第4話
「……」
「おはようございます!」
現実的に考えて、チャンネル登録者が50万を超えているような相手に対して、たかが登録者数が5000を超えたぐらいの弱小配信者がコラボしてもいいのだろうか。いや、向こうから誘ってくれた訳だから絶対にやっちゃいけない訳ではないと思うけど……なんだろう。
「自己紹介からですね! 私は
「は、はい……八重樫颯太です。名前の樫から持って来てOak Treeと名乗ってます……あの、本当に俺みたいな弱小配信者でよかったんですか?」
「弱小!? とんでもないですよ! 貴方は立派な筋肉を持っています!」
やっぱりこいつ、頭の中まで全部筋肉が詰まってるわ。
ものすごいガチムチの筋肉マンで、男としては結構憧れるけど……その前にそもそも身長が高いな。俺だって175はあるから、平均ちょっと上ぐらいだと思うけど……見たところ190近くあるし、大胸筋もすごいし肩幅も凄いな。
「同じSランクの探索者でもありますから、そこまで緊張しないで大丈夫ですよ!」
「は、はぁ……?」
「私としても、久しぶりにSランクの同業者とコラボできて楽しみなんですよ!」
あぁ……筋肉至上主義っぽいこの男……やっぱり何も考えてないな。けど、登録者数が50万人いる本物の有名人だ。今はとにかく自分の登録者を増やすことだけを考えて行こう。
「はい、皆さんこんにちはっ!」
:うっさ
:い つ も の
:おはよう
:今日も筋肉だな
:筋肉(挨拶)
すごいな……凄まじい速度でコメントが流れてく。これが有名配信者の配信か……俺もいつかはこうやってコメントが流れるようになっていき、最終的には色んな女性に……モテるか、これ?
「今日は事前告知通り、最近SNS上で話題になっていたOak Tree君とのコラボになります!」
:早いな
:行動が早すぎるぞ
:頭が筋肉の癖に行動が早すぎる
:頭が筋肉だからでは?
:猪突猛進だな
:オークツリーってあの悪魔の巣窟で変態みたいな動きしてたやつね
「ど、どうも……Oak Tree、です」
「緊張しているね! でも大丈夫だよ、君の筋肉があれば!」
:はい筋肉
:筋肉筋肉
:筋力を信じろ
:登録者5000人が50万人の配信に出れば緊張もするだろ
:当たり前で笑う
:結構イケメンじゃん
い、イケメンとか初めて言われた気がする。取り敢えずヨースケさんのチャンネル視聴者には俺の存在自体が受け入れられているみたいでよかった……もしかしたら、反応からしてこういう風なコラボを多く行っているのかもしれない。
それにしても、突発的に決まったコラボだけど、内容は全く知らされていないんだけども……なにをするんだろうか。
「と言うことで、今日はゲストを交えながらいつも通りに渋谷に潜りましょう!」
「『底なしダンジョン』ですか」
:いつものね
:オーク君……死なないでね
:明日は筋肉痛かな?
:誰もが経験する道さ
:誰もは経験しない定期
:草
「私のチャンネルでは、普段から他の配信者さんたちとのコラボを積極的に行っているんですよ。その内容が……渋谷の【練習用ダンジョン】でひたすらに筋トレと戦闘、そして組手を行うというものです!」
「……え?」
:またなにも知らされていない犠牲者が……
:南無三
:こちらが今回の新しい犠牲者の姿です
:ダンジョンで筋トレって何回聞いても意味不明じゃないか?
:仕方ない
:そんなこと言ったら最早ヨースケの存在が意味不明なのでセーフ
:なにもセーフじゃない件については?
:知らぬ(筋肉)
いやいや……ちょっと待ってくれ。
俺は普段から新宿にある『悪魔の巣窟』と言われるダンジョンに潜っているが、ヨースケさんが言っているのは今目の前にある『底なしダンジョン』のことだろう。ちなみに『底なしダンジョン』という名前はついているが、実は浅い場所は全然脅威がないことから初心者用として使われていることから『練習用ダンジョン』とも言われている。俺はそもそも練習用として使ったことが無いので知らないけど。
ヨースケさんに連れられて行くまま、渋谷のダンジョンに入っていくと……いつもの場所と言わんばかりにヨースケさんは迷いなく大広間へと移動した。
「さぁ、まずは組手から行きましょうか!」
「……わ、わかりました」
組手……つまり、今からヨースケさんと戦う訳だ。別に嫌な訳ではないし、同じSランクのヨースケさんがどれぐらいの強さなのか知りたいので、こちらとしても願ってもないことなんだけども……本気でやるのだろうか。
「Oak Tree君は刀を使用するんでしたね。ですが、怪我を即座に治すためのポーションは用意してあるので遠慮なく向かって来てください! 後輩の実力を把握するためにも、です!」
「じゃあ、本気で行かせてもらいます」
:どれくらい持つかな
:期待
:でもSランクなんだよな?
:知らん
:5000人の中小の配信者だしな
:刀いいな……かっこいい
:でも刀って慣れないと取り回しが大変だぞ
なんとなく視界の端で流れるコメント欄が気になるので、腕に着けている端末を操作して画面を消す。
少し離れた場所で拳を構えるヨースケさんは、笑顔のままこちらをずっと観察している。一見すると笑いながら拳を構えているだけに見えるが、俺が悪魔の巣窟で戦っていたアークデーモンなんて比べものにならないぐらいに、強そうだ……肌を刺すような鋭い魔力が全身から放たれている。確かに、これなら本気でやらないと駄目そうだ。
「行きます」
「こぉいっ!」
戦いは初手が大事……先手必勝という奴だ。
いつも通り魔力を全身に流して踏み込む。周囲の景色が灰色になるような感覚と共に、景色が少しずつ伸びていき……自分が加速していく。ヨースケさんと俺の間にあった距離は目測で20メートル程度……詰めるのに1秒もいらない。
「うっ!?」
眼前まで近寄って振るった刀は、咄嗟に防御の姿勢を見せたヨースケさんの腕に当たって、金属にぶつけたような甲高い音と共に火花を散らした。
おいおい……魔力で身体を硬化しているんだろうけど、刀をぶつけて金属音と共に火花が飛び散るってどういうことだよ、まるで意味が分からん。
「……殆ど見えませんでしたよ。凄い筋肉ですね!」
「いや、筋肉じゃないんですけど」
:え
:つっよ
:ヨースケのチャンネルに出てきた中で一番強いのでは?
:見えないんだが?
:音が後から聞こえて来て笑えないぞ
:ヨースケも相変わらず意味わからなくて草
:どっちも怪物クラスじゃないか
:期待の新人来たな
「さぁ、どんどん来てください! 次はもっと対応しますよ!」
「……決めるなら短期決戦か」
本当にこのまま続けていると、こちらの速度に対応してきそうだ。ならそれより速く、こちらが手数と攻撃力で押し切るしかない。
ちょっと楽しくなってきた。
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