第21話 謎

 

「状況を教えてくれ」

 ソフィアと共に駆けつけた先。集会所のベンチには、ララが横たわっていた。息が浅く、苦しそうだ。ララの母親と、老人が一人。足元には子猫が座っており、心配そうにララを見つめている。

「ララは、先程ワシの元にこいつを見にやって来ての。しばらく遊んでおったのじゃが、突然苦しみ出したのじゃ」

「この状態になってどのくらいだ?」

「まだ十分も経っていないはずです。たまたま来ていた若いもんが、ここまで運んでくれたのじゃ」

「ララ、ララ!しっかりおし!」

 母親の顔は真っ青だ。無理もない。先程まで元気におやつを食べて出かけて行った子供が、数時間後に倒れるなんて、夢にも思わないだろう。

「診察する。少し離れてくれ」

 ソフィアは持参したトランクから聴診器など取り出し、診察を始める。その間も、ララの意識は朦朧としている。

「ララ、私の声が聞こえるか。聞こえたら、瞬きをしてくれ」

 うっすらと開いたまぶたは、かろうじて二、三度瞬きをした。聞こえてはいるようだ。

「貧血にしては症状が重すぎる。それに、ララはきちんと食事を摂っている。その可能性はない」

「りょ、うしゅさま」

 ララがか細く呟いた。先ほどより少しマシになった顔色だが、やはり元気はなさそうだ。

「ララ、吐き気や頭痛はあるか?」

「ない、よ。けど、おかしい、の。ずっと、おなかがすいてて」

「お腹が?」

 母親と目が合う。先ほど俺もルークも、ララがしっかりおやつを食べたところを見ている。歳のころにしてはかなり量を食べていたように感じたが、それでも倒れるほどお腹が空くとは?

「ふむ。ここ最近の食事の様子を聞かせてくれ」

「あ、ああ。ちょうど昨日の献立メモを持っているよ」

 母親から渡されたメモを、ソフィアはじっと見つめる。平均的な家庭料理の材料だが、分量はかなり多い。

「ララは昔から、よく食べる子でね。大人よりも食べるんだ。おやつも頻繁に出しているよ」

「栄養バランスも整っているし、栄養失調になるはずはない。原因は一体」

 その場にいる全員が、この難問に頭を抱える。食べているのに、腹が減る?毎日三食きっちり食べている子供が、空腹で倒れる原因は何か?

「おにい、ちゃん」

 ララが、突然俺を呼んだ。後ろにはルークもいるのに、なぜか俺が呼ばれてると思った。ララのそばにしゃがんで、顔を合わせる。

「どうした、ララ?」

「ふふ、お兄ちゃん、そばにいるとあったかいの。それに、とてもいい匂い」

 へにゃり、と安心した顔でララは笑う。それを見ていたソフィアは、しばらく考え込んだ後、顔を上げた。

「ララ、口を大きく開けれるか?そう、そんな感じだ」

 ソフィアが何を確認したかったのか。その意図を、場にいた全員が知ることとなる。

 ララが懸命に開けた口の中。小さく並んだ歯の中に、人にしてはやけに尖った犬歯が光って見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る