第3話

 人の未来を見るときは、絶対に終わりがある。

 それは、相手との相性がいいと長く鮮明に観ることができるし、逆に悪いと3秒ぐらいの粗い映像見ることになる。

 昔、俺はとある人の未来を自分の意志で見たことがあった。

 それは、自分の中でただその人のことが気になったからだ。

 その人は病弱で医者からは、いつその生命が消えてもおかしくないと言われていた。その時の俺はそんなわけがないと、医者の言葉を信じなかった。

 そんな言葉より、自分のこの力を使って見たほうがいいと。

 正直、このときにはもう力が嫌いだったし、散々振り回された後だった。でも、もし自分の力でいい未来が観れたら、選べたらきっと好きなれるそう思った。

 触るときは何も怖くなかった。

 ただ、少しの緊張があるだけだ。

 触れると、その人の約5年分の記憶が頭に流れ込んできた。

 その時は1日寝ていた。





 目覚めると自分の部屋のベットの上だった。

 少しだるい体を持ち上げ、時計を見ると21時を少し過ぎたところを指していた。

 確か、沖前に接触したのが17時頃だったはずだ。だいたい4時間近く気絶していたことになる。

 起き上がると、尋常じゃないほど頭が痛い。思い切り頭を振られながら、頭を鈍器で殴られているようだ。

 俺はもう一度、ベットに倒れ込んだ。

 俺のみた未来。

 なぜだか来週の行われる、お祭りに二人で行く未来。

 そこからは、真っ暗な未来。

 俺は、これが起こる理由を知っている。

 真っ暗な未来がさすことは。


 その人物沖前の死を意味する。


 結局いろんなことが頭を回り、昨日は眠ることができなかった。もちろん、沖前を助ける方法だ。しかし、沖前がどのように死に至るのかはわからない。そこはみることができない。なぜなら、変わる可能性があるからだ。基本的には変わることのない未来は、変えることができる。それは、俺がみることのできないところだ。もちろん、相性もあるがみれない理由として確定していないことが大きい。

 だが、死の原因が直結していると思われる俺と沖前が一緒にお祭りに行く未来は確定している(その前はみえなかった)。その未来は、鮮明にみることができたからだ。

 俺は、お祭りに行くのを止めることはできないということだ。

 何か起きるとしたらお祭りだ。


 制服に着替え、リビングに行くとキッチンで洗い物をしている母が声をかけてきた。

 「おはよう。体調大丈夫?」

 「うん。今は大分良くなった」

 俺はテーブルに座り、置かれた食パンを食べる。テレビを観るといつもついている、情報番組がやっている。

 『まだ逮捕されていないと、不安は積もるばかりですね』

 テレビは、何やら隣町であった通り魔事件の報道がされているみたいだ。

 「それより、何かあったの?らんが倒れたのって、ずいぶん久しぶりじゃない?」

 母は心配そうに言うが、なんで倒れたかはすぐにわかったけど、と言った。

 「なんで外したの?家でも外さないのに」

 何故と言われても、理由なんて俺にもわからない。ただ、気付いたときにはそれが当然だったかのように外していた。

 そう、ごく自然に。

 「あんまり、心配させないでね」

 「うん」

 言葉は出ない。

 ただでさえ、このことで迷惑もかけたし常に心配もかけている。

 父は、俺の能力を知ると家を出ていった。

 『化け物。お前は俺の子じゃねえ』

 父が最後に言った言葉だ。今でも、ふとした瞬間に思いだす。そして、気を引き締めるいい呪いとなっている。

 しかし、母それでも俺を愛してこうして育ててくれている。母方の祖父が、土地持ちで不動産会社をしていて。金銭面でサポートしてくれている。また、祖父も俺を受け入れてくれている。

 「じゃあ、私仕事行くから。らんも無理そうなら学校に連絡するけど」

 「大丈夫」

 「そう?ならいいけど。じゃあ、行ってきます」

 母は最後まで心配そうだった。

 しばらくして、食べ終わり俺も家を出た。


 放課後、今日も図書委員で図書室にいた。

 しかし、今日の相方は沖前ではないので、ちゃんと来るかも怪しい。沖前以外の時はたいてい一人のことが多い。

 うちに学校は、部活か委員会に必ず入らなければいけない。そして、図書委員はとりあえず入ってまじめに取り組んでいる者はいない。

 まあ、基本誰も来ることはないのでいい。でも、この大量に残った返却図書の仕分けには骨が折れそうだ。夏休みが明日に控えているから延滞していた本たちの戻っていた。

 そして一つ心残りなのは、沖前のことだ。話すのも繋がりはここしかない。教室まで行ってもよかったが、今までそんなことはしたことなかった。どんな顔をして会いに行けばいいかもわからない。

 俺は俺が思っている以上に気が弱いらしい。実際、沖前の未来をみても一歩が出ない。このまま何もしなくても、勝手に何かが起こるのはすでに確定している。そう、なにもしなくても。

 俺はため息を一つつき、本を乗せたブックトラックに乗せて運ぶ。

 ガラガラ。

 すると、図書室の扉が開く音がした。

 珍しく、利用者かと少し目をやると違った。

 「ごめん遅くなった」

 そこには、少し息を切らした沖前がいた。

 「沖前今日当番じゃないだろう?」

 沖前は背負っていたリュックを、カウンターの見えない位置に置き、本の返却作業を始める。

 「なんか、中島くん用事があるからって代わったの」

 中島とは、今日本来相方に来る予定の男子生徒だ。

 「それより、昨日大丈夫だった?」

 落ち着いたように沖前は聞く。

 「ああ、軽い熱中症だった」

 俺は用意していおいた嘘をつく。

 沖前はそれを疑いもせず、胸を撫で下ろしたように、「よかった」とこぼした。

 「びっくりしたんだよ。いきなり倒れるんだもん」

 「すまない」

 「うんん。責めてるわけじゃないよ。ただ、心配だっただけ」

 「ああ」

 沖前はそう言う割には、落ち着いていた。いつも通り落ち着いて、笑っている。考えすぎかもしれないが、とても心配しているようには見えなかった。


 「ふー。終わったね」

 沖前は伸びをして、時計に目をやった。

 「もう、鍵閉めて帰ろっか」

 「そうだな」

 作業が終わったあと、何人かの生徒が来たが、その対応も終わりひとまずきれいな状態で夏休みに入れそうだ。

 夏休みに図書室の開放が、何回かあるがそれに一回出るだけでもうしばらく学校に来ることもない。

 結局、沖前とは昨日と同じような話しかせず進展はなかった。

 「鍵、職員室に戻しとくから先に帰っていいぞ」

 「いや、ついて行くよ」

 と言って、今は二人で職員室に向かっていた。

 「やっと、終わったね。もう、帰ってベットに倒れ込みたいよ」

 今日は、大した授業はなかったが図書委員の仕事が多く確かにいつもより疲れが大きかった。そもそも沖前は、当番でもなかったので気の持ち方的にそうだっただろう。

 「待ってて」

 コンコン。

 「失礼します」

 ノックをして、職員室に入る。

 「図書委員です。鍵を返しに来ました」

 「お疲れさん」

 長崎先生が鍵を受け取りに来た。

 「昨日大丈夫だったか?私が行ったときには、もう帰ってたけど」

 「はい。多分熱中症だったと思います」

 俺がそう言うと、少し安心したように手に持っていた青いファイルでポンッと頭を叩く。

 「気をつけろよ。私の監督不行になるからな。それに」

 長崎先生は廊下で退屈そうに待っている、沖前を見た。

 「お前が倒れたあと、沖前泣きそうになってたぞ。何とか保健室に運んできて、蒼白した顔で」

 その時俺を運んだのが沖前と知った。そんなこと、一言も沖前は言うことはなかった。

 「ちゃんとお礼するんだぞ」

 「はい。教えてくださり、ありがとうございます」

 「いいよ。じゃあ、また倒れるなよ」

 「はい、失礼しました」

 俺は、扉の前で一礼して職員室を出た。

 きっと、長崎先生が教えてくれなかったら俺を運んだ人なんて気にもしなかったし、沖前がそこまで心配していたのも知らないままだっただろう。

 未来がみえても、そこまではみることができなかった。たった、数秒後の未来を。やはり、不便な能力だ。

 「終わった?」

 「ああ、帰ろう」

 「うん」

 沖前は笑顔でそう言うと、俺の横に来て歩幅を合わせる。少しも前に出ることもなく。


 「沖前もこっちなんだな」

 「うん。私も徒歩通学なんだ」

 俺に家の方向は、駅とは反対側でてっきり学校を出たらそこで別れると思っていた。

 「俺を運んだの沖前だったんだな」

 「え?」

 沖前は目を点にして驚く。

 そして、自分でも驚いてしまう。そんな事聞くつもりはなかったが、気付いたときには口に出してしまっていた。

 「うん。ちょっと、重かったけど頑張っちゃた」

 沖前は恥ずかしそうに笑った。

 「目の前の倒れちゃって、すごい焦っちゃってさ。すぐに保健室に連れて行かないと、って」

 「すまなかった。迷惑かけて」

 「いいよ。それより、元気になってよかった」

 沖前はまた、はにかむように笑った。

 また、心臓がなる。沖前の笑顔を見ると、その顔が愛おしくなる。ずっと見ていたくなる。

 今までこんな事があっただろうか。俺が俺ではないみたいだ。

 「でも、恩は返したい」

 「いいのにな」

 少し困ったように笑う。

 「あ、これ」

 沖前の目に入ったのは、猿成神社の祭りの予告ポスターだ。ポスター赤い鳥居と本殿らしい建物が描かれていた。それはお世辞にも上手と言えるものではない。確かに地元の小学生が描いたと母が言っていた記憶がふと蘇った。

 「昨日も話してたな」

 「うん。私、お祭りって行ったこともなくてさ」

 少し惚けたように、呟く。

 「俺もないが、きっと楽しくなると思うぞ」

 正直俺は、祭りにはあまり興味がない。ただ、沖前は食い入るように目を輝かせながら見る。その姿は微笑ましものがある。

 「じゃあさ」

 沖前は、思いつたようにこちらを向き。

 「明後日、一緒に出かけない?」

 そういった。

 そしてまた、一つ未来が確定した。

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