魔都ガラ・ルーファ(七)

「ザイドフリードさん、あなたは子供ですね」


「なに?」


「ただ闇雲に力を求めて、力を持て余して、その力で何をしたいかもわからず、ただ振るうだけ。自分が傷つきたくないばかりに人を傷つける、可哀想かわいそうな子供です」


子供ガキが!言わせておけば調子に乗りやがって!」


 ドラゴンを思わせる巨体から溢れ出した悪意が黒い炎となって吹き付けるかのようですが、もう怖くはありません。この人は自分の思い通りにならないことが嫌で暴れているだけの、ただの子供なのですから。




「【覚醒リベレーゼ黒の大鎌ファルチェ】!」


 魔龍公とすれ違う直前に闇の翼ドルアーラを解除、黒の大鎌ファルチェを一閃。互いに体を削り合ったようですが、魔貴族たる身には大した傷ではありません。

 再び闇の翼ドルアーラを広げて急旋回。二度、三度、四度とすれ違いざまに傷つけ合って、お互いの体から赤い血が流れ落ちていきます。これではもしかすると、体の小さな私の方が先に倒れてしまうかもしれません……そう思った時。


「一人で背負うんじゃないって言ったわよね!弟子のくせに!」


 フリエちゃんの魔法が呼び寄せた木の葉が、木の実が、下草が、魔龍公にまとわりつき、その視界を奪います。


「あーしにもらせろし!」


 風を裂いたイブの尻尾が巨体を捉え、私に向けて打ち上げられました。

 そうです。私一人で勝てなければ、みんなに助けてもらって良いのです。私は自分が弱いことを認めることができるオトナなのですから。


「【覚醒リベレーゼ夜の大剣グラディース】!」


「お前らのような子供ガキに何がわかる!どいつもこいつも消えて無くなれ!」


 所有者の質量を操る夜の大剣グラディースの力を解放。最大質量で落ちる私と、打ち上げられた魔龍公が宙で交差。灼熱の龍の吐息ドラゴンブレスに全身が包まれたのと、大剣が存分に胸の鱗を切り裂いたのは同時でした。


「ふう……あとはお願いしましゅ……」




 家宝の短剣を手放して落ちていく私を受け止めてくれたのはイブでしょうか、それともフリエちゃんでしょうか。もう疲れたので目を閉じてしまおうかと思いましたが、私には最後まで見届ける責任があります。そう思い地上に目を向けると……


「俺は逃げねえぞ、格好悪いからな!」


 そう宣言してエミーロ君が突き上げたのは、彼が尊敬していたマエッセンの長剣。骸骨騎士スクレットの魂は人族ヒューメルの若者に受け継がれ、魔龍公ザイドフリードの心臓を貫いたのです。




 濛々もうもうと土煙が上がる中、しばしの沈黙。心臓を貫かれて地面に落ちた魔龍公の巨体がもぞりと動きました。


「ぴゃあ!」


 私は驚いて変な声を上げてしまったのですが、違いました。魔龍公がまだ生きていたのではなく、アイナさんが大きな体を使って地面との間に隙間を作ってくれていて、そこからエミーロ君が這い出してきたのです。


「どさくさに紛れてアイナのおっぱい触ってんじゃないわよ!エロガキ!」


「さ、触ってねえよ!」




 ……やがて侯爵様のお城の一角から白い敷布シーツが覗き、大きく振られました。別動隊と一緒に行動していたシャルナートさんが侯爵様の身柄を確保したのです。


 後で聞いたところでは侯爵様はただ一人、誰もいない広間で玉座に座っていたといいます。

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