第18話 キャンプ地

「で?次はどこに行くつもりなんだ?」

 エレストロメリアから出て数時間。日が傾き始めたので、近場のキャンプで一泊する。晩飯の準備をしていると、ルークが声をかけてきた。

「あ。言ってなかったか、悪りぃ。次はロイセンブルクに用があって」

 ロイセンブルクは、国にまるごと結界が張ってあるという、数ある国の中でも非常に特殊な場所だ。なんでも、数年前に王になったヴォルフシュティン十四世と、その弟君の偉業により実施されたものだという。国丸ごと守る結界なんて、作れる魔法使いはまずいないだろう。だが、それを成し遂げてしまったのが弟君だ。そのおかげもあり、国中の魔物の数が激減したという。弱い個体が精査され、強い個体のみが残っているということでもあるので、魔物には出会いたくないが。

「そこまで決まってんなら、話は早いな。どのくらいかかりそうだ?」

「今ここにいるから、関所までは十日くらいかな。ルーク、旅の物資はどのくらい持ってきたんだ?俺あんまり余裕持って買ってきてねぇぞ」

「十日はきついな。地図に載ってるこの街、一回寄った方がいいと思うぜ」

 ルークが指差したのは、ここと関所の間にある街だ。俺もルークも行ったことはない。

「賛成だ。ずっと野宿っていうのも、疲れるしな。休憩も兼ねて寄ろう。ここまでは、五日くらいか?そのくらいならなんとかなるか」

「ああ、オレの方もそれなら大丈夫だ。旅に出るって言ったら、街のやつが色々持たせてくれてよ」

 そういうとルークは、荷物から色々出してきた。食糧、着替え、武器の手入れ道具、その他もろもろ。慕われてる証拠だな。

「よかった、急に二人になったから、食糧を心配してたんだ」

「あ、これももらったぜ。後で食うか?」

 ルークが出したのはエリンの実だった。真っ赤な果実で、食べるととても甘いのだ。

「デザートってわけか、いいぜ。そろそろ飯もできる」

 今日の料理は干し肉と人参のスープだ。中に短いパスタを入れてある。まさか二人になると思ってなかったから、できるだけボリュームが出るように頑張ったが、果たして足りるか?

「おー、美味そうだな。オマエ、料理できるんだな」

「ルークはできないのか?」

「全く。そもそも下層暮らしじゃ、ろくに料理する環境なんてねぇし。焚き火で芋を焼くのがせいぜいだよ」

 それもそうかと思いながら、ルークの分をお椀につぐ。料理、特別得意なわけじゃないから、ちゃんと出来てるといいんだが。

「いただきます」

「んじゃオレも、いただきますっと。うん、美味いなこれ!」

「それならよかった。まだあるから、しっかり食っとけよ。明日も結構移動するからな」

 馬があるとはいえ、長旅は体力を消耗する。食事は重要な活力源だ。

「はは、ありがとよ。料理は、誰かに教わったのか?」

「ああ、村の料理上手にな。剣は用心棒に、料理や洗濯は村の主婦達に。魔法は親父からだな。思えば、みんないつかは俺がこうして旅に出ることを知ってて。それでたくさん、いろんなことを教えてくれたんだと思う」

 今の俺が路頭に迷っていないのも、村のみんなのおかげだ。お金の使い方も、馬の世話の仕方も。全部全部、村のみんなが教えてくれたんだ。

「随分愛されて育ったもんだな。その平和ボケした顔も納得だ」

「俺、まだそんな間抜けな顔してるか⁉︎」

「ははは、悪いこととは言ってねぇよ。オマエがそうやって育ってきたから、オレたちの街は救われたんだ。感謝こそすれ、否定はしねぇよ。ただまぁ、その綺麗なツラを狙ってくる輩は絶対にいるからな、気をつけろよ」

 悪いやつに騙されそう、ってことか?気をつけよう。

「ま、その辺はオレが注意深く見といてやるよ。あの街の下層で生き残ってきたオレの直感は、今後役に立つと思うぜ?」

「ああ、頼りにしてる」

 星が瞬いている。夜空に浮かぶ星座たちは、秋から冬へ変わろうとしていた。パチパチと焚き火が鳴く。

「食い終わったら、早めに寝るか。ルークは久々の旅だろ。ちょっと疲れたんじゃね?」

「初日から吹っ飛ばすと、後が大変だしな。そうするか」

 ざっくり片付けを済ませて、寝る準備をする。天使像の加護のおかげで、魔物の気配は遠い。安心して眠れそうだ。

「そんじゃ、おやすみ。また明日な」

「ああ、おやすみ」

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