第6話

「それにしても強いですね! 魔力を固めて射出するとは……新しい発想ですが、真似できなさそうで残念です」

「え、そうなんですか?」

「はい! 魔力を固めることはできますが、私の筋肉を貫く程の硬度になると無理ですね!」


:はえー

:魔力を固めるのは誰でもできるな

:確かに俺にもできる

:そもそも小学生が手遊びでできるレベルでしょ

:それが戦闘に使えるのがすごいってことね


 そうなんだろうか。

 俺は昔から魔力を好きな形に変形させるのが大好きで、刀であったり銃であったり、果ては小型の飛行機にして飛ばしたりして遊んでいたが……中々そうはならないらしい。まぁ、俺は魔力を練り上げるのが大の苦手なので、その反動なのかもしれないけど。


「ただの疑問なんですけど……何故あんななまくらを使っていたんですか? もっとちゃんとした刀を使っていれば、貴方はもっと速く私を倒せたはずですが?」

「いやぁ……実は半年前に探索者の資格を取ったばかりなので、よくわからないんですよね」

「半年!? 半年でSランクになったんですか!?」


:は?

:普通に化け物じゃん

:最速じゃない?

:最速だぞ

:頭イカレてるよ

:Sでもイカレてる側のSだったか強い訳だな


「え、イカレてる側のSってなんですか?」

「Sランクはあくまで上限値であって、それ以上のランクは存在しませんが、それ以上のランクが存在していたら確実にそこに名を連ねる方たちのことを、視聴者はイカレてる側のSと呼称しているんです。有名な方だと、ブシドーさんとかですね」


:ブシドーはイカレてる

:確かにあれはイカレてる側のSだと思う

:ヨースケも半分イカレてる側だと思うの

:でもちょっと足りないかな?

:もう一押し?


「この通り、私はイカレていない側のSな訳です」

「嘘でしょ」


 あれでイカレてない側のSなの?

 絶対に嘘だわ……これ、視聴者がこの人の凄さが良く解ってないだけでは? 普通は魔力で身体を硬化したぐらいじゃ金属音なんて出ないんですよ?


:嘘でしょwww

:即否定されてんの草

:まぁ、俺はヨースケだって充分イカレてると思ってるよ

:知ってた

:だよな


 ほら。


「まぁ、私の筋肉のことは置いておいて……これからしっかりとコラボらしいことをしましょう! アイスブレイクで仲も深められたことですし!」

「肉体言語をアイスブレイクって言わないでください。川岸で殴り合って友情じゃないんですから」


:草

:オーク君はヨースケとコンビなのかな?

:いい奴だなオーク君

:オーク君って言うとなんか……豚のモンスターみたいな

:オーク君それなりにイケメンなのに可愛そうな名前つけてる

:オーク君で草

:やめてやれwww


「俺、イケメンって本当ですか!?」


:うわ

:食いついてきたぞ

:こいつ、さては面白い男だな?


「では、私からの質疑応答タイムです!」

「は、はい」


 質問するのは視聴者じゃなくてヨースケさん本人なのね。まぁ、コラボだからそっちの方がいいのか……視聴者に任せるとくだらない質問とか来そうだしな。


「まず、年齢はお幾つですか?」

「えーっと……今年で21、ですね」


:わっか

:若くない?

:大学生か

:ワイと同い年で震えてる

:大学はどうした?

:サボりか?


「大学生ぐらいの年齢ですね。大学に通っているんですか?」

「いや、今年の春に自主退学しました」

「自主退学ですか……何故?」

「専業のダンジョン配信者になろうと思って……学生をやりながら探索者をやるのはキツイと友人に言われたので」

「まぁ、確かにキツイですね」


 あ、ヨースケさんでもそう思うぐらいにはキツイのか。ならさっさと大学をやめる判断をして正解だったのかもしれないな。そもそも留年しそうだったとか、やりたいことなんてないのに通ってたとか色々とあったけども。


:ワイも大学辞めたい

:半年でSランクになれる力があるなら大学中退は正解やろな

:わかる

:結果的にはよかったな

:普通の奴は素直に通ってた方がいいと思うで


「では、大学を辞めてまで探索者に成りたかった理由は?」

「モテるって聞いたからですっ!」


:あ

:あ

:はい

:こういう奴ね

:うん

:理解した

:誰だよこいつのこと常識人のツッコミ役って言った奴


「俺は中学生になった時から彼女が欲しいと叫び続けて来たのに、何故か女友達はできても彼女は一切できず! いざこっちから距離を詰めて告白してもいい人止まり、そういう対象には見れないの連発! 高校生になってからこれでは駄目だと自分磨きをしようと努力した結果、できたのは俺よりモテる男の友達だけ! 魔法は使えず、女にもモテず、金もない中で俺に舞い降りてきた天啓こそが、有名ダンジョン配信者になれば女にモテるよという友人の言葉だったのです!」


:長い長い

:怖いよ

:女が生み出した怪物

:いい人は恋愛対象外だから

:好きなタイプは優しい人を本音だと思った被害者

:女さんなんとかしてやれよ

:こんな微イケメンでも俺らと同じ被害者なんだなって

:クズの方がモテるぞ

:配信者がモテるって言うか、金を持ってる奴がモテるというか


 はぁ……一気に理由が溢れだしてしまった。思えば俺の今までの人生は……女子にモテたいと言う一心だった。幼稚園児だった時が俺の最後のモテ期であり、それを最後に俺が女にモテることはなくなった。最早俺の中には「諦めろ」という言葉が聞こえてくるが……それでも甘酸っぱい恋を諦められない思いがあるのだ。


「ヨースケさんは──」

「既婚者ですね」

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」


 こんな筋肉も既婚者なのに、俺はなんでモテないんだぁ!?


:あーあ

:壊れちゃった

:ヨースケ責任取れ

:草

:俺も泣けてきた

:俺もモテてぇなぁ

:街コンとか行けば? Sランクの探索者なら大量に女が釣れると思うぞ

:まぁ、Sランクとかありえんぐらい稼げるしな

:それで釣れるのは金が好きな女だけだぞ


「うぅ……恋愛結婚がしたいんです……金で釣られるような女なんて…………そもそも金で釣られるような女を求めてないなら、なんで探索者になったんだろう」

「正論ですね。多分、有名配信者になって釣れる女性は、金か有名人と付き合っているというステータスが欲しいだけの女性だと思いますよ」

「うわぁぁぁぁぁ!?」


:草

:正論筋肉やめろ

:正論筋肉ってなんだよ

:笑った

:美人局には気を付けろよ

:誰かこの可哀そうな男を救ってやれよ

:モテたい執念だけでSランクになったのはある意味伝説だろ

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