第13話 武器屋

財布は返ってきたが、中身は空だ。一応警戒して中身を少なめにしといてよかった。旅先で道端の草を食う羽目になるところだった。

 盗んだ当の本人はケロッとしている。これだから盗み常習犯は!ルークの理由があってやってんだろうが、持ち主の前で堂々と使うか?

「まずはどこ行くかな。オマエ、武器や防具は新調する予定あるか?この街の武器屋はいい腕の鍛冶屋の直営だから、刃物に関しては文句ない造りだぜ」

「ああ、武器屋があんのか。それならちょっと見たい」

 買うかはともかく、道中で魔物を倒した時の拾い物を換金したい。

 そういう性質なのか、魔物によっては貴金属の類や珍しい薬草なんかを所持していることがある。お金そのものってこともある。倒した魔物によっては報奨金が出ることもあるから、その事務処理をしておきたい。村だと中々やれなかったからなぁ。

「ならこっちだな。二か所あるけど、オマエの獲物的に大物が多い方がいいか。迷子になるなよ」

 街の構造は、少し入り組んでいる。メインの通りは大きいが、少し外れるとかなり狭い道になる。城壁がある以上、拡張できる敷地にはどうしても限りがある。その中にみっちり建物が建っている感じだ。しばらく着いて行くと、こじんまりした商店街に出た。奥の方に武器屋の看板が見える。お目当てはここらしい。

「親方ー!いるかー?」

「おう、なんだルークじゃねぇか!ここに来るなんて珍しい。お前さんの使いそうな小型の得物はねぇぞ?」

「いや、今日はオレじゃなくてな。ロード、このデカイのがここの主人だ。って、オマエもデカかったな」

「なんだ、新入りか?にしては綺麗な身なりだが」

「何、ただの通りすがりの協力者ってとこだ。こいつの得物がデカイから、この店がいいかと思ってな」

 店の中を見渡す。飾ってある剣や槍は、どれも大振りのものばかり。シンプルでしっかりしていて、長く使えそうだ。

「今持ってる得物は大剣か。ちょっと見せてもらっていいかい?おすすめを紹介しよう」

 手持ちの剣を渡す。主人は状態をしっかり見た後、店の奥から色々出してきた。今のものに近いものから、もっと大きなものまで。どれも綺麗な剣だ。

「にーちゃん、もしかして今のサイズだと物足りなくないかい?使い込んだ形跡を見る感じ、ガキの頃から持ってるだろ、これ」

「そこまで分かるのか?五、六年前から使ってるから、もう少し大きくても良いなとは思ってて」

 村で手に入った剣の中では一番大きかったのだが、成長するにつれてもう少し大きくてもいいなという思いがあった。流石ちゃんとした武器屋だ、すぐに見抜かれた。

「ガキの頃からこのサイズを振ってたなんて、大したもんじゃねぇか。ルークには振れないぜ、剣に振り回されちまう!」

「うるせぇな、オレはオレのスタイルがあんだよ。まぁ、否定はできねぇけどな。そっちの剣なんて、オレの身長と変わらなくないか?」

 ルークは特別小さいわけではないが、大剣を振るうには華奢だ。確かに、あまり向いていない武器かもしれない。普段持ってるものは、短剣のようだし。

「そうだな、俺のおすすめはこれとこれだな!にーちゃんくらいでかけりゃ、どっちでもいけると思うぜ。こっちはどシンプルに重さ重視、こっちはちょっと軽めでぶん回しやすくしてある。今のより重めにしたけりゃ、こっちの重い方がいいかもな」

「持ってみていいか?」

「ああ、もちろん!狭いから素振りはできんが、グリップの調子なんかは分かると思うぜ」

 試しに持ち上げてみる。どっちも持った感覚は良い。長さも重さも以前のものよりずっと大きいが、慣れれば使いやすそうだ。

 悩んだ末、重い方に決めた。今までの剣は下取りすると言われたので、そちらを預ける。ついでに換金したかった物を売り、店を後にする。

「中々様になってるんじゃないか?しっかしデカイ剣だなほんと」

「今までのよりかなりデカイが、こっちの方が武器を活かせる気がする。連れてきてくれてありがとな」

「良いってことよ。これから一緒に戦うんだ、万全の状態であってもらわねぇとな?」

「ああ、それで思い出した。道具屋もあるか?傷薬足しとこうかと思って」

「それはオレも考えてた。行くか」

 出会いは悪かったが、話していくうちに不思議と気が合うなと気づく。思えば村では、ルークのような同年代の人間はいなくて、すごく年上か年下しかいなかったな。

 道具屋も何軒か周り、必要そうなものを揃えた。村で見たことない木の実やお菓子があって、見ているだけで楽しかった。

「さて、他に行きたいとこはあるか?」

「いや、大体買い物は済んだな。ありがとな」

「オレがやりたくてやったことだ。んじゃ、そのついでで良いところ連れてってやるよ」

 そう言ってルークが向かった先は、街の城壁だった。前に俺が見た壁のように色が違う部分がある。下層に行くのか?

 ルークは壁面を押し込み、中に入った。着いていくと、中には上への階段が。上?それも結構な長さの階段だ。先を行くルークに着いて行く。

「さ、着いたぜ。ちょうどいい時間だ、見てみろよ」

 ようやく階段を登り切った先。出口をくぐると、そこは城壁の最上部だった。この街を見渡せる一番高いところ。なるほど、ここは見張りのための高台だったのか。傾き出した太陽が、街をオレンジ色に染めていく。乾いた風が頬を撫でた。もうすぐ冬が来る。

「オレは、この街が気に入っている。この景色もそうだが、やっぱり生まれ育ったところっていうのは、特別なもんだ。……それを、たった一人の過ちで失いたくない。ましてそれが、魔物の伸ばした手の一部ならなおさら。オレが叛逆の狼煙のろしを挙げた、一番の理由さ」

 夕日に照らされたルークの顔は、大人びていた。守るべきもののために立ち上がったその姿は、物語の英雄のようで。

 数日前までいた村のことを思い出す。魔物は、一瞬で平和だった場所を破壊した。もし領主が魔物と繋がっているのであれば。この街も同じ結末を辿るかもしれない。それだけは、阻止しなければ。この街にきてほんの少し。ほんの少しだけれど、それでも。ここに今日俺がいることは、そういう運命とか、えにしとか呼ばれるものの一つなんだ。

「お前の強さで誰かを救ってやってほしい」

 親父に言われたことを思い出す。これは、その約束を果たす初めの試練なんだと思う。

「さて、そろそろ戻るとするか。長居すると冷えちまう。……どうした?」

「あんた、やっぱかっこいいな。英雄の目だ。アキが慕うわけだよ」

 ルークは困った顔で笑い、そっぽを向いた。言われ慣れていないのか、少し動揺した様子だ。

「はは、なんだよ急に。オマエこそ、勇者みたいなツラしてるぜ?」

「そりゃドーモ。そう見えるなら、嬉しい限りだけどな」

 なにせ、これから本当に勇者として旅をしなければならないのだ。いつまでも間抜けな顔と言われていちゃ困る。

 高台から出る前に、街をもう一度見渡した。もうすぐ紫に染まって、最後に藍になる。その景色を、これから守りに行くんだ。そう決心して。

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