第9話 アジト
小さな小屋にたどり着いた。強い風が吹けば倒れそうな造り。けれど、この下層部の建物は、すべて似たようなものだった。天井も低いので屈みながら中に入る。背が高い方の俺には、ちょっと窮屈なサイズだな。
「着いたよー。おにーちゃん、どうぞー」
「っても、オレのアジトなんだがな。椅子も何もないが、まぁ適当に座れ」
「ああ、邪魔するぜ」
敷かれた
「まず、名前を聞いとくか。オレはルーク。この辺りでそう呼ばれてるってだけだ、好きに呼んでくれ。こっちはアキ」
「よろしくね、おにーちゃん!」
「ああ、よろしくな。俺はロード」
「ロード?御大層な名前だな」
「かっこいいね!」
ルークは絶対小馬鹿にしてんな?いや、俺も御大層な名前だなと思うけどさ。アキの視線が眩しい。
「自己紹介、ってわけじゃねぇけど。オマエの身の上を聞かせてくれ。これから話す内容は、人を選ぶからな。ダメだと思ったら速攻叩き出す」
「はぁ。それじゃあ、ちょっと長くなるけど」
俺は自分の村のこと、村が魔物に襲われて一人だけ生き残ったこと、村を襲った元凶であろう魔王について情報を集めていること、そのためにこの街に来たことを説明した。勇者であることは、黙っておいた。初対面で聞いても困るだろうし。話をしていくうちに、二人の顔がどんどん険しくなっていき。話が終わることには、アキがとうとう泣き出してしまった。
「わ、悪りぃ!怖かったか⁉︎できるだけ淡々と話したつもりなんだが」
「おにーちゃん、ここまで悲しい思いをしてきたんだなって思うと、僕も悲しくなっちゃって」
「どこぞのお綺麗な騎士様かと思ってたが。オマエも苦労してんだな。さっきは悪かった」
まさか同情されるとは。本当に時計と財布を盗んだやつと同じか?──実はいいやつってことか。そんな二人が置かれている状況は、見過ごせるものじゃない。
俺にできることは、何かあるだろうか?
「オマエの事情もよく分かった。その上で、なんだが。もしかすると、オレたちがやろうとしてること、案外オマエにも悪くない話かもだ」
「と、いうと?」
「今領主は誰も自分のところへ来れないよう、家に引きこもってんだが。噂だと、怪しい宗教にお熱って話でな。その宗教っていうのが……魔王を崇めるものって話だ」
「!」
思わずルークを凝視してしまった。魔王を崇める宗教?なんだそれは?しかも、その宗教の信者が、この街の領主だって?もしかすると、村を襲ったあの魔物の男は、同一人物?頭の中で情報が混線する。そんな俺を見て、人の悪い顔でルークは笑う。
「な?オマエにも関係ありそうだろ?続き、聞いていくか?今なら戻れるぜ」
「聞くさ、聞いておかなきゃなんねぇと思うし。何より。あんた達が何か困ってんなら、見過ごすのも気分悪いしな」
親父と話したことを思い出す。俺の力は、困っている人のために使うと約束したんだ。
「いい返事だ。オレたち……正確には、この街の住民と結託して、領主の家に殴り込みにいこうとしててな。この下層の住民はもちろん、上層の住民も明日は我が身ってわけ。まぁ、それでも結託できたのは、アキの存在が大きいけどよ」
アキの方を向くと、にっこりと笑い返してくれた。きちんと背筋を伸ばして座る彼の口から、次の話がこぼれる。
「領主は、僕のお父さんなの。お父さんを、元に戻して欲しくて。それでここまできて、ルークにーちゃんに出会ったの。ルークにーちゃん強いんだよ!ここにきた時怖いおじさんに囲まれてたんだけど、シュババーってたおしちゃったの!」
怖い思いをしたはずなのに、アキの目は輝いている。どうやらルークの勇姿が、より記憶に残っているみたいだ。よほどかっこよかったのだろう、その表情は英雄に憧れるそれだった。
「あれは、子どもから金を巻き上げようっていう根性の悪いやつらだったからな。だがまぁ、おかげでアキと接点ができて、こうして領主への殴り込みに繋げられそうなんだが」
「僕頑張ったんだよー!お父さんにバレないように、街のみんなにこっそり協力を頼んだんだ!」
えらいでしょ!と言わんばかりに胸を張るアキ。その姿は、子ども相応で。だが、アキは本当にそれでいいのだろうか?実の父親だというのに。それが顔に出ていたのか、アキは続けて言う。
「お父さんのこと、好きだよ!でも、今のお父さんは嫌い。みんなのことを考えてた、かっこいいお父さんに戻ってほしいんだ!」
この年齢でそこまで考えて行動する力に、素直に感心した。同じ歳のころの俺、もっとボケーっと生きてたなー。
「作戦決行は明日の夜になってる。……侵入ルート確保や、警備の目を欺くための陽動の手は足りてんだが。肝心の潜入戦力がオレくらいしかいなくてな。そこで、お前に力を貸して欲しい。オマエ、多分強いだろ?目ぇ見りゃ分かる。ちゃんと戦ったことのあるやつの目だ。それに、話を聞く限り魔法もいけるみたいだし。魔法が使えるやつなんて、ここにいないからな。それだけでも重宝するってもんだ」
「ああ、魔法が使えるって珍しいんだっけ」
俺も親父も当然のように使えたから忘れていたが、魔法が使える人間はそう多くはない。村では親父と俺しか使えなかった。どうやらここにいる二人も、魔法は使えないようだ。
「協力するのはいいんだが、本当にいいのか?俺が混ざって。こう、何だこいつって後で仲間内で揉めないか?」
「ああ、それは心配すんな。オレが良いって言えば他も良いって言う。そう決まってんだ、ここじゃあな。この下層部の指揮は、オレがとってるからな」
どうやら、この下層部でルークの右に出るやつはいないらしい。俺と同じ歳のころだと思うが、随分しっかりしている。下層部にいた他の人間たちを思い出す。皆死んだ魚のような目をしていたが、ルークだけは爛々と輝く青い目を持っていた。なるほど、アキが憧れの眼差しを向けるわけだ。確かにこいつはカッコいい!
「具体的な作戦の話をする。いいな?」
俺が頷くと、ルークは詳しい作戦の内容を説明し出した。
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