魔都ガラ・ルーファ(五)

 地上の戦いは終わりを迎えようとしていましたが、空においては未だに龍の支配が続いています。

 龍人族を軽くあしらっていたイブとフリエちゃんですが、魔龍公となったザイドフリードさんに対しては苦しい戦いが続いていたのです。




「クッソこいつ、人族ヒューメルだったくせに!」


「魔龍公の娘か?こいつはいい、誰に心臓を喰わせてやろうか」


 青龍刀を軽くかわした魔龍公が身をひるがえし、頭上からの龍の吐息ドラゴンブレス。もしイブが人族ヒューメルなら消し炭になっていたことでしょう。炎に耐性のある彼女でさえ無傷では済まなかったようで、顔の前で交差させた両腕が焼け焦げています。これではもう青龍刀を振るうことは難しいかもしれません。




「ザイドフリード!とうとう堕ちるところまで堕ちたみたいね!」


「ザイドフリード先生、だ。お前は何度言ったら……」


「アンタなんか先生じゃないわ!先生っていうのは偉いとか長く生きてるとかじゃなくて、黙っていても尊敬される人のことを言うのよ!」


「一番生意気だったのはお前だ!ガキが!クソガキが!」


子供ガキだから何だっていうのよ!尊敬されたいならそういう行動をしなさいよ、大人のくせに!」


 言葉では完全に言い負かしたフリエちゃんでしたが、力ではそうもいきません。魔龍公の力に加えて魔法まで使うザイドフリードさんには到底かなわず、正面から撃ち合った【火球ファイアーボール】の余波を受けて吹き飛ばされてしまいました。


「思い知らせてやるぞ、クソガキ」


 フリエちゃんを捕まえようと右手が伸ばされます。それは黒い鱗に覆われ、鋭い鉤爪が生え、もはや人の手ではありません。

 爬虫類のような瞳、口の奥から鋭い牙が覗く顔に浮かぶ残忍な表情。一瞬そんな事をしてはいけないとも思ったのですが、嫌悪感に任せてその顔を思い切り蹴り飛ばしてやりました。黄色く濁った目がこちらに向けられます。


「そ、そうは問屋がおろしません! わ、私が相手です!」




 なぜでしょう。「また変な言葉使いやがって」と、この場にいないシャルナートさんの声が聞こえるようです。

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