、それじゃあ、早速プロのハンターのお手並み拝見と行くか」
ジャックはジープに取り付けてあった追跡用のドローンをさっと上空に打ち上げ、地上と空中の両方から捜すのだという。ドローンには各種カメラのほかに赤外線センサーやモーションセンサーなどもついていて、ジャングルの中の体温を持ったもの、動くものなども見逃さないのだという。ジャックが1人でジャングルの中に歩き始める、一緒にいたアレックスが下りてきてマグナスに言った。
「あのジャックって男、結構な歳に見えるが、斜面を駆け上がっても息もまったく切れないし、崩れた斜面からわかりにくい足跡をさっと探し出すし、一番驚いたのは何の道具も使わないで見ただけで足跡の大きさを言い当てるんだ、それに使ってるドローンは見たことがあるような気がする。あの男、もしかすると…」
「…そうか、でも俺にも心当たりがないわけじゃない…。もしかしてあの男…」
そしてマグナスは秘書のアヤコに何かをつぶやいた。
「…アンドロイドリストに該当がありました。間違いありません。あの男、ジャックラーテルは、社長が数年前に依頼を受けて注文生産した特殊アンドロイドG4号です」
「彼は社長の研究所で制作された後、政府の特別な許可を得て生前の姿そっくりに容貌も再現されたアンドロイドです」
「そうか、私の手を離れてから外見の再現をしたのか、すぐにわからなかったはずだ」
もともとは南アフリカのサバンナで有名だったサファリガイドの男です。ガンで余命1年と宣告されたときに、彼の能力が惜しいと彼の能力をコピーしたアンドロイドの計画が持ち上がったのです。生前の彼はライフル銃の腕前は超一流、不鮮明な足跡でもその動物の種類や大きさを正確に言い当て、最短距離で追跡することができた人物で、生前の能力以上のものを再現してくれと大金持ちの彼のスポンサーから頼まれたのです。彼の癖の強い性格やユニークな思考パターンなども本物そっくりにコピーされたのです。そして彼の能力をさらに高めるために社長が考案し、バーグマンさんに作ってもらったのがあのドローンです」
アヤコの説明に、マグナスはしみじみと思いめぐらした。
「生前の彼は確か48才のとき膵臓癌で急死している。まさか自分のかかわったアンドロイドにこんな形で会うとは思わなかった」
するとアレックスが言った。
「やはりそうだったか…。それで彼のアンドロイドとしてのハンターの腕は確かなのかい?」
「彼のスポンサーは我々が考えるより数段上の大金持ちでね。まあ、サバンナでライオンハンティングが趣味みたいな人たちだから、製作費はいくらかかってもいいと言ってね。まあ贅沢な資金で思い通りの機能を付けることができたよ」
それを聞いたアレックスは真顔で言った。
「マグナスが思い通りにできたってアンドロイドじゃ、本当に怪物を仕留めてくるかもしれないなあ」
マイペースなジャックが出かけた後、モンデール博士を中心に新しいチームで自己紹介が始まった。みんなは場所をリリエンタールロッジの会議室に移し、マリアンヌが運んできた紅茶を飲みながら話を始めた。モンデール博士、今回のチームをプロデュースしたジュリアスカーツ、マグナス、アレックス、アヤコ、メカニックのバーグマン、そして軍のアドバイザーで武器マニアのサミュエルゴードンだ。簡単な自己紹介のあと、モンデール博士が口を開いた。
「ここエイラス島と向かいのデノス島で問題になっている怪獣ですが、状況を考えてみるとほぼ間違いなく私の夫のジェラルドモンデールが実験をしていた緑色細胞が変異したものだと考えられます。彼はもともとプラスチックを分解するバクテリアを発見し、その能力を持った色々な生物を作り、世界中からごみ問題を無くそうとしていました。そしてエイラス島のパラソストいう港町の近くのマキシマ博士の研究所で、博士の力を借りて実験をしていたのです。ところが研究を狙ってどこかの組織がある日襲ってきたのです…」
そこまで説明するとモンデール博士は、サミュエルゴードンをみて話し始めた。
「サミュエルゴードンさん、もしその時のことをご存じなら、ここにいるみんなにお話し願えないでしょうか」
博士の隣にいた思慮深そうなジュリアスカーツが言葉を重ねた。
「研究所に関することは怪獣事件の辛みもあってすべてオープンになった。軍の上層部も了承済みだ、ぜひ話してやってくれ」
「わかりました、では詳しくお話ししましょう」
サミュエルゴードンは、身長180cmの筋肉質タイプだ。いかにも軍人と言った感じの実直さとタフな感じがある。そのゴードンが、紅茶をゆっくりと口に運びながらじっくりと事件のことを話し始めた。
「あれは1年前の5月12日、ゴールドマン知事から軍の上層部に届いた内部の命令だった」
研究所にはそれまでもハッカー集団からのネット攻撃や、正体不明の侵入者事件などが相次ぎ、警察沙汰になったことも少なくなかった。そして最後には、研究所には謎の組織から接触を求めて脅迫めいた連絡がきたが、研究所は無視した。だが完全に無視を決め込むと最終勧告というメールが届いた。そこには日付と接触方法が書いてありこれを無視すると大変なことになるというのだ。だが研究所は警察に連絡の上、それさえも無視した。その翌日、島の警察署が爆破された。担当景観を含む3名の警察官が入院するほどのけがを負った。研究所の職員もさすがに身の危険を感じて警察を通じてゴールドマン知事に助けを求めたのだった。
「警察を爆破したときの手がかりを一切残さない鮮やかな手口、使われた爆弾は脚がつかないよくできた高性能爆弾、軍の上層部はそれを知ってこれはプロだ、簡単には捕まらないと考え、軍事アドバイザーである私のところに話を持ってきた。私はその日のうちに精鋭メンバーを選考し、早速研究所の警備に向かった」
研究所のあるパラソスの街は、2日後に小さな町全体をゆるがす漁民たちの祭りが予定されて賑わっていた。当日は港の大通りをサンバ隊が通るとかで近くの町からも人が出て賑わうのだという。
研究所は1階が実験セクションと個人の研究室、2階がコンピュータセクションと機密保管庫だった、保管庫にも実験が終わった緑色細胞が保管してあったが、その時は地下室に特別な水槽が並び、研究の核心部となる緑色細胞の培養実験が行われていた。
「私たちはすぐに研究所の周囲に複数の監視カメラを設置し、研究所の南口ゲートに24時間体制で見張り番を立てた。だが次の日の午後、昼間のまだ2時過ぎに1回目の攻撃があった。なんと離れたところから遠隔操作で近づいてきたドローンが、2階のガラスを突き破って侵入し、直後に爆発、2階で火事が発生した。爆発によって保管庫はめちゃくちゃになり、いくつかの実験の終わった細胞も飛び散り失われた。火事は消化係がすぐに消仕留めたが、研究所の研究員たちは、ますます身の危険を感じ、さらに厳重なセキュリティを持つ軍の施設への避難を提案してきたのだった。特に研究所の責任者マキシマ博士は、早急に地下の培養実験の細胞の移転を強く希望して来た。あまりに博士の要求が早急なため、理由を聞いてみると。
「緑色細胞の実験はプラスチックを分解するジェラルド博士の画期的な実験なのは間違いないが、同時に鷲の細胞をコントロールするバイオラジオの実験もやっているんじゃ」
なるほど、しかもバイオラジオの方は先日完成したばかりで、今盗まれたり爆破されたりしたら今までの実験がすべて白紙に戻る段階なのだという。セキュリティの高い軍の研究施設への移動は難行の末認められたが、受け入れには少なくとも2週間以上かかるという。それでも希望する博士たちに押され、受け入れ態勢ができ次第移動が実現することとなった。そんな時24時間体制で周囲を見張っている精鋭部隊から怪しい人の動きがあると報告があった。今度は何だ。それは深夜2時過ぎだった。海辺の高い丘に向かって歩いていく少人数のグループがいた。いや、そのグループだけではない。他にもいくつかのグループが続々と丘の上へと集まった。
「誰か、奴らの目的を調べてくるんだ」
精鋭の部下の1人がパパッと走り出し、奴らの方に向かっていく。グループの中から声が聞こえてくる。
「やばいぞ、警察じゃないのか」
「深夜の観察会だから、一応届け出を出したほうがいいって言ってたんだ」
やがて集会のリーダーと思しき人物が部下に説明し、終わったら早めに帰る様に言い聞かせてその場は終わった。帰って来た部下は報告した。
「宇宙探査機が役目を終えて地球に帰ってくるのだそうです。なんでもこの間打ち上げられた彗星探査ロケットメロードの探査機の着水地点がこの海域だそうで天文マニアや宇宙マニアがメロードの帰還を一目見ようと集まってきたというのです。あと25分で大気圏突入をするから、マニアで観察会をするつもりらしいです」
サミュエルゴードンは一応オーケーをだし、すぐ終わるようだから静観してよいと指示した。それから25分後北西の空に光が瞬いた。だがどうしたのだろう、探査機の帰還にしては夢のように美しいのだ。ほんの数秒だったが、大きく虹色に輝いた後、赤や緑オレンジの数個の光が流星のように尾を引きながら闇の中に消えていった…。どうやらメロードの探査機は大気圏突入後トラブルがあったのか爆発を起こし、分裂して燃え尽きてしまったらしい。
「あまりに美しい悲しい爆発だ」
そんな事件もあったが、敵の攻撃がないまま2週間が過ぎ、いよいよ受け入れ態勢ができたと連絡が入った。そこで私は夜中のうちにヘリコプターによる緑色細胞の移転を提案した。
「奴らがどこから情報を仕入れ、攻撃を仕掛けているのかわからない。内部に何らかのスパイがいると考えられるがまだしっぽは出していない。ならば、内部の人間にも知らせずに夜中に移動してしまえば、敵もすぐに動けないかもしれない」
そこで精鋭メンバーで組まれた警備隊とマキシマ博士の直属の部下を使って、真夜中の1時に作業が始まった。緑色細胞は輸送用のカプセルに移し替えられた上に、ヘリで運び出す大きな包みと研究所に分散して残す小さな包みに分けられた。もしどちらかが事故に遭っても1つは残す作戦だ。さらに大きな包みは地下室から運び出され、夜中の2時には関連の精巧な実験機械とともに、2つの旅行用のトランクに入れられて1階のゲートに運び終わっていた。
「よし予定通りだ。ヘリを呼ぶぞ」
サミュエルゴードンは予定通りヘリコプターを呼ぶように指示を出した。メンバーの間に緊張が走った。やがて遠い空からヘリのローターの振動音が低く聞こえてくる。夜明けまではまだ3時間近くある。研究所の道路側の駐車場にヘリは予定通り着陸した。
「よし、トランクをヘリに運ぶんだ」
軍の施設に運ぶ大きな包みの入ったトランクがヘリコプターに運び込まれた。まだどこの地点にも怪しい動きはない。
「よし、出発だ」
ヘリコプターは操縦士の他に2名の警備兵と2名の運搬係を乗せて空に飛び立った。だがそれと同時に敵は動き出した。ヘリコプターがゆっくりと上昇しながら海の上を飛び始めた時、近くの丘の上から一台のドローンが飛び立った。そして、ヘリがスピードを出す前に、電磁石の仕掛けを使って、ヘリにカチッとくっついてきた。
「しまった!」
ヘリを見ていたサミュエルゴードンが気付いた時は遅かった。
どっかーん!!
ドローンに仕掛けられた爆弾が爆発した。ヘリは必死にバランスを取ろうとしたが機体は大きく傾き、海に向かって落下し始めた。
「もう少し飛べば向かいのデノス島にたどり着く。頑張って飛んで不時着するんだ」
ヘリコプターはふらふらしながら数百mを飛び、デノス島の海岸に不時着。操縦士と2人の警備兵、運搬係が転がるように飛び降りた。だが、その直後にもう一度大きな爆発が起こり、機体は砕け散り、積み込んだトランクもバラバラになった。
「ううっ」
作戦は失敗した。けが人こそ出なかったが、運搬係はこの事故以来、逃げたのか連れ去られたのか行方不明になる。のちにこの2人が近くの村から雇われたマリアンヌの父と姉であることが判明する。とんでもない事故だった。軍事アドバイザーのプライドも粉々に砕け散った。
そしてその日の昼下がりだった。たくさんの人々が陽気にお祭り騒ぎをし、サンバ隊が大通りを練り歩く中、爆弾を積んだ乗用車がお祭りの人込みを蹴散らして暴走を始めたのだった。中を確認しても運転手は見えない。自動運転による完全な爆弾車だった。そして暴走の挙句、その車は研究所の道路側の壁に激突した。
ドドーン!
今度の爆発は一番大きかった。お祭りを見に来ていたたくさんの人が爆発に巻き込まれた。なぜ奴らは何度となくこんな惨劇を繰り返すのか。祭りで集まった人々が逃げ回り、一時あたりは騒然となった。
事件直後、サミュエルゴードンは警備兵たちに研究員の避難と祭に集まった人々の安全確保を任すと、1人研究所に飛び込んだ。
思った通りだった、中ではもうすでにひと騒ぎあったらしく、警備兵が1人床に転がっていた。
「…おい、どうした、何があったんだ?」
「ううう、爆発と同時に2組の侵入者が飛び込んできて、先に入った方の侵入者はマキシマ博士とジェラルド博士を拘束し、裏口から出ていきました、そしてもう1組は…」
怪しい男が2人で外階段を使って、地下の実験室に走っていったという。ゴードンはすぐに裏口に近づき、ドアの隙間から地下室に通じる階段を覗き見た。
1人の男が地下の入り口で見張りをしていた。
「逃すか?!」
サミュエルゴードンはすぐに見張りの男の肩を消音銃で撃ち抜き、さっと駆け付け縛り上げると裏庭に転がした。少しすると、もう1人の黒いコートの男が地下室から小さい方のトランクを持って外階段を上がって来た。
「動くな!」
ゴードンは拳銃で相手を威嚇しながら後ろに回り、男の背中に拳銃を突き付けながら階段を登らせた。裏庭で男の身体検査をし、持っていた拳銃を取り上げ、小型のトランクを奪い返した。そしてやってきた警察官に男を渡し、小さなトランクを持って歩きだした。その時だった。警官が手錠をはめようとしたとき何かが起きた?!
「なんだ、これは」
「はは、俺の右手は義手なのさ、超合金のね」
なんと男の右手が手首から外れ、その断面から黒い銃口がのぞいたのだ。
ズガガガガガガガガ!
マシンガンは、警察官を吹っ飛ばし、続けてトランクを持って歩き出したサミュエルゴードンの背中を狙った。
ズガガガガガガーン
「グオオオ」
ゴードンはその場に倒れ、トランクは地面に叩きつけられて蓋が壊れ、中の緑色細胞を入れていたガラス容器が1つこぼれ落ち、割れてしまった。義手の男は慌てて駆け付けた。
「1つ割れたが他の細胞は平気そうだ。とりあえず持っていこう」
男はトランクの蓋をしめ、再び歩き出そうとした。
「悪かったな」
そう言って男が横を通り過ぎようとしたとき、ゴードンはまるで何もなかったように動き出し、男の脚をひっかけて倒した。
「…全身に弾丸が命中したはずなのに…なぜだ…」
こいつ、不死身か?
「悪かったな、どうも俺は普通に死ねない体らしい」
「今銃声が」
銃声を聞いて、残りの警察官が集まって来た。ゴードンは警察官に男たちを引き渡すと、トランクを取り戻した。しかし、博士たちはすでにさらわれ、大勢の人が爆発に巻き込まれて大けがを負った。その時、割れたガラスの容器から、黒いミミズのようなものがはい出してきた。その容器にはシンバワームと書かれた小さなシールが貼ってあった。
ゴードンの話が一区切りついたころ、誰かがガタガタ音を立てながら部屋に入って来た。
「おう、みんなここにいたか」
そう、そいつはあのマイペースのジャックラーテルだった。
「ジャガーワームはどうしたかって聞かないのかい?」
すると人のいいアレックスがちゃんと聞いた。
「ジャガーワームはどうしたんだい?」
「発見した。そして1人で仕留めた」
本当に一人だけで仕留めたのか?まだ時間だってそんなにたってはいない。皆が驚いていると、ジャックはモニターテレビがないかアレックスに聞き、会議室の大画面テレビを見つけるとそこに写真を写しだした。
「おおっ!」
それはドローンを使って上空から撮った大迫力の写真だった。斜面の岩場に全長5mほどもある中型のジャガーワームが息絶えて横たわり、そこにライフル銃をかついでジャックがポーズをとっていた。まさしくサファリで獲物を仕留めた写真だ。人間のようながっしりした歯が並び、短い脚が6本ついている。ジャガーワームに間違いない。前の映像では、ジムが銃を放ってもほとんど致命的な傷は与えることができなかったが、ジャックはどうやって仕留めたんだろう。
「へへ、どうだい、1人でもジャガーワームを仕留められたぜ」
ジャックはわざとサミュエルゴードンに聞こえるように大きな声で言った。不死身の男ゴードンはしかし、無視する様に無反応だった。アガサモンデール博士が言った。
「夕方もう一度打ちあわせをして、明日はいよいよデノス島で怪獣ハンティングを実行します。みなさんよろしく」
チームに緊張が走った。本番はいよいよ明日だった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます