第3話

「えぇ……」


 寝て起きたら自分のチャンネル登録者数が4から5,000に増えていた。なにが起きているのか一切理解できる気がしないんだけど、俺はどうしたらいいんだろうか。確かに俺が配信している時は殆どコメントもなかったはずなんだけど……最後の方にちょろっとコメントが来てたのは見えてたけど、まさか本当にSNSに切り抜きを上げたのだろうか。

 上げたところで特に何もないと思ったんだけど……もしかして俺がダンジョンに関して殆ど知らないだけで、Sランクの探索者って貴重だったりするのかな。最速でSになったのは本当だけど、配信者にもSランクは何人かいるって木崎さんから聞いたから、普通だと思ってた。それに、上限のランクなんだからそれなりにいるものだと。


「……ん?」


 携帯にメッセージが届いてる。俺の携帯にメッセージを送ってくる人なんて、祖父母か大学の友達ぐらいだろう。とは言え、大学の友達なんてみんなそろそろ就職活動が忙しい時期だと思うけど……いや、でも祖父母はマメにメッセージ送ってくる性格じゃないしな。


【おっす】

【これお前だろ】

【http://────────】

【普通に凄いことしてんなお前】

【探索者になってまだ半年だろ?】


 メッセージの流れが相変わらず速い奴だな。こっちはそんなに言うほど携帯の文字打ちが速くないこと知ってる癖に連続で送ってきやがって。


【本当にSNSに切り抜きあげられてると思わなかった】

【なんかたまたまいた視聴者が上げてくれたみたい】


【みたいで済ませるなw】

【悪魔の巣窟に出てくるアークデーモンなんてかなり危険なモンスター、よく瞬殺できるな】

【大学辞めてどうなるかと思ったけど、探索者として成功できそうで安心したわ】


【ありがとな】


 心配してくれてたのか……普通に連絡なんて取りあわなくなると思ってたけど、普通にいい奴だった。いや、男友達なんてのはそんなもんか。

 それにしても、やけにダンジョンについて詳しいな。俺なんて「悪魔の巣窟」なんて名前は知ってたけど、あの黄土色の悪魔がアークデーモンなんて言われてもわからんかったぞ。帰って調べたらBランクの敵らしくて驚いたからな。

 そうだ。ダンジョン配信とかに詳しいなら、これから俺が売れる方法を考えてもらうとかありかもしれない。


【どうすれば俺はもっと有名になれると思う?】


【知らん】

【あんなの基本的には運だろ】


 くそ……普通に正論吐きやがって。お前だって俺と同じ様に留年しそうだった癖に、なんでちょっと痛い正論吐いて来るんだよ。


【有名人とコラボするとかいいんじゃない?】

【リスクもあるけどやっぱり人目につくにはそれがいいんじゃね?】


【リスクってなに】


【そりゃあ有名人とコラボしただけでお前が変わる訳じゃないんだから】

【話題を全部そのコラボ先に持ってかれたら同じだろ】


 確かに。

 そっか……普通に有名人とコラボするだけじゃ視聴者は簡単に増えてくれないと……金よりもモテることが第一な俺にとってはなによりも大事なことだな。


【参考にさせてもらうわ】


【頑張れ】

【普通に応援してるわ】


 純粋な応援されると嬉しいな……よし、頑張って有名になって女の子にモテてウハウハだ!




 なんて思っている時期が、俺にもありました。

 SNSで俺の配信が切り抜かれて話題になってから数日が過ぎたけど、チャンネル登録者数は増えても視聴者はほとんど増えないのが現実でした。いや、配信中に茶々入れてくれる人はいるから、配信しててすごい楽しくはなったんだけど……やはり俺には配信者としての知名度も、ダンジョン探索者としての知識も足りなさすぎる。いや、探索者になってから半年だから仕方ないのかもしれないけど。


「やはり……有名人に頭下げてコラボしてもらうしか……方法はない!」


 自分だけの力で有名になるのは難しいということがわかった。この調子でいけば、数年後には俺も有名配信者になれているかもしれないが……それでは遅いのだ!


「……よし、コラボしてくださいってメッセージを──」


 唐突に、俺の携帯からピコンというSNSにメッセージが届いた音がした。すぐに携帯を手に取って画面を見ると……そこには見覚えのない人からのメッセージ。


【私とコラボしませんか?】


【します!】


 はっ!? 反射的にコラボをオッケーしてしまった!?

 だが待って欲しい。メッセージの一人称は「私」であり、控えめにコラボしませんかとだけ送られてきたメッセージの内容の無さ……間違いなく、相手は俺に気がある女性配信者だ。

 名探偵並みの推理を元にメッセージを送ってきたアカウントをタップすると、そこに映っていたのは……汗が反射して輝くような引き締まった筋肉。明らかに使うためではなく、魅せるために鍛え上げられた素晴らしい肉体美……間違いない、男だ。


「どうしてだよっ!」


 なんで真っ先にコラボ依頼が来るのが男なんだよっ!

 いや待て……落ち着くんだ八重樫颯太。もしかしたら相手は複数人でのチャンネル運営で、その中にいる女性の一人が俺にメッセージを送ってきただけかもしれない。そうだとしたら俺は答えない訳には……訳、には……ガチムチ男じゃねぇか!

 なんだよ【ヨースケの筋肉】ってチャンネル名まで筋肉かよ!


「……ん?」


 いや、待てよ……ヨースケの筋肉ってめっちゃ聞いたことがあるような気がするぞ。どこで聞いたんだったっけか……なんか、ダンジョン庁のトレーニング施設で聞いたような。


「わからん。取り敢えずこいつのチャンネルの動画見よう」


 チャンネルを運営してるならそこから正体がわかるかもしれないからな。もしかしたら男の筋肉は男避けで、実は中身が女……見苦しいからやめておこう。


『今日は上半身を中心にした筋トレを紹介していきますよ。これで君も、マッスルです』

「……いや、こいつSランク探索者じゃないか? なんかダンジョン庁のトレーニング施設に頻繁に現れるとか木崎さんから聞いたぞ」


 ガチの筋肉探索者じゃないか。いや、だけどチャンネル登録者数は普通に50万を超えているのを見ると……手段は選んでいられない!


【コラボ受けさせてください!】


【もちろんです】

【私も貴方が初配信で見せた筋肉に興味が湧いたので連絡させていただいたんですから!】


 あ、こいつさては頭まで筋肉でできてるな?

 やっぱり駄目かもしれん。

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