第12話 朝食
「よう、昨日ぶりだな?騎士様よぉ」
「……なんでここにいんだ?」
店に入ると、昨日見た顔があった。ルークだ。アキは一緒じゃないようで、姿がなかった。
「なぁに、俺の情報網にかかればオマエの泊まってるとこなんて一発で分かる。この街でオレに知れないものはねぇんだよ。ま、こっち座れ。女将には話を通してある」
「はぁ。じゃあ、遠慮なく」
ルークの向かい側に座る。四人掛けのテーブルには、すでに空の皿がいくつか。食べたであろう当の本人は、コーヒーを啜っている。適当に朝定食を頼んだ。
「せっかくだから、オマエにこの街を案内してやろうかと思ってな。迎えにきたってわけだ、光栄だろ?」
「まぁ、確かに結局あんまり回れてねぇけどよ。他になんかあるんじゃねぇの?アキがいないし、あいつの前で話しづらいことなのか?」
「……ふーん、お見通しってわけか。オマエ、見かけの割にちゃんと見てんな」
「俺、そんなに間抜けな顔してるか?」
「平和ボケした顔ってとこかな。でもまぁ、腕は確かだろ。やるときゃやれるタイプだ。だがまぁ、これから長い旅をするなら、ちょっとはシャキッとした方がいいと思うぜ。その綺麗なツラじゃ、どんなもんが寄ってくるか分かったもんじゃねぇし。……話が逸れたな」
料理が届く。綺麗に焼かれた目玉焼きに、柔らかいパンが二つ。コーンスープもついてきた。朝には充分だ。
「アキの父親が、今回のターゲットって話はしたな?この街の誰もが、更生を望んでいる。魔王を信仰する宗教。その一端に触れている、って話だ。本当かどうかは開けてみねぇとわかんねぇがな」
「一応聞くんだが。領主は黒いロザリオを持っていたりするか?」
「ロザリオ?さぁ、アキからは聞いてねぇな。なんかあんのか?」
俺は黒いロザリオについて説明した。ルークの顔が険しくなる。
「つまり、もしアイツがそれを持っていた場合、取り返しのつかないことになるかもしれねぇってことだな?」
「ああ。持ってないことを、願うばかりだな」
「もし、仮にアイツがそれを持ってたら。たとえアキの前であっても、やるべきことはやらなきゃならねぇ。それは、オマエも分かってるな?」
俺を見るルークの目は真剣そのものだ。領主が道を踏み外していた時。この街のために、そしてアキの未来のために。
「斬れるさ。だが、そうならない最善は尽くすつもりだ。あんたもそうだろ?」
即答すると思っていなかったのか、ルークは一瞬驚いた顔をし。すぐに声を上げて笑った。笑い方、ちょっと悪人っぽいな?
「ははは、その答えを待ってたぜ!オマエに頼んだアキの目は、間違っちゃいなかったようだな!あー……オマエならなんとなくそう答えると思ってたが、いざ現実になると笑わずにいられねぇな」
「そ、そんなにか?」
「覚悟の決まり方が、ポッと出の田舎もんじゃねぇって話だ。オマエ、実は勇者だったりするか?はは、んなわけねぇか!」
その言葉にドキッとした。バレて困るものではないが、なんとなく事実を告げづらい。何より、己が本当に勇者という確信も覚悟もない状態で、それを名乗りたくなかった。
「さて。話は済んだし。飯は食えたか?街を回って、それから大仕事が待ってんだ。腹空かせてちゃツラいぜ?」
「本当に街は案内するんだな?」
「嘘は言わねぇよ。それに、まぁなんだ。ここはオレが生まれた街だ。流石に悪い印象だけ残していかれるのは、納得いかねぇからよ」
悪い印象?と思ったが、おそらく領主のことだろう。どんな物語にも、現実にも。最低な領主というものはいるものだ。別にそれと街の人々は別物だし、気にすることはないのだが。案内してくれるというのであれば、そうしてもらおう。
「女将、お勘定!」
「ごちそうさまでした。……あ!待て、こら!それ昨日盗んだ俺の財布じゃねぇか!ちゃっかり使ってんじゃねぇ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます