第8話
取り敢えずの目標ができた。
ヨースケさんとのコラボによって、俺のダンジョン配信用のチャンネル登録者数は数日で5000から一気に20000近くまで増えていた。半分くらいがヨースケさんとのコラボから来た人で、もう半分ぐらいがSランクの配信者ということでやってきた人たちらしい。最初にやった配信のアーカイブはかなりの視聴回数になっていたし、コメント欄にも沢山のコメントが届いていた。
そんな俺にとって得ばかりだったヨースケさんとのコラボだが、最後にヨースケさんから人気になる為の速い方法を教えて貰った。それが、渋谷の底なしダンジョンの深くに出現すると言われるドラゴンを倒すこと。
「ドラゴンは希少種で、底なしダンジョンで直近で出現したのは……半年前」
ネットの記事を色々と漁ってみたら、半年前にドラゴンが底なしダンジョンのかなり奥で発見されたというニュース記事を発見した。だが、発見されたドラゴンはどうやら亜竜という通常のドラゴンよりも弱い感じの奴だったらしい。そんな亜竜でも半年に一体見つかればいい方らしい。
まぁ……色々と調べた結果、そりゃあ配信で映して討伐すれば一気に有名になれるだろうなってのが感想だ。当然、簡単に出会えるとは全く思わないが。とは言え、俺のチャンネルの人気はデーモンを倒したことによるインパクトと、ヨースケさんとコラボしたことによる少しの知名度だけ。今からゆっくりと将来を考えていくのならば、今のペースでも問題ないのだろうが……俺は今すぐに有名になりたいのだ。率直に言って、金が欲しい。
有名な配信者にもなると、投げ銭機能だけで億単位の金が稼げるらしい。それだけの金があったら……俺も奨学金を一気に返済できるし、育ての祖父母に還元してやることもできる。それで余った金を使って、俺は自分を磨いて女にモテる術を手に入れるのだ。金で手に入らないものはあるかもしれないが、大抵のことは金でなんとかなるのだ。
「と言う訳で、ドラゴンについて聞きに来たんです」
「……八重樫さん、思ったより馬鹿ですよね」
「はい」
自覚はある。俺は決して頭が良い方じゃないし、それが原因でモテていないのかもしれないと思いながらも、その為に勉強しようとは思わないぐらいには勉学が嫌いだ。
「ちなみに、多分貴方が思い浮かべている馬鹿とはまた別方向の馬鹿ですよ? まぁ、どちらにしろ馬鹿なんですけど」
「……綺麗な女性にそうやって罵倒されると、心が痛みます」
「うん、馬鹿ですね」
なんて辛辣な……ダンジョン関係で俺が頼れる人は、知り合ったばかりのヨースケさんか木崎さんしかいないというのに。
「まぁいいですけど……それで、ドラゴンでしたっけ?」
「そうです。ドラゴンを討伐する配信をすれば、それだけ一気に有名人になれると聞きました」
「うん、そうだろうね……ドラゴンは存在を確認しただけで大騒ぎになるほどの希少種ですから。私も一回も見たことないですよ」
やはりかなりの強敵のようだ。木崎さんのような元実力派の探索者でも見たことが無い相手となると、むやみやたらに底なしダンジョンに潜っても見つかるものではないかもしれない。まぁ、だからこそ木崎さんに意見を貰いに来ているんだけども。
「闇雲に探しても見つからないでしょうけど……一つだけ言えることは、浅い階層には絶対に存在しないことです。底なしダンジョンの深い階層……しかも半端じゃないぐらいの深い場所にしか出現しないかと」
「それぐらい、強いんですね?」
「そうなんです。計測を始めた過去70年間に、亜竜ではないドラゴンが底なしダンジョンで観測された回数は10回もなくて、その全てが80階層を超えた先でしか発見されていません」
80階層って……そもそも渋谷の底なしダンジョンは、人間の出入りが激しいこともあって60階層ぐらいまでは魔力で動くエレベーターが存在しているけど、それでも80階層はかなりの深さじゃないか?
基本的にダンジョンは深く潜れば潜るほどにモンスターが強くなるし、環境も厳しくなっていくと言われている。人類が最も深くまで到達したダンジョンが、100ぐらいだって言うから……ドラゴンはそのレベルじゃないと出てこない訳だ。
「一応、貴方と同じ様に延々とドラゴンを追い求めている探索者っていうのは一定数存在して、一番有名なのはダンジョン配信者もやっているドラゴンスレイヤーさんじゃないですか?」
「え、でもその人はドラゴンを一回も倒してないとか」
「亜竜にすら出会えないほど不運な人なんだそうです」
か、かわいそうがすぎるだろ……どれぐらいの期間を頑張って配信者やっているかしらないけど、ドラゴンスレイヤーを名乗りながら一度もドラゴンを倒せないなんて、あまりにもかわいそうすぎる。
「こんな感じですか? こう言っては何ですけど……ダンジョン庁もできて20年ぐらいの新しい省庁ですから、あんまり古い記録とかは残ってないんですよ」
「そ、そうなんですか」
「……八重樫さんは探索者になってまだ半年程度なんですから、もっとダンジョンに関する常識とかを学んだ方がいいですよ。実際にダンジョン攻略で役に立つ情報とかも色々ありますから」
「そ、それはなんとなく……わかってます」
木崎さんの視線がヨースケさんにへし折られたなまくらの刀に向けられている。これだって俺がダンジョン用の武器を作っている鍛冶師のことを殆ど知らなかったから、誰がどう見ても量産型の支給品である刀を使っていた訳だ。俺に最も足りないものは、1にモテ力で2に金、そして3に情報だ。
モテ力はどうしようもないので、探索者で金を稼ぎながら情報を集めて武器を作成してもらったり、ゆくゆくははドラゴンを討伐して一気に有名人になったりする。よし……今後の活動方針決定。
「色々とありがとうございます。これからは頑張って金を稼ぎながらドラゴンの情報を集めていきたいと思います」
「…………武器を、新調するのが最初だと思いますよ?」
「でも「剣」は持ってるので」
「それは魔力の塊ですからね? 過信しないでくださいよ?」
大丈夫ですよ……いざとなったら手刀でも戦えることは既に色々とダンジョン内で試してますから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます