第7話 階段

「はー、でかい街だな!」

 約五日ほどかけて、目的の街に到着した。道中魔物に遭遇する度、村のことが頭をよぎったが、なんとか振り切ってここまで辿り着いた。優秀なパトリシアがいたから、あの魔物の群れを切り抜けられたが。そうではない村の人たちは、きっと今頃。いや、この話はやめよう。思い出すだけ悲しくなるだけだ。

 城塞都市エレストロメリアは、その名の通り街の周囲が高い壁で囲われた形状をしている。街に魔物が入ってくるのを阻止するためのものだそうだ。結界は別にあるらしいが、物理的にも障壁があるのは昔の名残らしい。この国は、三百年前には別の国だった。魔王の襲来により滅亡したのだという。その中でもこの街の城壁は堅く残ったため、今でも利用されている。

「人も多いな」

 この街にくるのは初めてだったので、改めて人の多さに驚く。話には聞いていたけれど、こんなに広いとは。街の至る所に出店が並んでおり、建っている建物も立派なものが多い。三階以上の建物もある。村じゃ村長の家が二階建てなくらいで、縦にでかい建造物はあまりお目にかかったことがない。作りもしっかりしていて、装飾も綺麗だ。道もしっかり舗装されていて、歩くと石の硬い感覚がする。なんとか宿屋を見つけて、パトリシアと荷物を預ける。久々にちゃんとした馬小屋で休ませてやれることに、ホッとする。ずっとキャンプ生活だったからな。ここの宿、宿もでかいけど馬小屋もでかいな。他の人の馬も沢山預けられていて、繁盛している様子だ。村にいたときはこんなに馬がいなかったので、パトリシアも心なしかソワソワしている気がする。

「……さて。せっかくだし、ちょっと街の中歩いてみるか」

 何はともあれ、話を聞くのが先決だ。村では行商人の情報くらいしかなかったが、ここなら色々魔王への手がかりがつかめそうだ。

 どこから行こうか考えていると、前から来た人にぶつかってしまった。人が多いところに慣れてないから、やってしまった。

「わ、わりぃ!どこも怪我してないか⁉︎」

 ぶつかったのは俺と同年代くらいの青年だ。顔はフードに隠れてよく見えなかったが、チラッと見えた青い目がやけに目をひいた。

「ああ、なんともねぇよ。こっちこそすまなかったな。急いでたもんで」

「いや、怪我がねぇならいいんだ。悪かったな」

 向こうに怪我がなさそうで安心する。相手は本当に急いでいる様子で、そのままどこかに行ってしまった。俺も特に気にすることなく街の探索を続行する。

「いらっしゃいませー!新鮮なお魚ご用意しています!いかがですかー!」

「へい、らっしゃい!今日は東国から取り寄せた珍しい装飾品が入ってるよ!見てってくれよ!」

 少し行くだけで、いろんな出店から声がかかる。今日は買い物をしに来たわけではないので、心惹かれつつも眺めるだけにする。買い物をする方も売る方も、キラキラと眩しい。活気のある街だな。特別なお祭りをやっているわけではないと聞いたし、毎日こんな感じなんだな。

 しばらくそうして街を歩いていたが、途中ではたと違和感に気づく。……鞄、なんか軽くね?

 慌てて中身を確認する。財布!財布がない!それだけではなく、親父の懐中時計も無くなっている。

「あー……さっきのやつだな」

 大きな街ではよくあることだが、どうやら先ほどの青年は盗人だったらしい。油断した!くっそー、田舎者感が溢れ出てたかなー。

 財布はまだしも、親父の懐中時計はなくすと困る。あれは大事なものだ。もう会えないかもしれない親父の、最後に受け継いだものなのだ。街の探索は一旦やめて、青年を探すことにする。

「……といってもなぁ。顔見えなかったし。どこ探せば見つかるかな」

 ただでさえ初めてくる街で、顔もろくに覚えていない相手を見つけるのは難しい。うーん。

 考えながら歩いていると、街の端まで来ていた。蔦の絡まった城壁は、かなり年季が入っている。壁を何気なく眺めていると、壁の色が違うところを見つけた。ここだけ修復したのだろうか?それにしても、なんだか不自然なような。不思議に思って壁に触れると、風が通る気配。んん?もしかして。

 壁を思いっきり押し込む。すると、色が違う部分だけ奥に動いて、空洞になる。壁の中、入れるようになってんのか!

 中を覗くと、下に向かう階段が。思ったより深くないようで、一番下まで見える。

 どこに続いてるんだろ、これ。一度気づいてしまったものは、どうしても気になってしまう。思い切って下に降りてみるか。

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