3 謎の怪物
朝もいい匂いに誘われて焚火まで行くと、特製シチューと焼きたてのパンケーキがふるまわれる。その日、昼前にはメカニックのバーグマンが、思ったより早く村に到着した。乗ってきた車はモビルファクトリーと呼ばれる、動くアンドロイド修理工場だ。マイクロバスほどの大きさがあり、半分は精密機器で埋まっている。もう半分は広いリビングルームで、ここで食事や昼寝もできる。早速ジムたちの精密検査が行われる。
豚ロボットのピグは特に異常はなかったが…。
「こりゃ、アンドロイドのジムは、何かにものすごい力で首を噛まれるか何かしたな。首の部品が折れて、中のケーブルが断線している。通常ではありえない」
だが、幸い電子頭脳部分には損傷はないようだ。バーグマンによって、大幅に体のあちこちの部品が交換され、半日がかりで修理が終わると、さらにマグナスの手でAIが動き出す。ジグとピグが元通りに動き出すと、村人たちの喜びようはすごい。
「さて、それではジムのメモリーをモニターに出力だ。一体何が起きたのか、これで事件の真相がわかるぞ」
村の広場に設置された大型のスクリーンの前に、たくさんの村人が集まってくる。ジグの映像記録は高精度暗号記憶と呼ばれ、パスワードがないと編集すらできないし、無理やり編集やデジタル合成などをしても、編集画面と言うマークが自動的に出てしまい、その映像が真実なのか、作られた映像なのかがすぐわかるのだ。
そしてついに、事故が起きたときの暗号録画が、村の広場とゴールドマン知事の部屋と、本部のモニターへと送られる。
「な、なんだこれは?!」
「…まさか本当に怪物がいるなんて?」
そこに映っていたのは6m以上もあるとんでもない怪物だった。
不釣り合いに大きな頭はジャガー、歯はビーバーのように表面が鉄分に覆われていて、鮮やかな黄色で、金歯のように見える。とても頑丈、全体として、日本の狛犬そっくりで、大きな葉がずらりと並んでいた。丸い目とピンと立った耳、だが芋虫のような体は短く、地を這うような短い獣の足が6本もあった。その怪物の姿を見たとたん、マグナスは依然見たような不思議な気分に襲われる。
「おかしい、確かあれは…?」
その怪物が急斜面の藪の中から突然何頭も現れ、崖を崩しながら人々を襲い、その大きな口で人間をパクパクと食べまくっていた。ここには大小5頭ほどの怪物がいるようであった。
逃げ回る村人たち、だがただ1人立ち向かったものがいた。アンドロイドのジグである。ジグは、最初は護身用のライフルを操作し、怪物を撃った。少しひるむが全く致命傷は与えられない。だが、運搬車に積まれていた鶏の隣の荷物を噛みつくと、怪物は悲鳴をあげて逃げていった。
「あの荷物は、この村で収穫したおばあちゃんのトウガラシだな」
怪物もトウガラシには弱かったようだ。ジグも頭ごと首を噛みつかれたが、吐き出され、土砂に埋まって行き、映像が切れた。
「これは編集や加工ができない暗号録画だ。怪物がいるのは本当だ。間違いない」
まさかの怪物の出現にみんなは驚いた。ゴールドマン知事が軍の出動を要請する大騒ぎとなった。とりあえず怪物にはトウガラシが効きそうだということになり、バーグマンが、村を守るためのトウガラシガンを2丁作ってくれた。これを怪物の口に向けて撃てば、着弾点で爆発してトウガラシが口中に広がるのだという。目や鼻のそばに打ち込んでもかなり効果があると考えられる。
だが、その時、突然、拳銃の音が何発も聞こえてきた。3台の車が大きなエンジン音とともに、村の広場に突っ込んできた。
「昨日はバカ機械人形に不覚をとった。だが今日はそうはいかないぜ。手下どもに大口径のショットガンを用意させたからな。これであの機械人形もお陀仏だぜ!」
先頭の車からはローガンが、後ろの2台からは武装した手下たちが下りてきた。アヤコは治ったばかりのジムに何か通信を送ると、ジムは豚ロボットのピグとともに動き出す。
「おい、バーグマン、ショットガンだってさ、アヤコも危ないんじゃないか?」
マグナスはすぐに警察に出動を依頼すると、バーグマンに確かめた。だがバーグマンの反応は意外だった。
「アヤコ、危ないって?どうかね、試してみればいいさ」
「え、どういうことなんだ」
しかも大口径のショットガンを前に、アヤコは何でもないようにローガンたちの前に進んでいく。緊張が走る。
「ははは、この機械人形は本当にバカみたいだぜ。ショットガンの前にのこのこ出てきやがった」
「私はアンドロイドです、銃で撃たれても痛くもかゆくもありません。早くあきらめて帰りなさい」
「へへ、このショットガンは港で工事していた土木工事用のアンドロイドに使ったことがある。1体は胸に大穴が開いて、もう1体は頭がぶっとんで砕け散ったぜ。へへへ、威力はもう確認済みだ」
しかしアヤコは、まったくひるまず進んでいく。
「く、このばか人形、聞こえないのか、本当に撃つぞ」
それどころか、アヤコは先頭の車に近づくと、車体をひょいと持ち上げ、投げ飛ばし、完全に裏返しにしてしまった。怪力だとは思っていたが、ここまでとは?
「何をしやがるこのバカ機械人形、もういい、撃て!ぶっ放せ!」
流石のマグナスが息が止まるかと思った。
ズガーン!!
確かに胸と頭に、狙った弾丸が当たった。だが、穴も開かなければ、砕け散ることもなかった。
「なぜだ、なんで平気なんだ!」
あとでバーグマンが言っていた。
「1年ちょっと前に生前のアヤコがやってきて、どんな時でもマグナスが守れるような頑丈なアンドロイドにしてくれと、俺に頼み込んだんだよ。だから俺は、軍事用に開発された超合金プレートや超合金ヘルメットを使い耐久力を上げ、さらに新開発のパワーモーターを使って怪力アンドロイドにバージョンアップしたんだ。でもそれもアヤコがお前に寄せる愛情だと思ったから、黙って言うとおりにしたのさ…」
「なにがショットガンよ、大したことないわね。それよりあんたたち、もう帰れなくなるわよ、ちょっと慌てたほうがいいんじゃない?」
「えっ!な、なにい?!」
悪党どもはジムの早業に驚いた。ひっくり返ったローガンの後ろの2台の車は、いつの間にか、ジムの腕の工具によって、タイヤやドアがはずされ、バラバラになろうとしていた。
「ひぇー、これじゃ、もう、車に乗れない。ボス、ボスどうしましょう」
「バ、バカ、手を貸せ、急いで手を貸せ」
悪党どもは、3人で力をあわせてひっくり返った先頭の車を元に戻すと、そこに乗り込んでエンジンをかけた。だが車が走り出す前に、ローガンが窓を開けて何か怒鳴った。だが村人の1人が、そこですかさず、トウガラシ弾を1発お見舞いしたのだ。トウガラシ弾は窓から中に入り爆発、赤いガスのようなもので車の中がいっぱいになった。
「ぐええ、なんだトウガラシか、俺は辛いのが苦手なんだ。うう、信じられない辛さだ!」。
ローガンが悲鳴をあげる。村人は歓声を上げる。やがて遠くから警察車両のサイレンが聞こえてきた。
マグナスはアヤコに確認した。
「おい、アヤコ、今のローガンとのやり取りもきちんと映像記録できてるかい?」
「はい、もちろんです、社長」
そう、ジグと同じでアヤコも映像記録能力があるのだ。マグナスは遅れてやってきた警察にこの映像を渡し、ローガンの仲買人許可証を取り消してもらうように頼んだ。
そのころ知事室で、怪獣の映像を見たゴールドマン知事は、早速軍に怪物退治の命令を出した。軍はその日のうちに作戦にかかり、怪物の住処を突き止め、5頭いた怪物のうち3頭をマシンガンやバズーカ砲で仕留めたのだった。だが2頭はまんまと攻撃をかいくぐって逃げ出し、ジャングルの奥に消えたのだという。一体あの奇妙で恐ろしい人を食う怪物はどこで生まれて、どうやってやって来たのか、謎は深まるばかりだった。
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