28.新しい習慣

身も心も結ばれ、晴れて本当の夫婦になってからの一週間はとても穏やかだった。

しかし、月が半分満ち始めた頃、アーサーの私への態度が変わり始めた。

私を見つめる瞳には愛情も感じられたが、それ以上に欲が見えた。


既に何回も身体を重ねているが、今では初めての日ほどの激情はなく、優しく愛情のこもった抱き方になっていた。だが、その時以上の欲情を感じさせるような激しいものに変わってきたのだ。そして、何かを必死に耐えている・・・。彼の欲を必死に受け止め、恍惚感に溺れながらも、私は愛する人の表情を見過ごさなかった。


「お辛いですか・・・?」


二人して果てた後、一糸まとわぬ姿で抱き合ったままベッドに横になり、私はアーサーの頬を撫でた。


彼の瞳からはまだ私を求めているのが見て取れる。でもそれは肉の欲求ではない。恐らく血の欲求だ。


「・・・すまない。辛いのは貴女の方なのに・・・。こんなにも乱暴に抱いてしまって・・・」


私は微笑みながら首を振った。


「・・・もうすぐ月が満ちる・・・。すまないが明日から私とは距離を取って欲しい・・・」


「・・・」


「特に夜は・・・。満月の夜は絶対に傍にいては駄目だ」


「分かりました」


「・・・分かったのか・・・」


あっさり頷く私に、アーサーの眉が八の字に下がる。


「寂しいと思うのは私だけか・・・」


そう呟くと、拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

私は彼の逞しい胸板にスリスリと頬寄せると、


「私だって寂しいですわよ。それどころか、ここの家に来てからずーーーっと寂しかったのですからね!」


上目遣いに彼を見た。


「そ、そうだった! すまない!」


アーサーは慌てて私に振り返った。相変わらず、すぐ敗北する。チョロイ奴め。

ニマニマと笑っている私を見て、軽く溜息をつくと、私の額にキスをした。


「本当に貴女には敵わないな」


そう言うとギュッと私を抱きしめた。





アーサーに言われた通り、翌日から暫く―――月が半月になるまで―――距離を置くことにした。

朝食だけは共にするが、夕食は避けた。


何の事情も知らない使用人たちは、我々夫婦の冷戦がまた始まったのかと戦々恐々としていたが、夕食と夜を共にしないこと以外、仲睦まじい姿を見て首を傾げている。

侍女のメアリーも訳が分からないとばかりに、不安そうに私の様子を伺っている。


だが、この秘め事はそう簡単に話せるものでもないのだ。

使用人の中で全ての事情を把握しているのは、執事のマイクとメイド長のアリスのみ。この二人は夫婦だ。息子は先代レイモンド侯爵の現執事で先代と共にレンモンド領地にいる。孫はアーサーの専属従者。しかし、この孫にはまだレイモンド家の秘密は明かされていない。


アーサーの従者にも明かしていない秘密をメアリーに話すわけにもいかないのだ。

やりづらいな~と思いながらも、素知らぬふりをして日々を過ごしていた。


そうしているうちに、月の半分が欠け始め、私たちはまた夕食も夜も共にするようになった。

二週間ほど少し距離を取っていた分、輪をかけて私を溺愛するアーサーに、使用人たちはさらに首を傾げている。

メアリーも益々困惑した様子だ。


「あんなにデレるんだったら常に奥様を大切になさればよろしいのに・・・。二週間も放っておかれていたくせに・・・」


誰とは言わないがポロリと文句を言うメアリーに密かに焦りを感じた。

レイモンド家に来てからメアリーは私に本当に良く尽くしてくれ、アーサーとの仲が深まったことを誰よりも喜んでくれた人の一人だ。

朝や昼は程よい距離を保ち、それなりに仲良くしているところを見ているはずなのだが、夜に夕食を一人で食べている姿と一人で寂しく寝る私を見て、再びアーサーに突き放されたと勘違いして、一人怒りを抱えていたようだ。


アーサーの従者のトムとメアリーにだけは秘密を打ち上げた方がいい気がすると思いながらも、この新しく始まるルーティンにいつの間にか慣れてくれればいいなと期待して、なかなか打ち明けられずにいた。


こうして、月半分は二人の距離を置くという新しい生活がスタートしたのだった。

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